王泥喜と地学ガール
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《君と流星群観察》
7月の終わり、夏だというのに夕暮れの涼しい風の吹く高原に俺達は来ていた。
「望遠鏡はこの辺でいいですか?」
『うん、大丈夫。足元に夜光テープつけといてね』
「わかりました!」
俺"達"っていっても、俺と雨月さんの二人っきり。
しかも、初めての外泊デート。
『ホースケ、赤道儀も準備するから』
「はい!手伝います!」
外泊なんていうけど、別にやましいことはない。
車中で仮眠をとりながら、原っぱに敷いたシュラフマットに寝転んで一夜を明かすのだ。
流星群を観測しながら。
『こんな感じかな。シートかけて軽食がてら休憩しよう』
敷いたばかりのマットの上に腰を下ろして、彼女はコンビニの袋を漁った。
「…望遠鏡はともかく、赤道儀なんてよく持ってましたね」
『ああ。あれは借り物、高校の顧問のだよ。今の学校は天文部なくて、野球部の顧問してるんだって。丁度試合の前で観測出来ないっていうから、貸して貰ったんだ』
彼女の人脈と、趣味に関する行動力には本当に感心する。望遠鏡も、実は地元の科学館からお古を譲って貰ったそうだ。
「雨月さん、ここの管理人の人とも知り合いでしたよね?」
『合宿で使わせて貰ってたんだよ。高原の家、寝泊まりとか食事とか便利でさ』
そして、部活をしていた時の話になると、懐かしむように笑うのだ。
俺に向けたことのないような穏やかな笑顔で。
「ホースケ?いらないなら私が食べちゃうよ」
『あ、ちょ、食べますよ!』
でも、そんな顔はすぐに消えて、悪戯な笑みで俺のサンドイッチを摘んだ。
そもそも、彼女の軽食は軽くない。コンビニで買った彼女の軽食は、カツサンドと、タマゴサンド。それからおにぎりが3つ。
夜食の分もあるのかと思えば、既におにぎりを食べ終えてタマゴサンドを頬張っている。
『…BLTサンドも美味しそうだね。今度買おう』
「1ついりますか?2つ入ってますし」
俺が買ったのはBLTサンドと、彼女オススメの葱味噌おにぎり。夜食は別に持って来ている。
『いいの?あ、じゃあ交換しよ、ほら』
まあ、なんだかんだとサンドイッチを交換して食べたのだ。
本当に恋人になれたんだなぁ、なんて口元を緩ませれば、
『タマゴサンドも美味しいでしょ?』
と彼女の勘違いを生んだ。
実際、彼女はBLTサンドが気に入ったらしく、随分ご機嫌だったけども。
「…日も落ちましたね」
『だねー。東方最大離角なら金星も観測したかったんだけどな』
「最大離角?」
『……金星が一番明るく見える時のこと』
暇があったら勉強しなさい。と、彼女は俺のおでこを小突いた。
『まさかとは思うけど、今日は何の流星群かくらいは知ってるよね?』
「……」
『…、まさか』
「…すみません」
『はぁ………、みずがめ座流星群とやぎ座流星群が同時に出るんだよ?エコー観測では8月のペルセウス座流星群を凌ぐと言われる量が流れるの』
呆れた、とでもいいたげな表情で彼女は解説してくれる。
『…因みに、何時から観測できるかは?』
「…」
『21時以降。ねぇ、観測する気があってきたの?』
けど、だんだん不機嫌な雰囲気を醸しだし始めた。
確かに俺は、雨月さんとデートできると思って浮かれてたから。流星群そのものはあまり調べて来なかった。
それに、
「俺は、雨月さんに教えて貰いたかったんです。ダメですか?」
そう告げれば彼女は目を丸くして、やれやれ、と、肩を竦めた。
『ホースケは、まったく……あざといというか……まあ、そこがかわいいんだけど』
「あざとい……」
『そこまでいうなら仕方ないね、第84代地学部部長の私がみっちりしごいてあげるよ』
「えっ…!」
『ああ、実際は天文部に改名しちゃったから、第27代天文部部長だったけど』
「そこじゃないですよ!」
『あはは、解ってるって』
でも、容赦しないから。
悪戯っぽく笑いながらそういった彼女。実際、本当に容赦なかった。
流星群が見えはじめる21時まで2時間以上あったのだけど、彼女は次から次へと俺の質問に答えては悪戯に問題を出した。
あの星は何ですか?
あれはデネブ、こっちがベガで、そっちがアルタイル
彦星ってどれですか?
アルタイルだよ、織り姫は解る?
えっと…ベガ、ですか
そうそう、よくできたね
エヘヘ…
デネブ、アルタイル、ベガで夏の大三角。デネブは何座?
