王泥喜と地学ガール
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《君と聖夜の星空》
「雨月さん、クリスマス予定ありますか?」
『仕事だけど…何、この歳になってまだクリスマスしなきゃいけないの』
「え…クリスマス、嫌いですか」
やっとアプローチに成功して、一緒に食事できる仲になった雨月さん。
今もラーメン屋で夕食を共にしながら、クリスマスの予定を伺えば眉間にヒビをいれられた。
『あんなの日本じゃカップルと家族の行事でしょ。私には関係ないし、大体、何が嬉しい日なのか解らない』
「…俺と出かけて欲しいな…って思ったんですけど、嫌ですか」
『…仕事だっていったよね。耳、機能してる?』
「俺と出かけるのが嫌なわけじゃないんですね?」
『はぁ、疲れるくらいポジティブだね』
彼女はため息をついて麺を啜った。短い咀嚼の後、飲み込んだらしい口はもう一度ため息を漏らした。
『…わかったわかった。一週間前なら休みだからその時でよければ』
「いいんですか!?」
『まあ、場所次第』
「えっと、科学博物館か、天文台なんてどうでしょうか」
話を聞きながら食べ終えたらしい彼女は替え玉を頼みながら眼を丸くした。
『星とか、好きなの?』
「はい、親友とよく宇宙センターに遊びにいったりしましたよ」
『意外』
「…え」
『そんなロマンチストには見えないよ』
クスクスと笑って雨月さんは2杯目に箸をつけ始める。
「雨月さんは、星とか宇宙好きですか?」
『好きだよ。どっちかというと神話とか星座の位置とかだけど』
「雨月さんの方がよっぽどロマンチストだと思いますけど」
『…お互い様でしょ』
フイ、と顔を逸らされてしまったけれど、どこか楽しそうな横顔。
それに胸を撫で下ろす。
「じゃあ、天文台いきましょうか」
『まさか、自転車でいくの?』
「…」
『はいはい、駅まで迎えに行くから道案内よろしくね』
コツンと、こめかみ当たりを弾かれて、思わず笑った。
"何笑ってるの"なんて彼女も笑って。
一週間後の約束をとりつけた
デート当日、俺は事務所の皆に見送られていた。
「…オドロキ君、緊張しすぎだよ」
「そうそう、いつもみたいに元気に行かなきゃ」
「…そうなんだけど」
下手したら、法廷より緊張してるかもしれない。
私服で会うのも初めてだし、デートそのものだって初めてだ。
「もう!しのぶの誘いを断って行くんですからしっかりしてください、よっ!」
「い゛っ、希月さん痛いって!」
事務所の皆に背中を押されながら(物理的な意味でも)準備をする。
希月さんやみぬきちゃんからデートの心得だとか女心の説明を受けるも、彼女相手に通用するとは思えないものばかり。
「行ってきます」
「いってらっしゃい!告白くらいして来て下さいよ?」
「くらいって、軽くいうなよ」
結局は緊張とプレッシャーを抱えて出かけることになった。
『…あ、来た』
「すみません!待ちましたか?」
『別に。時間通りだし謝る必要ないよ』
駅前の駐車場に停まる車、雨月さんが助手席のドアを開けてくれた。
“彼女の私服、初めて見るならなんでもいいから褒めて下さい!”
そう言われた言葉を思い出して彼女を見るも、
(いつもの、コートだよな…)
仕事帰りに着ているグレーのコート。動き易さを重視する彼女の上着は薄手のもので、車中や店で脱ぐことはほとんどない。
『さて、道案内よろしく。それともお昼まだ?』
「あ、いえ大丈夫です!雨月さんは?」
『休日はブランチ派だから、私も別に』
「なら行きましょうか。まず国道に出て貰って…」
“運転中に退屈させちゃダメですよ!楽しませて下さい!”
次に言われたこと。……二人とも免許持ってないのに。
“まあ、君が運転するわけじゃないし。集中力を削がない程度に会話したらいいんじゃない?”
