夕神詰め合わせ
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《新婚バレンタイン》
彼と同じ苗字になって数ヶ月。といっても、幼なじみということもあって新婚独特の新鮮味やときめきはさしてない。
尤も、私が知っていた真面目で優しいお兄さんではなく、大分臍が曲がってしまった彼だけれど。
それでも彼の真面目さや優しさは十分垣間見れて、幸せな生活に変わりないことは確かだ。
そんな私の、最近の小さな悩みはもうじきやってくるバレンタインだったりする。
サプライズとまではいかなくても、中身は秘密にしておきたい。しかし、一緒に住んでいる彼に内緒でお菓子を作るなんて、とてもじゃないが無理だ。
まして自分は刑事、決まった時間に職務が終わるとは限らない。
作る以前に、材料を買い揃えるところから厳しいかもしれない。
『…奥の手、といきますか』
『……という訳でお願いしてもいいかな?』
「いいですよ!代金はお菓子でお願いしますね♪」
『はは、了解了解。いっぱい作るよ。じゃ任せたからね』
「はい!任せて下さい!楽しみにしてまーす」
よし、これで何とか時間は作れるはず。
あとは何を作るか、なんだよねー…これは毎年毎年悩む。
彼はいつも抱えきれないくらいチョコを貰ってくるし、かぐやさんからもチョコを貰っていた。
数あるチョコの中には綺麗なデコレーションのもの、手作りで美味しいもの、値段の張るものもあって。
自分はどうやったら特別になれるか必死に考える。
まあ、考え過ぎて結局無難になったり変わり種になりすぎることもあるんだけど…
(今年はこれにしよう、和菓子好きみたいだし)
レシピサイトを見て選んだ今年のチョコ。ちゃんとチョコも使ってるし、和菓子だと思う。
練習する時間はないから一発勝負だけど…頑張らなくちゃ!
×
×
「…で、用事ってのはなんだ?」
「ちょっと昔の話でもしたいな、と思いまして。局で…ってのもなんなので来てもらいました」
「昔の話、ねェ…」
「お母さんのこと、話せるの夕神さんしかいないから…」
ココネに呼ばれて成の字の事務所まで足を運んだ俺。なんともゴチャゴチャした部屋だ。
依頼人がくるのか心配になる。
「そうだなァ…」
自分は、ココネが関わると断ったり避けて通ったりできない。それは師匠への思いもあるし、師匠からの思いでもある。
雨月には忠犬か、とよく笑われるが。
「…バレンタインのチョコは貰ったことねェな」
「そ、そうですか。私はあげましたよね?」
「あァ、随分一生懸命作ってくれたな」
「そりゃもう、頑張って作りましたから」
何となく、ココネの思惑が解ってきて。それを言い出そうか悩んでいれば、事務所のドアが開いた。
「ただいまー。お仕事終わりましたよー」
「お帰り、みぬきちゃん!」
「あ、夕神検事も来てたんですね。はい、どうぞ」
…………パンツからチョコ菓子が出てきた。
「……悪いな。ここで食っていいか?」
「いいですけど…お家でゆっくり食べたらいかがです?」
「はッ、手前ェらに足止め頼んで必死にチョコ作ってる女房の前で、食えるわけねェだろ」
「えっ!し、知ってるんですか!」
ココネの驚きようと、成の字の娘の反応からして当たりだったみたいだ。
「ばれてるなら話は早いです。私からもチョコあるので、食べてゆっくりしていって下さい♪」
「…隠し通さなくていいのかィ?」
「まあ…"すぐばれると思うから、それでも暫く足止めして"って依頼でしたから」
「みぬきが今材料届けた所なので、1時間くらいはいて貰わないと」
「よく策もなしに1時間足止めできると思ったな」
「…そうですね…、最悪こっちからばらして留まって貰おうと思ってました」
「杜撰な仕事だなァ…」
そんな感じで事務所に留まって。
きっちり1時間で帰路についた。
(夕神検事、途中から空気がルンルンしてましたね)
(ばらした後から喜のマーク消えないんだもん、笑いこらえるの必死だったよ)
なんとか仕上がったお菓子。
味見したところはまあまあ。結構いいと思う。
後はラッピングできるかどうか…
というところで、ガチャリと玄関の開く音がして。
急いでお皿に盛りつけた。ココアパウダーをかけ終われば、丁度リビングのドアが開く。
『お帰り、迅!ナイスタイミングだよ!』
「ただいま…隠したり驚かす気は更々ねェんだな」
『どうせ心音ちゃん達ばらしちゃったでしょ?それに、これだけ部屋にチョコの匂いが充満してたら隠せないよ』
「確かにな」
『という訳で、はい、妻から旦那様へ愛を込めて』
「……」
皿ごと彼へ差し出せば、一瞬静止して。小首を傾げたかと思えば、ひょいと一つを摘んで口に入れた。
「……大福?」
『当たりー。今年はチョコ大福にしました♪どう?割とよくない?』
「…あァ。いつぞやのチョコ羊羹よりずっといいぜ?」
『あ、あれはもっと寒天いれればおいしかったの!ちょっと、材料が足りなかっただけで…』
「じゃァ、来年はリベンジだな。楽しみにしとく」
クツクツと楽しげに笑う彼と、その間にまた一つ口へ運ばれていく大福。
気に入って貰えたみたいだ。
『あれ、今年は楽しみじゃなかったの?』
軽い冗談に、少し本心を滲ませた。たくさんのチョコを貰う彼にとって、私のチョコの価値はどれくらいなのか…何年も前から気になっている。
「…ンなわけねェだろ」
『っ、…迅!?』
「いつだって、雨月からのが一番、待ち遠しかったんだからな」
皿を隣のテーブルに置いた彼は、私をぐっと引き寄せた。
身長の高い彼の腕に閉じ込められてしまえば、その顔を見ることはできない。
『だって、私のチョコ…ありきたりだし、デコレーションも上手くないし、味も普通で、値段もそんなにしなくて…』
「…で?」
『…そんなに期待する程のものじゃないから、ちょっと心配だった』
「お前、馬鹿なのか?」
『はあっ!?』
「俺が作ったありきたりな菓子と、同僚が作った飾りの綺麗な菓子、どっちが嬉しい?」
『そんなの、迅のに決まって…』
「解ってるじゃねェか」
低い笑い声が上から落っこちてきて、耳をくすぐった。
彼は、私が悩んでるのを知っててここまで話を運んだのか。
賢いというか、ずるい気もする。
「好きな奴以外がどんなものをくれても、俺はお前のもの以上には喜ばねェ」
『…そっか』
遠回しな言い方だ。
私を直接好きだと言ってくれないあたり、やっぱり彼はずるい。
「美味かったぜ?」
『ありがとう、』
大好きだよ。
迅。
君がくれたというだけで
それは特別なチョコになる
(俺の好みに合わせてくれんのは)
(そもそもお前だけだし、な)
「さァ、俺にここまで言わせたんだ…覚悟はあんだろうな?」
『えっ、覚悟ってなんの、ねぇ、迅!ちょ、ねぇってばぁ!』
ベッドルームに担ぎ込まれた私に
拒否権なんてありませんでした。
Fin.