御剣詰め合わせ
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《強雨》2018拍手
「……君は、前から思っていたが馬鹿なのか?」
『……返す言葉もございません』
執務中、突然『もしかしたら、証拠がまだあるかもしれません!』と、急に彼女は飛び出していった。
土砂降りの中。
傘も差さず。
現場である隣町の公園まで。
徒歩で。
『徒歩じゃありません、ダッシュです!』
訂正。
パンプスでの全力ダッシュで。
「……」
飛び出していった彼女を、いつものことだと放っておいた私にも非はあるかもしれないが…傘を差すかタクシーくらい使うだろうと思ったのが甘かった。
彼女は今、全身びしょ濡れで私の目の前に立っている。そして冒頭。
『でも、ほら!公園のトイレで被疑者の学生証見つけましたよ!これはちゃんと濡れないようにビニール袋に入れてきました!』
戦利品よろしく袋を見せつけてくれるのは結構なのだが。
「……ひとまず、その格好をなんとかしたまえ。風邪をひくぞ」
『そういえば、寒い気がします……っくしゅん!』
執務室の絨毯に染みをつくる程濡れている彼女をどうにかしなければ。
『でも着替えもタオルも持ってませんし…私バス通勤ですし……っくし!』
私とてタオルなんぞ持ってない。
というか、検事局にタオルや着替えなんてあるわけないのだ。
「………む、そうだ」
『へ、なんですか?』
「バンドーホテルに空室があるか聞いてやる。家に帰るより近いだろう、バスローブでも着て、コインランドリーで服を乾かすんだな」
それで、バンドーホテルに急遽部屋をとった。
かろうじて空いていた部屋を即行で押さえてもらい、早退させた彼女を車で送り届ける。
「一刻も早くシャワーを浴びるように」
その忠告をして、ボーイに彼女を預けた。
彼女がエレベーターに乗るのを見届け、支払いを済ませる。
……空いてたのがここだけとはいえ、彼女に払わせるのは酷だろう。
スーパースウィートの、ツイン。
もとより私の発案だ、このくらいはなんてことない。…他でもない、彼女の為ならば。
さて、自分は検事局に戻り。
彼女が拾ってきた証拠品を鑑識に回して執務を続ける。
……もう夕方か。雨でずっと暗いから時間の感覚が鈍るな。
『………御剣さん!』
もう帰ろうか、のタイミング。
携帯が鳴って、取ったら彼女の叫び声がした。
「……なんだね」
『な、なんでこんないい部屋を!しかもツイン!』
「そこしか空いていなかったのだ」
『だって、支払いも済んでるって…』
「私が勧めたのだからな」
『でも、でも!』
シャワーと洗濯が終わった彼女は、冷静に部屋を見渡して。逆にパニックになったようだ。
それもそうか、広い部屋、赤い絨毯、大きなソファー、2つのベッド。シャンデリア。
どれもとってもビジネスホテルとは思えないからな。
「…まあ、あの証拠品は大した手柄だ。褒美だと思って満喫したまえ」
未だに土砂降りの外を一瞥し、車のキーを取って部屋を後にする。
でも。とか、あの。とか言ってた彼女は、私が愛車の前までくると漸く意味のある言葉を紡ぐ。
『こんな広い部屋…1人じゃ寂しくて、心が風邪を引いてしまいます』
「……」
『一緒に泊まってくださった方が、お支払してもらった罪悪感も減るのですが…』
それはそれは、恥ずかしそうに。
雨音に掻き消されそうな声で。
「………今から向かう」
『は、はい!』
「スーパースウィートに見合う出迎え、期待しているぞ」
え。と、戸惑う彼女を無視して通話を切る。
天真爛漫で思いきりのいい彼女のことだ、見当もつかないことをしてくれるだろう。
ああ、どんな出迎えだったかは、想像におまかせする。
Fin.