成歩堂さんだって運転しないじゃないか…。
『しばらく道なり?』
「はい。1時間くらいは国道をまっすぐ行って、看板を左折したらまた山沿いをまっすぐ上ります」
『なんとも単純な道順だね』
「一応、距離じゃなくて一番簡単な行き方を案内してるので」
『初めていくところだしね、助かるよ』
最初の数分こうして話した後、急に沈黙になってしまった。
『…ラジオでもつける?運転しながら会話するのはどうも苦手で』
「いえ、大丈夫です」
『そう?聞くのはできるけど、話すのはどうも注意力が散漫しちゃって』
暫くして赤信号で停まった時、彼女は早口にそう告げて。信号が青に変わったとたん、また口をつぐんでしまった。
(楽しませる、といっても集中できないんだよな)
「…じゃあ、俺が星を好きになったきっかけを話します。聞き流して貰っても構いません」
『…』
返事はなかった。
信号が赤になることもなくて、ずっと独り言みたいだったけど、それでも話し続けた。
俺がどんな人間なのか知って欲しいというのもあるし、自分からオープンに行かなければ相手が心を開くことはないと解っているから。
「…ここです、運転ありがとうございました」
『どういたしまして。ま、帰りも私の運転だけど』
「…、帰りもよろしくお願いします」
『はいよ』
車から降りると、標高が高いだけあって少し寒かった。
夜になればきっと綺麗な星空が見えると思う。
『…ここ、プラネタリウムもあるんだ』
車のキーを仕舞いながら俺に続く彼女。
「よく解りましたね」
『天文台に半球体の建物があったらそう思って当然でしょ』
「…確かに」
実際プラネタリウムはある。季節に合わせた上映もするし、宇宙にまつわるエピソードを映す時もある。
「あ、もうじき開演しますよ」
『ふーん』
「…見に行きませんか」
『ふふ、行こう』
その時の彼女は、悪戯が成功した時の子供のような笑い方だった。
俺が誘ったのに案内板を見て先を進んでいく彼女を追い掛ける。
『…貸し切り、かな?』
「…みたいですね」
普通はクリスマスに合わせるだろうからか、ドームにいるのは二人っきり。
「本日は冬の星座案内ですが、お二人だけですのでリクエストがあればお応えしますよ」
「…俺はそれでいいですけど」
『もし可能なら、天球を25日に合わせて、音声を切って頂けませんか』
「?、構いませんが…」
『あと、よろしければレーザーポインタも貸して下さい』
何か解ったような職員が、笑顔で器具を渡して"動かしたくなったら声をかけて下さい"と話している。
「雨月さん、何を…?」
『いや?ただ君に、星空案内をしてあげようと思ってさ』
プラネタリウムの最後座席へ俺を促し、彼女はその隣へ立った。
『…クリスマスは一緒に過ごせないから、せめて聖夜の星空を…ね』
そして、俺が口を開く前に照明が落ち、彼女が上を向いた気配に合わせて首を向ける。
『…さて、空気の澄んだ冬の夜空。南の空に輝く三ツ星、オリオンの姿が有名でしょうか。左上の赤い星はベテルギウスといい…』
彼女の声は流れるように、俺の耳へ滑り込む。
語りはじめた彼女はどこか別人のようだった。
いつもの淡々としている声色や口調ではなく。星の世界に引き込まれてしまうような、穏やかな声色と抑揚。
その声は、冬の大三角を示し、冬のダイアモンドをなぞり、神話の世界を辿った。
『…以上で星空案内を終了といたします。ご静聴ありがとうございました』
彼女が締め括ると、ドームの照明がゆっくり戻り、俺は思わず拍手をした。
ドームの操作をしてくれた職員の方も拍手をしている。
『…我が儘を聞いて頂きありがとうございました』
「いえいえ、こちらこそ。いいもの見させてもらいました。職員になって頂きたいくらいです」
器具を返す彼女はそんなやりとりに困ったように笑いながら応じる。
「…ありがとうございます、素敵なクリスマスでした。本当に星空好きなんですね」
『…つい懐かしくなって、やりたくなっちゃったんだ。私、高校時代は地学部でさ』
ドームの中心に据えられたプラネタリウム本体を見上げながら彼女は呟いた。
小さい時に家出をして、その時に見た星空に惹かれたこと。
それをきっかけに地学部に入り、天文気象・地質地理などに興味を広げたこと、詳細ではないけれど自分の事を話してくれた。
『…だから、私は星も気象も化石も地理も好き。それしか趣味がないから、周りとは合わないけどね』
徐に俺の隣へ座った彼女はやはりプラネタリウムを見つめているけれど、どこかもっと遠くを見ているようだった。
次の開演時間まで開放されるドームの中、職員の方もいつの間にかいなくなって二人だけ。
「――俺は星も好きだし、雨月さんに教えてもらって化石とかも好きになりました」
『…』
