御剣詰め合わせ
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《歳の差と幸せについて》
愛があれば年の差なんて
と、よく恋愛小説なんかで謳われる台詞がある。
年の差なんて、どうだと続くのだろう。
関係ない。とか、乗り越えられる。とか、多分前向きな言葉が続くのは予想できよう。
確かに、人を好きになる時にはそれほど関係ないとは思う。
年上とは頼もしく甘えられる存在であるし、年下とは可愛らしく新鮮さがあるのだから、魅力はつきないだろう。
ただ、
『20歳上って、どう思います?』
「中々ハードだよね」
『まずアウトオブ眼中じゃん』
「久し振りにその言葉を聞いた」
『んで、背負うものの重さも積んだ経験も比じゃないじゃん』
「まあね」
『そんな人を好きになって、幸せになれるかな?』
「あれ?好きになるのはありえるって言わなかったっけ?」
『そうだった。好きになって、仮に結ばれて、あわよくば結婚とかしたとすんじゃん』
「おう」
『女性が年下なら子供は産める可能性があるよね。でもさ、単純計算で旦那が自分より20年早く死ぬんだよ。子供にとっても人より20年早く父を亡くすし、孫なんか産まれたら祖父はいないとかありえる。ってか、旦那に先立たれて20年も生きる自信がない』
「お前さ、大人びた意見から急に乙女に戻るな。あと考えすぎだし夢見すぎ。結ばれてから考えろ」
昼休みを私の恋愛論で潰された同僚は、面倒臭そうに昼食のゴミを丸めた。
聞いてくれた礼にと渡したコーヒーに無言で口をつけて、はぁ、と呆れたように溜め息をつく。
「あの眉間よってる局長さんだろ?ストライクゾーン広すぎてウケる」
『あと一歩踏み外したら好きになると思う。報われなさすぎて回避したいのに、あの人の事務官固定とか回避不可だし。なんであの人あんなイケメンなの、あの見た目で天然とか狡すぎて異議しかないわ』
「ノロケ乙。最早手遅れだな、好きだろそれ」
『認めたくない。幸せビジョンが見えなすぎる』
そんなことを言っているうちに昼休みは終わって。
持ち場、局長執務室へと戻る。
そこには先程話していた20歳年上、現在40歳で33歳にして検事局長まで上り詰めた御剣検事が既に座っていた。
『昼休憩ありがとうございました』
「ああ。午後も引き続き資料の整理を頼みたい」
『はい、了解です。こちらの付箋箇所は午前の段階で誤植が見つかったものです、確認お願いします』
「む。…!君、トノサマンを知っているのか?」
『あ…はい。小さい頃再放送をよく見ていまして…最近復刻版をすると聞いて、懐かしくてその付箋を買いました。すみません、今日は付箋を切らしてしまってそれしかないんです』
トノサマンの形の付箋。
御剣検事はスルーするか鼻で笑うと思っていたのに、予想外にも嬉しそうに話し出した。
「復刻版を作ることになったのか!放送日は決まっているのか?」
『いえ。劇場番の公開で、放映は来年ですが詳しくは未定だそうです』
「そうか…だが20年近く待っていたのだから、1年くらいは優に待てよう。いいことを聞いた」
『それから、来月に前回と今回の新旧キャストを集めてのイベントがあるとか。チケットが即完売で、告知も殆ど流れませんでしたね』
「…知らなかった」
『御剣検事は丁度海外赴任をしていたかと。…というより、検事、トノサマン好きなんですね』
「!…ま、まあな。トノサマンを扱うスタジオの事件を何回か扱ってから…」
『そうなんですか。あれは大人も子供も楽しく見れていい作品ですよね』
「む、君は解る人のようだな」
彼は執務中だというのに、楽しそうにトノサマンの魅力やトノサマンに関わった事件の話をしてくれた。
オマケに、日に焼けて風化してしまうからと最近しまいこんでいたトノサマンのフィギュアまで見せてくれたのだ。
(この人、可愛いな)
男の人はいつまでも少年だというが、本当にそうなのかもしれない。
いつも眉間にシワを寄せて、法廷で毒舌をかます彼が、得意気に子供向けアニメを語っているのだから。
「それにしても…イベントがあるのを知らなかったとは、私としたことが…」
『あ、あの、よかったらチケット…譲りましょうか?』
「!…君、チケットをとれたのか」
『はい、運よく』
「しかしそれは君のだろう。価値を知っている以上、受けとる訳には…」
『いや、その…2枚あって。兄の分もとったんですが、都合がつかなくなって…1枚余って悩んでいたんです』
これは本当のことだ。
一緒にいくにしろ別々に行くにしろ、トノサマンが好きな人に渡したい。が、そんな人を見つけるのは中々難しく。
こんなに近くにいるなら願ったり叶ったりである。
「それなら是非…だが譲り受ける訳にはいかないな。買い取ろう」
『いえ、そんな』
「買わせてくれ、それだけ価値があるのだから」
『…はい』
今回の一件で、私は一歩を踏み外した。
高々子供向けアニメのイベント。それに対してこれだけ真摯に向き合って、真剣な顔をする。
ギャップもあるし、その表情にときめいたことを自覚してしまったのだ。
「で、デートすることになったんだ」
『…デートじゃないよ。うん、デートじゃない。あれはファン同士がオフ会とかコミケに行くのと一緒。他意はない、ないはず』
「そのわりには必死だけど?」
『………なに着てこう。化粧とかした方がいいかな…会場まで車出してくれるって言ってたしお礼とか持ってくべきかな…』
