御剣詰め合わせ
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《ヤキモチ》
つまらない。
とにかくつまらない。
裁判を終えて、待ち合わせている彼女のもとへ急いで来たのに。
当の彼女は何やら話し中だった。
別に、"私以外の輩と話すな"とまで言うつもりはない。
クールながらに誰とでも話せる気さくな性格は、彼女の魅力の一つだから。
只、話し始めに交わした握手が妙に親密そうで。
まして、相手が気に食わなかった。
楽しげに笑みを零す相手が、成歩堂だという事が。
こちらに気づいた彼女が手を振る。続いて成歩堂も振り返ってそれに倣う。
モヤモヤしたものを抱えながら近づいていくと、先に口を開いたのは成歩堂だった。
「久しぶり、御剣」
「ああ、久しぶりだな。また調べものか?」
「まあね、そんなとこ」
ニット帽を被って、屈託のない笑顔を向けるこの男。
弁護士バッジを失っても、たまに裁判所へ訪れる。
「…待たせたな、雨月。ところで何の話をしてたのだ?」
「あれ、気になるの?」
「嫌に楽しげだったのでな」
成歩堂は意図を察したのか、愉しそうに笑って"たいしたことじゃないよ"といった。
「じゃあ、またね」
『えぇ、また』
成歩堂が立ち去って、二人になる。裁判所のロビーにはもう私達しかいなかった。
『さて、帰ろっか?』
にっこりと笑う彼女。
私はこの表情が好きだった。
悪戯っ子のようで優しい笑みを、誰にも渡したくない。
「何の話をしていたのだ?」
『え?あぁ、さっき?』
"取り留めのない世間話"そう答えた彼女を壁へ追い詰めた。
「それでもだ、何の話をしていたのだ?」
彼女に、あの笑みを零させた話題は何だったのか。
壁に手をついて彼女の動きを封じながら更に問う。
『怜侍のこと』
「…?」
『最近、というかここ数年で変わったなって』
「変わった?」
『なんか最初は冷徹で冷酷な冷えたニヒルだったのにさ。よく笑うようになったし、愛想もよくなったよねって』
そう言ってまたあの笑みを零す。
本当に、何とも言えず可愛らしい。
「そうか…」
『何、妬いてたの?』
「ち、違う」
『嘘。あれだけ眉間寄せて睨んでてそれは通らないよ、御剣検事?』
ニタニタ。
そんな笑みを浮かべる。
彼女は私が見ていたことに、最初から気づいていたのだ。
「なるほど、わざとか」
『まあね。ちょっとした仕返しも含めて』
「仕返し…だと?」
『愛想よくなったらモテるんだよね。怜侍。最近よく女性係官と話してるじゃない?』
そういわれれば、なにかと話しかけて来る係官がいた気がする。
『私だけモヤモヤするのは不公平かなって。これでお相子』
「…貴女も妬いていたのか…」
『"も"ってことは怜侍も妬いてくれてたんだ』
「む!…まあ、な」
楽しそうに笑う雨月。
こんなに近距離で。
こんなにも無防備に。
「…独り占めしたくなってしまうな」
『ん?』
「いや…。さあ、ランチにいくのだろう?」
『あ、時間ギリギリかも…急ごう!』
パスタの美味しいお店があるのだと、ランチの待ち合わせをしていたのだ。
昼休みも半ば、急くように手を引く雨月。
本来なら妬くほどのことではないのかもしれない。
お互いにそんなことは解っていたけれど、独占欲を満たす方法が上手く思いつかなかった。
お互いを信じているから浮気の心配なんてなくて、社会の中で輝く相手に魅力を感じるから監禁なんて掠めもしない。
小さな小さな嫉妬。
むしろ、他者からの憧憬を集める恋人が自分に独占欲を抱く事…それが自分を満たした。
『怜侍?』
歩みの遅い私を振り返るその瞳は。不思議そうで、心配そうで。
「…可愛らしいな」
『ちょ…何、急に…』
「思ったことを口にしたまでだ」
さりげなく知った、彼女の焼き餅を。今更ながら噛み締めた。
『いつも口にしないから驚いてるんだけど…』
「いつも口にしたのではつまらないだろう?」
『うー…ん』
「口にしなくとも、いつも思っている」
君が好きだと…
誰にも渡したくないと…
『馬鹿』
"私だってそう思ってるよ"
(あっ、ランチ間に合わない…)
(今日はベントーランドに世話になるか)
fin.