夕神詰め合わせ
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《優しい鬼上司》
『よ、久しぶり夕神。執務室が決まったっていうから、挨拶に来たよ』
「久しぶりだなァ、羽影の姐御。またその面見るたァ思わなかったぜ」
『それは私も同じだ。生きて会えるとは思わなかった』
「姐御には、悪ィことしたと思うが…」
『そう思うんだったら名誉挽回ヨロシク。もう、鬼だの悪魔だの凄い言われようなんだから』
「姐御が鬼なのは間違っちゃねェだろ」
『あ?務所の次は病院送りがいいのか?』
「悪かった、勘弁してくれ」
姐御、羽影雨月は先輩検事で法曹界での師である。
と同時に、俺に有罪と死刑判決をたたき付けた検事でもある。
"後輩の不始末は指導者がすべき"
"先輩ならなんとかしろ"
彼女は快く引き受けた。俺が無罪だと確信して。
しかし、あらゆる尋問、取り調べに答えない俺の態度に、姐御は悟った。
(夕神は、法の闇を生んででも守り抜くつもりか)
その姐御の最後の切り札が、死刑判決。
"死をも恐れない覚悟があるなら、夕神、お前を犯人として告発し、有罪を唱える"
その問いに頷けば、いつも勝ち気な姐御の瞳は一瞬ぐらりと揺れて。
"解った"
そう、言った目は既に検事の色に戻っていた。
厄介事として彼女に回された俺の裁判だったのに、いざ勝訴すれば。
"本当に有罪にするなんて、悪魔だ"
"可愛がってた後輩を死刑にできるとは、鬼の所行だ"
酷い言われようで。最初で最後、一度だけ刑務所に面会に来た彼女の姿は、見違えるものだった。
"あんまり鬼だの悪魔だの言われるから、いっそそれっぽくしたよ。似合うかい?"
長くて綺麗な黒髪を銀髪に染め上げた上に、バッサリと項が出る程のショートカットにして。おまけに真っ赤なカラーコンタクトを入れていた。
そして、7年経った今もその姿で俺の前に立っている。
『まあ、今回の件で私は検事局を出ることになったし。そのあいさつも兼ねてな』
「…おい、どういうことだ」
『ん?だってお前が無罪だと証明された今、可愛い後輩の無罪を信じずに死罪を叩き付けた私は本物の鬼だ。…解るだろう?局の人間がどんな反応をするか。法の闇を産んだのか誰だったのか』
「っ姐御は、姐御はそれでいいのか!?アンタは何も間違っちゃいなかっただろうが!」
『…これが、私の償いだ。お前の無罪を信じていたのに死刑を言い渡して…その目の隈を作ったことへの』
「……それが償いだってんなら、俺も償わなきゃなんねェな」
『ん?何を』
「惚けんな。その銀髪、白髪隠しだろ」
『…』
「カラコンも、泣き腫らした目をごまかす為のもんさ。鬼だなんてキャラ作りしてまで隠さなくてもいいだろ。姐御は鬼にしちゃ優し過ぎだ」
黙って聞いていた彼女の顔が、ふと綻んだ。
『そっか、夕神は気づいてたのか』
「姐御の指導は確かにスパルタだが、何も思わずに死刑なんて出せる人間じゃねェことくらい知ってらァ。俺の髪も白くなったが…本当に気苦労かけたな」
『いいよ。それだけ伝わってればいい。言ったよな、名誉挽回頼むよ。私の可愛い後輩は優秀だってね』
見たことのない柔らかな笑い方だった。
未練など、何もないような。
「姐御、歳食ったな」
『お前、そんなに病院行きたい?これでも私も女なんだけど』
「悪い意味じゃねェよ。歳食っても姐御は凛としてる。でも、ずっと柔らかくなって、もっと綺麗になった」
『…そんな口のきき方が出来るようになったか。私も年取る訳だ』
「……」
『お前も年食った分、楽しめよ。私も、これから楽しむんだから』
俺が解き放たれた7年の檻。
彼女もまた、7年の鎖から放たれたんだ。俺を有罪にした罪悪感から。
「…姐御、海いこうぜ」
『また急だな。、デートなら歓迎するけど?』
「姐御がそれでいいなら逢瀬でもいいさ。どこか、気ままに遠くまで行きたい」
『…行こう、自由に遠くまで』
俺の先輩は、
優しくて綺麗な鬼。
「姐御、また髪伸ばしたらどうだ。色も黒に戻して」
『結構気に入ってんだけどな、この色。正直白髪ばっかで黒く染めなきゃならないし』
「じゃあ、せめて伸ばさねェか」
『なんで』
「姐御の髪、昔から好きなんだ」
『じゃあ、夕神も髪切るなよ?私もお前の髪好きだ』
Fin.