「聞いてないうえにデートばりに気合いいれてんじゃん。この前買ったシャツとショーパンなら動きやすくて可愛いっしょ。そもそもチケットの礼にって送ってもらうんだからそれに礼とか馬鹿か」
『ぐ…』
「つか男と車内で二人とか、警戒心なさすぎだし。どうなってもいいってかそれ狙い?どんだけ好きなんだよ」
『まだ好きじゃない!』
「まだ…ね。証言とれましたー」
『ああああ…』
「まあ普通に楽しんでこいよ。折角話し合う奴といけるんだから」
『…うん』
会話の通り、御剣検事とトノサマンのイベントに行くことになって、一緒に回ることになった。
確かに一人でいるよりも解る人との方が楽しい。
楽しいけど。
職場の上司と外でマンツーマンとか…どうなの。
そうやって悩んでいたのに。
(結局、同僚の言った通りの格好で来てしまった)
強いて違いをあげるなら、ネックレスをつけたことくらいだ。
「待たせたか」
『いえ。コンビニに寄りたかったので早めに来ていただけです』
「そうか、ならいいのだ。乗りたまえ」
『失礼します』
ドアを開けられたのは助手席。乗り込めば彼の匂いでいっぱいで、なんだかとても緊張した。
『すみません、車を出していただいて』
「構わない。いい情報を貰った上にイベントに行く機会まで貰ったのだ。このくらい当然だろう」
『…ありがとうございます』
本当にデートみたいだ。
職場では殆どない、他愛ない会話を弾ませて目的地に向かう。
会場に着けばやはり混んでいて、解ってはいたが人酔いしそうになった。
「大丈夫か?」
『はい。思ったより人がいたのでびっくりしちゃって…』
「そうだな。グッズショップも並んでいるし、想像よりも大規模だ」
『本当ですね。ステージまで辿り着けるか心配になります』
「手を繋ごうか?」
『そ、そんなに子供じゃないです!』
そういうつもりではなかったのだが…
と彼は小声で呟いたけれど、それに返事をする前に言葉は繋がれてしまう。
「それぞれブースもみたいが、やはりステージの最前列をとりたいものだな」
『もう並びましょうか。飲み物やお手洗いは交代で行きましょう』
そして、並んでいる間もそれについては何も聞かず、ひたすらトノサマンの話で盛り上がっていた。
ひとしきりはしゃいで、ひとしきり楽しんで、ひとしきりお土産を買い込んだ頃。
イベントの終了時間になれば、日も沈んでくる。
『楽しかったですね!』
「ああ」
来たときのように助手席に乗り込んで、夕陽に照らされた彼の顔を見た。
(やっぱりカッコいいな)
けれど、どきどきしてしまってそれも長くは続かず。
眩しいと思いながらも、夕陽差すフロントガラスへ視線を戻した。
「…折角だ、夕食を一緒にしないか?」
『へ?』
「いや、予定があるなら無理にとは言わないか…」
『いえそんな、寧ろご一緒していいんですか?』
「勿論。ずっと、いつか誘いたいと思っていたのだ。何か食べたいものはあるか?」
『あ…えっと、』
自分がなんて答えたのか覚えてない。でも、そうか、と車のエンジンをかけたところ、何か答えたんだろう。
私の頭の中は何が食べたいとか考える余地はなかった。
"ずっと、誘いたいと思っていたのだ"
ずっと?ずっとっていつから?
なんで誘いたかったの?
頭の中をグルグル回る疑問で手一杯だったから。
単に親睦を深めるなら、既に新人歓迎会なるものが開かれているし、今日のイベントだけでも大分近くなった。
これ以上、近くなりたいのだろうか。
いや、でも。ずっと、という手前、以前から興味を持っていてくれたのだろうか。
ここまで浮かれておいてなんだが、お世辞とか社交辞令なんてこともある。
(ああ、もう。私の馬鹿)
結局、期待しているんだ。
何を…なんて考えたくないけど。
「ここにしよう」
車が止まったのはイタリア料理店。私は無難にパスタとでも答えたんだろう。
慣れた様子で店内へ進む彼を追って、通された窓際の席へ座った。
『…素敵なお店ですね。……高そう』
「ふっ、女性を安い店に連れていく訳にはいくまい?」
『そ、そんな』
「君みたいな可愛らしいヒトなら尚更だ。…ああ、今はこういうのもセクハラなのか。嫌だったら遠慮なくいってくれたまえ」
『あ…大丈夫、です。私も、御剣さんみたいな格好いい人と来れて、嬉しいです』
「む、お世辞でも嬉しいものだな」
お世辞じゃない、と言おうとしたのに。丁度メニューと水を持ってきたウェイターに遮られた。
「口に合っただろうか」
『はい。とても美味しかったです!あの、ご馳走さまでした』
お店から出て、車で駅どころか自宅近辺まで送って貰った。
名残惜しいながらも、シートベルトに手をかける。
「…また、誘ってもいいだろうか?」
すると、横から伸びてきた手が、私の横髪を耳にかけて。
流れ込むように囁いた。
『も、勿論!是非、』
「そうか。ではまた、近いうちに」
反射的に答えて、ご馳走さまでしたっ、と、逃げるように帰宅した。
「……逃げられてしまったな」
ああ、神様。
愛があれば年の差なんて
あっても幸せになれますか?
(あああ、また誘うのってご飯かな、トノサマンかな)
(誘われてから考えろ)
「……成歩堂、年の差恋愛についてどう思う?」
「え…とうとうオバチャンと」
「違う!年下だ!」
年の差と幸せについて
考えるより
落ちてみれば?
Fin.