「だから、雨月さんが一緒なら気象も地理も、貴女が好きなものなら何でも好きになれると思うんです」
目線をこちらに向けて、続きを待つような彼女。俺は立ち上がって彼女に手を差し出した。
「…でもそれは、雨月さんが好きだからで…その、よければ俺と、付き合って下さい!」
正直、下げた頭をあげるのが怖い。断られたら帰りの車中だって気まずい。
でも、伝えたかったし、何となく断られない気がしていた。
『…私さ、付き合うとかよく解らないんだ』
「…」
『でも…君の事は好きだから、君が教えてくれるなら』
差し出していた手に、握る感触。
「っ!も、もちろんです!」
反対側の手も添えておもいっきり握り返した。
『…ちょっと、痛い』
「あっ、すみません!」
『あと顔、緩みすぎだから』
不機嫌な声色とは違い、彼女の表情は穏やかな笑みさえ浮かんでいて。
やっと
"告白はムードと場所、しっかり選んで下さいね"
と言われたのを思い出した。
(プラネタリウムなら、十分だろ)
『さて、次どうしようか。王泥喜君』
「えっと、人口衛星とかの模型もありますよ。行きませんか」
『うん、見たい』
「そ、その…手を繋いだりしても…」
『どうぞ。こんな手でよければ』
「俺は…雨月さんの手がいいんです」
それっきり。
彼女は無言になってしまったけれど、繋いだ手を強く握り返してくれた。
横目で見た彼女の頬は赤く染まっていて
それが寒さのせいじゃなければいいな
なんて思った。
(素敵なクリスマスプレゼント、ありがとうございました)
(あれ、何か渡したっけ)
(プラネタリウム…てっきりそうだと)
(ああ。だったら君もくれたよ)
(え?)
(告白。あと手も繋いでくれた)
(…嬉しいプレゼントになりましたか?)
(うん。…ありがとね)
Fin
「雨月さん、クリスマス予定ありますか?」
『仕事だけど…何、この歳になってまだクリスマスしなきゃいけないの』
「え…クリスマス、嫌いですか」
やっとアプローチに成功して、一緒に食事できる仲になった雨月さん。
今もラーメン屋で夕食を共にしながら、クリスマスの予定を伺えば眉間にヒビをいれられた。
『あんなの日本じゃカップルと家族の行事でしょ。私には関係ないし、大体、何が嬉しい日なのか解らない』
「…俺と出かけて欲しいな…って思ったんですけど、嫌ですか」
『…仕事だっていったよね。耳、機能してる?』
「俺と出かけるのが嫌なわけじゃないんですね?」
『はぁ、疲れるくらいポジティブだね』
彼女はため息をついて麺を啜った。短い咀嚼の後、飲み込んだらしい口はもう一度ため息を漏らした。
『…わかったわかった。一週間前なら休みだからその時でよければ』
「いいんですか!?」
『まあ、場所次第』
「えっと、科学博物館か、天文台なんてどうでしょうか」
話を聞きながら食べ終えたらしい彼女は替え玉を頼みながら眼を丸くした。
『星とか、好きなの?』
「はい、親友とよく宇宙センターに遊びにいったりしましたよ」
『意外』
「…え」
『そんなロマンチストには見えないよ』
クスクスと笑って雨月さんは2杯目に箸をつけ始める。
「雨月さんは、星とか宇宙好きですか?」
『好きだよ。どっちかというと神話とか星座の位置とかだけど』
「雨月さんの方がよっぽどロマンチストだと思いますけど」
『…お互い様でしょ』
フイ、と顔を逸らされてしまったけれど、どこか楽しそうな横顔。
それに胸を撫で下ろす。
「じゃあ、天文台いきましょうか」
『まさか、自転車でいくの?』
「…」
『はいはい、駅まで迎えに行くから道案内よろしくね』
コツンと、こめかみ当たりを弾かれて、思わず笑った。
"何笑ってるの"なんて彼女も笑って。
一週間後の約束をとりつけた
デート当日、俺は事務所の皆に見送られていた。
「…オドロキ君、緊張しすぎだよ」
「そうそう、いつもみたいに元気に行かなきゃ」
「…そうなんだけど」
下手したら、法廷より緊張してるかもしれない。
私服で会うのも初めてだし、デートそのものだって初めてだ。
「もう!しのぶの誘いを断って行くんですからしっかりしてください、よっ!」
「い゛っ、希月さん痛いって!」
事務所の皆に背中を押されながら(物理的な意味でも)準備をする。
希月さんやみぬきちゃんからデートの心得だとか女心の説明を受けるも、彼女相手に通用するとは思えないものばかり。
「行ってきます」
「いってらっしゃい!告白くらいして来て下さいよ?」
「くらいって、軽くいうなよ」
結局は緊張とプレッシャーを抱えて出かけることになった。
『…あ、来た』
「すみません!待ちましたか?」
『別に。時間通りだし謝る必要ないよ』
駅前の駐車場に停まる車、雨月さんが助手席のドアを開けてくれた。
“彼女の私服、初めて見るならなんでもいいから褒めて下さい!”