ええ!えっと……
はくちょう座。デネブは尻尾って意味なんだよ
へぇぇ。あ、あっちの明るいのは何ですか?
ああ、あれは……
『さて、そろそろ観測できるかな』
覗き込んでいた望遠鏡から顔をあげて、彼女は夜空を見上げた。
因みに、さっきまでみていたのは「アルビレオ」という連星で、はくちょう座にある星だ。
「流星群って、よく見えるものなんですか?」
『そうだね、こうやって寝っ転がって……』
「うわっ!」
『ぼんやりと、視野を広く見てると結構沢山見れるよ』
急に俺の手を引っ張ってシートに倒れ込んだ雨月さん。ちょっとだけ背中が痛かったけど、楽しそうな笑顔を見たらそんなことは一瞬で忘れてしまう。
「…あ!今!通りました!」
『本当だ。でも、1個くらいではしゃがないでよ、流星群なんだから。貫徹すれば20なんて軽く見れるんだしさ』
胸を上下させて笑う彼女に、何だか幸せな気分になった。
だから思わず、引っ張られてた手を強く握り返して俺も笑う。
「でも、俺。雨月さんと見れた流星だから嬉しいです!」
『……そう』
「はい!」
『やっぱり、ホースケはあざといよ』
「あざ…」
『なんか私、全然可愛くないじゃん』
ぎゅっと、握り返された指。拗ねたように尖らせた唇。
「雨月さんの方が、ずっと可愛いです」
『…可愛いくない』
「可愛いです」
『流星群見に来たんでしょ。こっちじゃなくて空を見なよ』
「俺は、雨月さんと見に来たんです」
そういって視線を空へ戻せば、彼女が息を詰めたのが解った。
そして、肩に何かが当たる。
「…?」
『私も、ホースケと見に来たんだからね』
それが彼女の肩だと気づいて。余りにも近い距離に、今度は顔を動かせなくなった。
『綺麗だね』
「…はい」
目の前を横切っていく、いくつもの流星。
視界の端に映る、彼女の横顔。
全部綺麗だった。
『ホースケ、』
「なんですか?」
『もし。もし、よかったら。また』
一緒に見に来ようね。
「もちろんです!」
何度でも、一緒に。
そう願った時、一際尾を引く星が流れていった。
『…その時は今日教えたこと覚えてるかテストしてあげるから』
「…頑張ります……」
Fin.
7月の終わり、夏だというのに夕暮れの涼しい風の吹く高原に俺達は来ていた。
「望遠鏡はこの辺でいいですか?」
『うん、大丈夫。足元に夜光テープつけといてね』
「わかりました!」
俺"達"っていっても、俺と雨月さんの二人っきり。
しかも、初めての外泊デート。
『ホースケ、赤道儀も準備するから』
「はい!手伝います!」
外泊なんていうけど、別にやましいことはない。
車中で仮眠をとりながら、原っぱに敷いたシュラフマットに寝転んで一夜を明かすのだ。
流星群を観測しながら。
『こんな感じかな。シートかけて軽食がてら休憩しよう』
敷いたばかりのマットの上に腰を下ろして、彼女はコンビニの袋を漁った。
「…望遠鏡はともかく、赤道儀なんてよく持ってましたね」
『ああ。あれは借り物、高校の顧問のだよ。今の学校は天文部なくて、野球部の顧問してるんだって。丁度試合の前で観測出来ないっていうから、貸して貰ったんだ』
彼女の人脈と、趣味に関する行動力には本当に感心する。望遠鏡も、実は地元の科学館からお古を譲って貰ったそうだ。
「雨月さん、ここの管理人の人とも知り合いでしたよね?」
『合宿で使わせて貰ってたんだよ。高原の家、寝泊まりとか食事とか便利でさ』
そして、部活をしていた時の話になると、懐かしむように笑うのだ。
俺に向けたことのないような穏やかな笑顔で。
「ホースケ?いらないなら私が食べちゃうよ」
『あ、ちょ、食べますよ!』
でも、そんな顔はすぐに消えて、悪戯な笑みで俺のサンドイッチを摘んだ。
そもそも、彼女の軽食は軽くない。コンビニで買った彼女の軽食は、カツサンドと、タマゴサンド。それからおにぎりが3つ。
夜食の分もあるのかと思えば、既におにぎりを食べ終えてタマゴサンドを頬張っている。
『…BLTサンドも美味しそうだね。今度買おう』
「1ついりますか?2つ入ってますし」
俺が買ったのはBLTサンドと、彼女オススメの葱味噌おにぎり。夜食は別に持って来ている。
『いいの?あ、じゃあ交換しよ、ほら』
まあ、なんだかんだとサンドイッチを交換して食べたのだ。
本当に恋人になれたんだなぁ、なんて口元を緩ませれば、
