酔いどれ夕神と酔いどれ彼女
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《酔余の七夕》
『迅さん、七夕しましょう!』
「……今、何月だ?」
『8月です』
「七夕は何日だ?」
『…?8月7日じゃないんですか?ほら、』
彼女、雨月が持ってきたチラシ。確かに8月7日、七夕祭と書いてある。
「…それは、その地域限定だろ?世間一般は7月7日だ」
『私の地元は8月7日なんですよ…皆気が早いと思ってたらそういうことですか…』
「解ったから悄気るな」
彼女宛に、実家から届いた笹や短冊。それから地酒やつまみ。
丁度大河ドラマの舞台になっているらしく、それにならって土産品も増えたらしい。
『…七夕、してくれますか?』
「あァ。今の方が天の川もよく見えんだろ」
『ふふ、じゃあ準備しないと』
ハサミにノリに折り紙。
飾り付けに使いそうなものを机に広げて、彼女は楽しそうにしている。
「… こんなもんか」
『え、すごい!そのジグザグして丸くてポンポンしてるの、どうやって作るんですか!?』
「お前…オノマトペの表現力…ククッ」
『笑わないでください!だって、それなんていうかわからないし!』
「俺も知らねェよ。雨月はその輪っこつなげてなァ」
『…むぅ。もういいですよ』
飾り切りを上手く表現できなかった彼女はむくれてしまったが、せっせと飾りを作っていく。
『できた!』
「まあ綺麗なこった」
『次は七夕ご飯!』
「七夕ごはん??」
『うちでは素麺にオクラをいれて、天の川と星っぽいなーっていうご飯を作ってました。あと、星形に抜いたゼリー』
「それは地域どころか雨月の家の行事だな」
でも、それも悪くない。
湯を沸かしながら果物を星形にくりぬいていく。
『マンゴーがベガで、メロンがアルタイル…スイカがデネブ?』
「デネブは七夕関係ねェだろ」
『そっか』
「てっきり星形のゼリーがポンと出てくんのかと思ったら、結構手が込んでんなァ」
『黒い器に透明なゼリーを流して、星形のフルーツを浮かべて。皆で星を掬いながら食べるんです』
「そう聞くとすげェ粋」
『でしょ?』
ゼリー液や出汁や素麺なんかが出来上がってきて。
日も暮れてくる。
ゼリーを冷やしている間にシャワーを浴びれば、甚平が用意してあった。それを着て出ていけば、先に上がっていた彼女も浴衣を着ている。
『どうですか?』
「似合ってらァ」
『迅さんも似合ってますよ』
ベランダに御座を敷いて、二人で座り込む。
クスクスと笑いながら素麺をつついていれば、『あっ』と、彼女が思い出したように何かを冷蔵庫から運んできた。
『地元が盛り上がってるって、地酒セット送ってくれたんです。呑み比べしませんか?』
運んできたのは呑み比べ用の、400mlくらいの瓶を数本。
「ヘェ、酒蔵も違うのか」
『この酒蔵は有名ですよ、蔵開きのイベントは結構混みます』
「じゃあそれから開けるか」
"直虎"というその酒。
地酒グラスに1杯ずつ注げば瓶は空になる。
『結構呑みやすいですねぇ』
「あァ、なんつうか、甘いな。果物みたいだ」
『辛口がいいですか?』
「これも旨いがな」
じゃあ、と出してきたのが"花"。堂々と辛口と書いてある。
『わ、辛い』
「いいな、これ」
『やっぱり好みは辛口ですか…後は…書いてないので片っ端からいきますよ』
次いで出てきたのが"六文銭"
「これで沸いてんだろうなァ」
『ドラマ効果恐るべしです』
それから"瀧澤"
『これ高いんですよねぇ…』
「このくらいの量で味見じゃねェと手が出ねェな」
あと、"亀齢"
『キレイ、と読むみたいですね』
「長生きしそうな名前だな」
他にも"水尾"、"大雪渓"、"明鏡止水"、"奏龍"、"鼎"と続いた。
