御剣と色んな勤め人
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《ライフセーバー》
2013.6~2013.9
潮の匂いがする湿った風が吹いている。
成歩堂に"たまには息抜きしろよ"と言われて付いて来てしまった海。
その誘いを断り切れなかったのは本当に疲れていたからかもしれない。
真宵クンと春美クンに遊ばれている成歩堂を余所に、浜辺を端へ向かって歩いた。
人の多い所は疲れる。
浜辺の端は磯になっていて、岩が多かった。手頃な高さの岩に腰掛けて足先だけ海に浸す。
泳ぐ訳でもなく、何をしに来たのだろうか……
『お兄さん、大丈夫?』
「っ!?」
急に話し掛けられて振り向けば。短い髪に、赤いショートパンツと白いTシャツ姿の女がいた。
『あ…急にごめんね、気にかかったから声かけてみたんだけど』
「気にかかる?」
『私ライフセイバーだから。仕事終わってるしボランティアだけど…』
黄色と赤のバンダナをポケットから出し、それを見せてそのまま私の横に座る。
その動作は余りに自然で、馴れ馴れしさを覚える暇もなかった。
『生気のない顔してたから。そんな状態で泳いだら死んじゃうよ?』
「別に泳ぎにきた訳ではないし、死ぬつもりもない」
『あはは、それは失礼。この辺の人じゃないよね?海見に来ただけ?』
「まあな。友人と息抜きで来ているが、特に何をしに来たわけでもない」
何故彼女にこんな事を言ったのか解らない。しかし、話してもいい気がした。
『海はいいよー、特に夏は。降り注ぐ太陽と潮の匂いとか』
「……君は海が似合うな」
これも言うつもりはなかった。只、しなやかに伸びた健康的な手足や、小麦色の肌、垢抜けた笑顔に釣られてしまっただけ。
『はは、ありがと。お兄さんは色白だから日焼け止めしっかり塗らないと真っ赤になっちゃうよ?』
「来る前に塗ってきてある」
『そう?でも首の後ろ、赤くなってきてるよ。私の貸してあげる』
言うや否やヒヤッとした感覚が走り、人の手の温度を感じた。
「なっ…」
『あ、ごめんね。アレルギーとかあった?』
「いや、そうではなくてな」
まごつく私を他所に伸びをして立ち上がった彼女。
ポケットから何かを取り出して、私に差し出した。
『はい、お土産とプレゼント。そんな思い詰めた顔してると、せっかくの二枚目が台なしだよ』
"だからまた息抜きにおいで"
そう言って彼女は駆けていった。
残ったのは私の手に押し付けられた貝殻と缶ジュース。
また海に来ようか。
まだ、
名前も知らない彼女に会いに。
(缶ジュースの裏に紙がついていた)
(英数字が羅列されたメモ)
(気づいたのは家についてから)
Fin.