御剣詰め合わせ
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《酔い彼氏》
彼はたいして酒に強くない。けど、自分の飲める量をわきまえて飲む人だ。
だから驚いたのだ。
「御剣検事を送って来たッス!」
という声と共に現れた、泥酔状態の天才検事に。
『お疲れ様です、糸鋸刑事。彼…相当飲んだの?』
「そッスね…今日はやけに勧められてたッス」
断り切れなかったのだろう。まあ、彼らしい気もしなくもない。
『全く、珍しい事もあるのね。刑事、お茶飲んでく?』
「いや、遠慮するッス。じゃ、お気をつけて」
お気をつけて?私が?
首を傾げるうちに玄関がしまる。
と同時に玄関の縁に座っていた酔っ払いが抱き着いてきた。
『ちょ、怜侍?』
「…」
いつもの抱きしめてくれる真摯な感じじゃない。
一方的でいて、どこか甘えたような抱き着き方。
あまりの力強さにそのまま廊下に座り込んだ。
ちょっとお酒臭いし、男の人だけあって重たい。
『怜侍、お水持って来るから離して?』
「断る」
断る。って…
ますます強く抱き着かれる。酔っ払いの力とは恐ろしく強いもので、全然身動きがとれない。
『お水飲んだらギュッてしてあげるから』
半ば諦め気味に自棄になってあやせば、思いの外腕の力は緩んで。
彼は小さく頷いた。
(気をつけてってこういう事か)
グラスに冷たい水を注ぎながら苦笑する。
天才検事の酒癖が抱き着き魔なんて、中々いいギャップだと思う。
「雨月…」
『うわっ』
急に背中にかかった重みと、耳元にかかった熱い呼気にグラスを落としそうになった。
『もう、水飲んでからって…』
「待てなかった」
そんな真っすぐ言われても困る。
何とか台所からソファーまで引きずっていって、横からべったりくっついている彼に水を手渡す。
『はい』
彼の手に移った水はどんどん消えていって、空になったグラスはテーブルに置かれた。
「ム…」
やや不機嫌な顔になった彼は何か言いたげに見つめて来る。
『怜侍?』
「約束」
やや間を置いて、
"水飲んだらギュッてしてあげるから"
合点がいった。
(水一杯じゃ酔いは醒めなかったか…)
自分で言ったから仕方ないけど、彼の思惑にはまった気もする。
『ん』
ソファーに膝立ちして首に腕を回す。文字通りギュッと抱きしめた。
『満足?』
「まだ」
背中に回された腕の力は強くなる一方。
逃げる余地もなかったけど、その名残惜しそうに声に逃げる気力もなかった。
「…雨月」
まだ。という割には、眠そうな声をしている彼の顔を覗き込んで一瞬怯んだ。
彼が、泣きそうに見えたから。
「雨月…」
『私はここにいるよ』
抱きしめる腕を強くすれば、急に束縛する力が緩んだ。
「スー…スー…」
耳を傾ければ小さな寝息が聞こえて、少し笑った。
酔うと感情のタガが外れるみたいだけど、彼の場合は言葉でなくて行動に出るらしい。
(敵わないなぁ)
いつも理性的な彼だから、甘えたい気持ちが知らず知らず溜まっているのかもしれない。
そんな風に考えたら頬を染めた寝顔が愛しかった。
『このまま寝せておいたら風邪引いちゃうよね』
独り言を呟いて寝室から毛布を持って来る。
彼を運ぶよりかはずっと簡単だ。
『怜侍、寝るよ?』
座ったままの体勢の彼を横にしようと引っ張れば、自分の方に倒れ込んで来るわけで。
何がどうなったか、私の肩に首を預けて寝息を立てる彼に微苦笑を浮かべて毛布を被る。
『おやすみ』
君にそっと口づけを落として、今日は私もソファーで寝ます。
朝起きた御剣が、何も覚えていなくて。目覚めた体勢に困惑するのは、まだ誰も知らない。
オマケ
「昨日の御剣検事、雨月の所に帰るってきかなかったッス。局長のスピーチが長引くとドンドン機嫌が悪くなって…」
「……糸鋸刑事」
「み、みみみみ御剣検事!いつからそこに!」
「今月の給与査定楽しみにしておくことだな…」
『楽しみにしといて、悪くしないから』
眉をひそめる御剣と、可笑しそうに笑う雨月と、ばつの悪そうな糸鋸刑事の廊下での立ち話。
Fin.