『これは…ナキリュウですね。味噌も美味しい蔵ですよ』
「奏をナキって読むのか。こっちは…カナエでいいのか?」
『はい。おりがらみは夏限定です』
「ヘェ…この濁りも瓶の色もいいなァ」
ここまでで空けた瓶は10本。
二人とも1種類を1合ずつ呑んでいるから、一升ずつ空けたことになる。
まァ、口直しに水を同じだけ挟んでいるから悪酔いはしないだろうが。
『次がラストです。その名も"ひや"』
「ひや?冷酒で飲めと言わんばかりの名前だな」
『そうなんですよ、これ、氷入れて呑むんです』
「は?匂い消えちまわねェか?」
『氷に負けない香りが売りらしくて、凄く冷して呑むものみたいですね。…というわけで、今まで冷蔵庫にいた"ひや"と、冷凍庫で冷やしたグラスと氷です』
ジャジャーンと言いたげな彼女の足元は若干おぼつかず、再び隣に座った上半身はこちらに寄りかかる。
『迅さんからどうぞ』
そのまま酒を注いでくれた雨月の項が目に入り、夏な上に酔っている体に一層熱が入った。
「…、冷たくて旨いな。ほら、お前さんのも」
そんな火照りに、キンキンに冷えた酒は気持ちよく喉を流れる。
瓶を取り、彼女に注ぎ返せば
『ひゃぁ…本当に冷たい…美味しいですねぇ』
と力の抜けた笑顔を見せた。
「……。……あ、そういや、短冊はどうした」
その笑顔に見惚れること暫し。耐えられず背けた視線の先には綺麗に飾られた笹。だが、肝心の短冊がかかっていない。
『あ。まだ書いてないですね!書かなきゃ…はい、迅さんも』
それに気づけば、彼女は短冊と筆ペンを持ってきて、俺にも一組渡す。
(これといってなァ…)
星に願い事をする歳じゃねェし…と、隣の彼女を見遣れば、彼女も悩むように筆を止めていた。
「…願い事がしたくて楽しみにしてたんじゃねェのか」
『望ならいっぱいありますよ。でも、織姫と彦星に願うもの…というとなかなか』
「たとえば?」
『迅さんとずっと一緒にいたい。でも、距離で引き裂かれても、私は絶対に会いに行きます。…例え天の川の向こうであっても。1年に1回の逢瀬で妥協した彼らには叶えられないと思いませんか?』
「…」
『うーん…やっぱり無病息災と交通安全ですかね。こればっかりはどんなに努力してもなるときはなりますから』
彼女はそう言って、
"迅さんが健康に長生きしますように"
と書いた。
「俺だけ長生きしてどうすんだ」
『そうですね、じゃあ"迅さんと一緒に"にします』
クスクスと笑いながら少し曲がった字で綴られるそれ。
なんだか愛しくなって、彼女の髪をそっと撫でる。
『ふふ、くすぐったい。迅さんは?なんて書きますか?』
「……そうだな」
俺の望だって、彼女と共にあり、彼女と幸せであることだ。
そのための無病息災は彼女が願ってくれた。収入や職に関しては俺の努力のみ。
恋にかまけて仕事をサボった彦星達に願うのは、彼女がいうように叶う気がしない。ならば…
「雨月の願いが叶いますように」
『え??』
「俺はお前といれば幸せになれる。だから、それが叶えば十分だ」
仲良く並んで括りつけられた短冊。
彼女はそれに、赤い頬で微笑む。
『私、迅さんに選んで貰えてよかった』
「そうだな。俺もお前に選んでもらえてよかった」
『ふふ。きっと織姫と彦星にも負けない夫婦になれるね』
「はっ、最初から俺らの勝ちだ」
彼らが1年に1回しか渡れねェ川に
7年かけて橋をつくりあげたんだから。
『迅さん…どっちの岸にいく時も、ずっと一緒ですよ』
「あァ、ずっと一緒だ」
(その川が)
(天の川から)
(三瀬川になったとしても)
.
(あっ、ゼリー食べ忘れました…)
(明日のデザートだな)
Fin.
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