夕神詰め合わせ
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《新婚ホワイトデー》
あァ、こんなに悩むたァ思わなかった。
シャバに出るのが7年ぶりなら、ホワイトデーなんてのも7年ぶり。
今までのホワイトデーなんて、クッキーやらキャンディやら。お菓子を配っていればよかった。それがどうも、成の字や泥の字の話によると違うらしい。
「相手が喜ぶものなら何でもいいんですよ」
「僕は去年、みぬきにCDをあげたよ」
「…みぬきちゃん、ガリューウェーブにはまってましたもんね」
なんて話だ。
別に、雨月は菓子の類が嫌いなわけじゃない。むしろ好きな方。
ただ彼女の場合、食べるより作る方が好きなのだ。
だから意見を仰ぎにいろいろと動き回っているのだが…
「ニヤニヤしてんじゃねェよ、成の字!」
「…い、いやぁ…そんなつもりは…」
「ねェとは言わせねェぞ、緩んだ面しやがって!」
「ま、まあまあ…ユガミ検事、こういうのは実際に女性に聞いた方がいいんじゃないですか?」
泥の字の言葉を受けて次に訪れたのが
「…なんで私なのよ」
姉貴のところ。
「…ここからなら情報が漏れるこたァねェと思ったんだが」
「そうね、確かにそれは一理あるわね。けど、」
どうやら間違いだったようで…
「バッッッカじゃないの?自分の嫁の好みくらい自分で知っておきなさいよ、一つや二つ趣味やらお気に入りやらあるでしょ!」
結局叱咤されて面会を追い出される羽目になった。
(ちったァ角が取れたと思ったんだがなァ)
「…あの子、花が好きだったわよ。実家にいる時はガーデニングしてたみたいだから」
それでも姉貴らしい。
呟きのような助言を貰って。
「…ありがとな」
「…感謝される程のことじゃないわよ」
(花…か)
それをどう生かすべきか考えた。
ホワイトデー当日、ココネと成の字の娘にやる菓子を届けに、なんでも事務所へ足を運ぶ。
「わあ…!こんなにいいんですか!?」
「3倍返しだからなァ」
「量が3倍なんですね」
袋詰めになっている菓子を置いて、そのまま踵を返す。
「えっ、もう帰るんですか?」
「あァ…用事があるんでなァ」
まだ、雨月に渡す分のお返しを手にしていない。
これから受け取って、それから家路に着かなくてはいけないのだ。
『お帰り、迅。遅かったね』
「ちょっとばかし道草食ってたらこんな時間になっちまった」
『仕事じゃなかったんだ。夕飯は?温めるよ?』
「頼まァ。だがその前に、ほら」
差し出した紙袋。
きょとんとする彼女に、思わず笑みを零しながら。
「落とさねェようにな。せっかくの3倍返し」
『あ…ホワイトデー…』
「忘れてたのか?ココネ達なんか待ち構えてたぞ」
零れた笑いは苦笑になって。
でも、それも僅か。
袋の中身を見て目を輝かせた表情を見たら、一瞬で元の笑みに戻る。
『…綺麗………』
両手の平にのる程の、白いバラのプリザーブドフラワー。
雨月はうっとりとバラを見つめて匂いを嗅いだ。
『…』
「…流石に匂いはしねェだろ」
『うん。ついやっちゃった』
あはは、と。照れ臭そうに笑いながらその花を大事そうに抱える彼女に、2枚の紙切れを差し出す。
「それは…本物じゃねェとな」
『これ!バラ園のチケット!』
「休み、取れるようにしとけよ」
『うん!本当にありがとう!』
どうやら、ホワイトデーのお返しは成功したらしい。
嬉しそうに、バラをどこに飾ろうか悩んでいる後ろ姿が可愛い。…口にはしないが。
「あ…ねえ、迅」
やっと置き場を決めて、夕飯を電子レンジにかけた彼女が振り返って、問い掛ける。
『白いバラにした理由は、何?』
「…花が好きだって聞いたのと、ホワイトデーだから」
『そっか…』
期待通りの答ではなかったのだろう、若干気を落とした様子で食器を準備していく。
「不服そうだなァ」
『そんなことないよ。凄く嬉しいし、感謝してる』
「…知ってるんだろ、花言葉」
『!』
多分、花が好きだというのなら。知っている奴も多いはず。
「バラそのものは愛で」
『…』
「白いバラは純粋、尊敬、それと…」
食器棚の前で固まった雨月。台所で電子レンジが鳴いているが、気にしない。
『"私はあなたにふさわしい"…』
「あァ。雨月の隣にいれんのは、俺だけだ」
ぽすっ、と頭を撫でれば、見上げてくる顔は真っ赤で。それが照れなのか恥ずかしさなのかは解らなかった。
『ありがとう、迅。あの花大切にするね』
ただ、そういって笑った彼女を抱きしめる。
グゥ…
『フフッ、夕飯にしよっか』
「…だなァ」
グゥゥ…
『あ///』
「遅くなったら先に食ってていいっつったろ」
『一緒に食べたかったんだもん』
頬を膨らます彼女がやっぱり可愛いくて、その頬を突いてやった。
「じゃあ早く飯にして、それから3倍返しだな」
『え?もう十分貰ったよ?』
「あ?バレンタインの夜のこと、忘れたのか?あれの3倍返しっちゃァ…」
『あーっ、ストップ迅!ご飯にしよ、ご飯!』
(貴方の愛は十分伝わりましたから!)
何度見ても顔がにやけてしまう、白バラのプリザーブドフラワー。
(あれ、一輪だけ…)
隠れるように一輪だけ、枯れた白バラが刺さっている。
(枯れた白バラ…って)
気づいた瞬間顔から火がでそうな程熱くなった。
そして、さらににやけていく頬。
枯れた白いバラ
その意味は「生涯を誓う」
(今回は腰が痛いの許してあげよ)
Fin