夕神詰め合わせ
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《カゼのような》
「た゛ま゛り゛な゛ァ゛!」
掠れて聞き取りにくくなった彼の決め台詞。
新人弁護士からしたら凄みがあるようにしか見えないけれど。
(喉、辛そうだなぁ)
彼のもとで事務官を勤める私は流石にわかる。
風邪っぽいんだな、って。
『…夕神検事、調子悪いなら代わって下さい』
「声が出づれェくらいで裁判代われるかよ、…ゲホッゲホッ!」
『はぁ、それで裁判で叫んで喉潰しちゃった方が困ると思いますけどね』
「ちっ」
『まったく…』
裁判所から執務室への帰り。
風邪っぽさを追求すれば、罰の悪そうな彼。
そっぽを向いたが、相変わらず咳込んだり痰が絡んだりしている。
『はい、嫌いじゃなければ』
「…お前、持ち歩いてんのか?」
『たまたまです』
「はっ、女の鞄は何でも入ってるな」
鞄のポケットから取り出したのはお気に入りののど飴。
この時期なら割と多くの人が持ってると思われるそれ。
『じゃあ、何でも入ってるついでに。どうぞ』
「…」
『お昼のデザートにどうですか?ビタミンとれますよ』
続いて取り出したのはミカン。
ビタミンCは風邪予防や免疫を上げる作用がある。
「準備良すぎやしないか、お前さん」
『たまたま、では通用しませんか?』
執務室に着いて、デスクを挟んで向かい合った。
不審に思ってるのが顔にありありと出てるのを見て、思わず笑みが零れた。
『くくっ、のど飴は昨日の夕方買いました。ちなみにミカンは2つ持ってきました』
「…おい」
『検事、昨日から喉の調子悪かったの、自分で気づいてなかったんですね。ふふっ、有り難く受け取っといて下さい』
ああ、楽しい。
心理学を専攻する彼は、自分や人の心がわかっても、体のことは中々気づかないみたいだ。
「ただの仕事仲間に、随分尽くしてくれるじゃねェか」
『そりゃあ、大切ですから。貴方のこと』
そして、私は彼が考えてることは大体解る。
今彼は私の真意を確かめようとしているんだろう。
本当に、ただの仕事仲間…って思ってるかどうか。
「大切ねェ…ありがてェこった」
『そう思うなら、今度私が具合悪い時は大切にして下さい。後、自分の体調管理も』
だから敢えて、ギリギリな返事をする。
間を置いたりせず、できるだけ自然に。
「その言い方だと他の奴らは勘違いするぞ」
『勘違い、とは?』
「馬鹿にしてんのか」
『まさか。私は貴方に風邪をひいて欲しくないだけです』
「大切な仕事仲間だから?」
『えぇ』
貴方が風邪をひいて休んだら、私の仕事が増えるじゃないですか。
「…お前さん、掴み所ねェなァ」
『そうですか?あ、これもあげます。洗って返して下さいね』
「あ?」
『生姜湯。温まりますよ?』
「…」
手渡したのは、小さな水筒。
「…お前、いい嫁になるな」
『じゃあ貰い手いなかったら押しかけるんで、よろしくお願いします』
ぼそっと呟かれた言葉に、笑いながら軽く返した。
本当に貰ってくれればいい、なんて思いながら。
でももう少し、この片想いを楽しみたくて、なんでもないように返したのに。
「それが勘違いさせんだよ」
『勘違いじゃないかも知れませんよ?』
「…どういう」
『貴方の嫁にならなりたいという意味しかありませんが、どう勘違いするんですか?』
なんだかまどろっこしくてそう切り返してしまった。
鳩が豆鉄砲を食らった顔というのは、今の彼に当てはまるに違いない。
眼を丸くしてるんだろうが、おそらく睨んでるようにしか見えないだろう。
「…さっき大切な仕事仲間だって」
『それは事実です。そして、片想いの相手であることも然り』
「なら今から変えろ。片想いから、こいび『検事』」
「…」
『続きは風邪が治ってから聞きます。せっかくの告白、風邪声で聞きたくないので』
「…雨月、お前本当」
掴み所ねェよ。
カゼっぴきな彼と
カゼのような彼女。
Fin.