そう言われた言葉を思い出して彼女を見るも、
(いつもの、コートだよな…)
仕事帰りに着ているグレーのコート。動き易さを重視する彼女の上着は薄手のもので、車中や店で脱ぐことはほとんどない。
『さて、道案内よろしく。それともお昼まだ?』
「あ、いえ大丈夫です!雨月さんは?」
『休日はブランチ派だから、私も別に』
「なら行きましょうか。まず国道に出て貰って…」
“運転中に退屈させちゃダメですよ!楽しませて下さい!”
次に言われたこと。……二人とも免許持ってないのに。
“まあ、君が運転するわけじゃないし。集中力を削がない程度に会話したらいいんじゃない?”
成歩堂さんだって運転しないじゃないか…。
『しばらく道なり?』
「はい。1時間くらいは国道をまっすぐ行って、看板を左折したらまた山沿いをまっすぐ上ります」
『なんとも単純な道順だね』
「一応、距離じゃなくて一番簡単な行き方を案内してるので」
『初めていくところだしね、助かるよ』
最初の数分こうして話した後、急に沈黙になってしまった。
『…ラジオでもつける?運転しながら会話するのはどうも苦手で』
「いえ、大丈夫です」
『そう?聞くのはできるけど、話すのはどうも注意力が散漫しちゃって』
暫くして赤信号で停まった時、彼女は早口にそう告げて。信号が青に変わったとたん、また口をつぐんでしまった。
(楽しませる、といっても集中できないんだよな)
「…じゃあ、俺が星を好きになったきっかけを話します。聞き流して貰っても構いません」
『…』
返事はなかった。
信号が赤になることもなくて、ずっと独り言みたいだったけど、それでも話し続けた。
俺がどんな人間なのか知って欲しいというのもあるし、自分からオープンに行かなければ相手が心を開くことはないと解っているから。
「…ここです、運転ありがとうございました」
『どういたしまして。ま、帰りも私の運転だけど』
「…、帰りもよろしくお願いします」
『はいよ』
車から降りると、標高が高いだけあって少し寒かった。
夜になればきっと綺麗な星空が見えると思う。
『…ここ、プラネタリウムもあるんだ』
車のキーを仕舞いながら俺に続く彼女。
「よく解りましたね」
『天文台に半球体の建物があったらそう思って当然でしょ』
「…確かに」
実際プラネタリウムはある。季節に合わせた上映もするし、宇宙にまつわるエピソードを映す時もある。
「あ、もうじき開演しますよ」
『ふーん』
「…見に行きませんか」
『ふふ、行こう』
その時の彼女は、悪戯が成功した時の子供のような笑い方だった。
俺が誘ったのに案内板を見て先を進んでいく彼女を追い掛ける。
『…貸し切り、かな?』
「…みたいですね」
普通はクリスマスに合わせるだろうからか、ドームにいるのは二人っきり。
「本日は冬の星座案内ですが、お二人だけですのでリクエストがあればお応えしますよ」
「…俺はそれでいいですけど」
『もし可能なら、天球を25日に合わせて、音声を切って頂けませんか』
「?、構いませんが…」
『あと、よろしければレーザーポインタも貸して下さい』
何か解ったような職員が、笑顔で器具を渡して"動かしたくなったら声をかけて下さい"と話している。
「雨月さん、何を…?」
『いや?ただ君に、星空案内をしてあげようと思ってさ』
プラネタリウムの最後座席へ俺を促し、彼女はその隣へ立った。
『…クリスマスは一緒に過ごせないから、せめて聖夜の星空を…ね』
そして、俺が口を開く前に照明が落ち、彼女が上を向いた気配に合わせて首を向ける。