『タマゴサンドも美味しいでしょ?』
と彼女の勘違いを生んだ。
実際、彼女はBLTサンドが気に入ったらしく、随分ご機嫌だったけども。
「…日も落ちましたね」
『だねー。東方最大離角なら金星も観測したかったんだけどな』
「最大離角?」
『……金星が一番明るく見える時のこと』
暇があったら勉強しなさい。と、彼女は俺のおでこを小突いた。
『まさかとは思うけど、今日は何の流星群かくらいは知ってるよね?』
「……」
『…、まさか』
「…すみません」
『はぁ………、みずがめ座流星群とやぎ座流星群が同時に出るんだよ?エコー観測では8月のペルセウス座流星群を凌ぐと言われる量が流れるの』
呆れた、とでもいいたげな表情で彼女は解説してくれる。
『…因みに、何時から観測できるかは?』
「…」
『21時以降。ねぇ、観測する気があってきたの?』
けど、だんだん不機嫌な雰囲気を醸しだし始めた。
確かに俺は、雨月さんとデートできると思って浮かれてたから。流星群そのものはあまり調べて来なかった。
それに、
「俺は、雨月さんに教えて貰いたかったんです。ダメですか?」
そう告げれば彼女は目を丸くして、やれやれ、と、肩を竦めた。
『ホースケは、まったく……あざといというか……まあ、そこがかわいいんだけど』
「あざとい……」
『そこまでいうなら仕方ないね、第84代地学部部長の私がみっちりしごいてあげるよ』
「えっ…!」
『ああ、実際は天文部に改名しちゃったから、第27代天文部部長だったけど』
「そこじゃないですよ!」
『あはは、解ってるって』
でも、容赦しないから。
悪戯っぽく笑いながらそういった彼女。実際、本当に容赦なかった。
流星群が見えはじめる21時まで2時間以上あったのだけど、彼女は次から次へと俺の質問に答えては悪戯に問題を出した。
あの星は何ですか?
あれはデネブ、こっちがベガで、そっちがアルタイル
彦星ってどれですか?
アルタイルだよ、織り姫は解る?
えっと…ベガ、ですか
そうそう、よくできたね
エヘヘ…
デネブ、アルタイル、ベガで夏の大三角。デネブは何座?
ええ!えっと……
はくちょう座。デネブは尻尾って意味なんだよ
へぇぇ。あ、あっちの明るいのは何ですか?
ああ、あれは……
『さて、そろそろ観測できるかな』
覗き込んでいた望遠鏡から顔をあげて、彼女は夜空を見上げた。
因みに、さっきまでみていたのは「アルビレオ」という連星で、はくちょう座にある星だ。
「流星群って、よく見えるものなんですか?」
『そうだね、こうやって寝っ転がって……』
「うわっ!」
『ぼんやりと、視野を広く見てると結構沢山見れるよ』
急に俺の手を引っ張ってシートに倒れ込んだ雨月さん。ちょっとだけ背中が痛かったけど、楽しそうな笑顔を見たらそんなことは一瞬で忘れてしまう。
「…あ!今!通りました!」
『本当だ。でも、1個くらいではしゃがないでよ、流星群なんだから。貫徹すれば20なんて軽く見れるんだしさ』
胸を上下させて笑う彼女に、何だか幸せな気分になった。
だから思わず、引っ張られてた手を強く握り返して俺も笑う。
「でも、俺。雨月さんと見れた流星だから嬉しいです!」
『……そう』
「はい!」
『やっぱり、ホースケはあざといよ』
「あざ…」
『なんか私、全然可愛くないじゃん』
ぎゅっと、握り返された指。拗ねたように尖らせた唇。
「雨月さんの方が、ずっと可愛いです」
『…可愛いくない』
「可愛いです」
『流星群見に来たんでしょ。こっちじゃなくて空を見なよ』
「俺は、雨月さんと見に来たんです」
そういって視線を空へ戻せば、彼女が息を詰めたのが解った。
そして、肩に何かが当たる。
「…?」
『私も、ホースケと見に来たんだからね』
それが彼女の肩だと気づいて。余りにも近い距離に、今度は顔を動かせなくなった。
『綺麗だね』
「…はい」
目の前を横切っていく、いくつもの流星。
視界の端に映る、彼女の横顔。
全部綺麗だった。
『ホースケ、』
「なんですか?」
『もし。もし、よかったら。また』
一緒に見に来ようね。
「もちろんです!」
何度でも、一緒に。
そう願った時、一際尾を引く星が流れていった。
『…その時は今日教えたこと覚えてるかテストしてあげるから』
「…頑張ります……」
Fin.