『…さて、空気の澄んだ冬の夜空。南の空に輝く三ツ星、オリオンの姿が有名でしょうか。左上の赤い星はベテルギウスといい…』
彼女の声は流れるように、俺の耳へ滑り込む。
語りはじめた彼女はどこか別人のようだった。
いつもの淡々としている声色や口調ではなく。星の世界に引き込まれてしまうような、穏やかな声色と抑揚。
その声は、冬の大三角を示し、冬のダイアモンドをなぞり、神話の世界を辿った。
『…以上で星空案内を終了といたします。ご静聴ありがとうございました』
彼女が締め括ると、ドームの照明がゆっくり戻り、俺は思わず拍手をした。
ドームの操作をしてくれた職員の方も拍手をしている。
『…我が儘を聞いて頂きありがとうございました』
「いえいえ、こちらこそ。いいもの見させてもらいました。職員になって頂きたいくらいです」
器具を返す彼女はそんなやりとりに困ったように笑いながら応じる。
「…ありがとうございます、素敵なクリスマスでした。本当に星空好きなんですね」
『…つい懐かしくなって、やりたくなっちゃったんだ。私、高校時代は地学部でさ』
ドームの中心に据えられたプラネタリウム本体を見上げながら彼女は呟いた。
小さい時に家出をして、その時に見た星空に惹かれたこと。
それをきっかけに地学部に入り、天文気象・地質地理などに興味を広げたこと、詳細ではないけれど自分の事を話してくれた。
『…だから、私は星も気象も化石も地理も好き。それしか趣味がないから、周りとは合わないけどね』
徐に俺の隣へ座った彼女はやはりプラネタリウムを見つめているけれど、どこかもっと遠くを見ているようだった。
次の開演時間まで開放されるドームの中、職員の方もいつの間にかいなくなって二人だけ。
「――俺は星も好きだし、雨月さんに教えてもらって化石とかも好きになりました」
『…』
「だから、雨月さんが一緒なら気象も地理も、貴女が好きなものなら何でも好きになれると思うんです」
目線をこちらに向けて、続きを待つような彼女。俺は立ち上がって彼女に手を差し出した。
「…でもそれは、雨月さんが好きだからで…その、よければ俺と、付き合って下さい!」
正直、下げた頭をあげるのが怖い。断られたら帰りの車中だって気まずい。
でも、伝えたかったし、何となく断られない気がしていた。
『…私さ、付き合うとかよく解らないんだ』
「…」
『でも…君の事は好きだから、君が教えてくれるなら』
差し出していた手に、握る感触。
「っ!も、もちろんです!」
反対側の手も添えておもいっきり握り返した。
『…ちょっと、痛い』
「あっ、すみません!」
『あと顔、緩みすぎだから』
不機嫌な声色とは違い、彼女の表情は穏やかな笑みさえ浮かんでいて。
やっと
"告白はムードと場所、しっかり選んで下さいね"
と言われたのを思い出した。
(プラネタリウムなら、十分だろ)
『さて、次どうしようか。王泥喜君』
「えっと、人口衛星とかの模型もありますよ。行きませんか」
『うん、見たい』
「そ、その…手を繋いだりしても…」
『どうぞ。こんな手でよければ』
「俺は…雨月さんの手がいいんです」
それっきり。
彼女は無言になってしまったけれど、繋いだ手を強く握り返してくれた。
横目で見た彼女の頬は赤く染まっていて
それが寒さのせいじゃなければいいな
なんて思った。
(素敵なクリスマスプレゼント、ありがとうございました)
(あれ、何か渡したっけ)
(プラネタリウム…てっきりそうだと)
(ああ。だったら君もくれたよ)
(え?)
(告白。あと手も繋いでくれた)
(…嬉しいプレゼントになりましたか?)
(うん。…ありがとね)
Fin