酔いどれ夕神と酔いどれ彼女
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《酔態に酔わされた》
『夕神さんのアホ』
訂正、彼は凄く賢い。
『夕神さんの意地悪』
訂正、彼はとっても優しい。
『夕神さんの…』
ああ残念、もう出てこない。
『ばかぁ…寂しいよぉ』
正論、彼は何も悪くない。
強いて恨むなら辺境の地で事件を起こした犯人と、一本しかない吊り橋を焼け落とした雷だ。
オマケに電波塔までやられたらしい。
幸い、彼も捜査員も無傷、食料・寝床ともに問題なく、明日の朝には救出されると局から連絡が入った。
犯人も確保されており、留置所に収監済み。
心配することはないのだけど…
『私の誕生日じゃなくなっていいじゃない!彼の誕生日も入れて365分の2くらい避けれそうなもんでしょ!携帯も繋がらないとかなんなの!!』
神様は中々悪戯が好きで、かれこれ夕神さんに祝ってもらえない誕生日8回目を迎えようとしている。
別に、祝ってもらいたいのが主ではない。
私が生まれてきてよかったと心の底から思うのは彼の傍にいる時だから。
それを今日噛み締めたかったんだ。
特別な言葉とか、高価な贈り物じゃなくて。それだけだったのに。
『夕神さん…無事でよかった』
そんな当たり前の筈のベクトルを再び噛み締めるなんて。
(ああ、そういえば)
本物はいないけど、同じ名前の飲み物があった。
『今日はこれに付き合ってもらおう』
食品棚の奥にしまっておいたGin(ジン)のボトル。
正月に飲んでからは思い出のあるお酒だけど、二人の時は妙に意識してしまって飲めないでいた。
『特に準備もしてなかったし…ジンフィズくらいかな』
炭酸水とグラスを取りだしながら呟く。
本当は、雑じり気のない"彼"を楽しみたいだけなのだけど。
× ×
(なんでよりによって今日なんだ)
心の中で悪態を吐くのももう何度目か解らない。
朝早くに呼び出されて、悪天候の中で夕方近くまでかかった捜査の結果がこれだ。
思いっきり陸の孤島。しかも電波が繋がらないから、捜査員の持ってたトランシーバーで最低限の情報しか手に入らない。
ここまで来てやっと気付いた。
アイツの誕生日中には帰れないということ。
別に、忘れていた訳ではない。
昨晩は帰りが遅く、明日は休み。となれば、今日帰って心の底から祝ってやろう。遅くまでかかっても、翌日が休みなら問題ない。
そう計画していたんだ。
雨月のことだから、"気にしてないよ"とか言いながら拗ねた振りをするかもしれない。
実際は逆で、本当に拗ねているのは解っている。
だから。一層。
(どんなに疲れてようが、アイツが寝てようが言えばよかった)
後悔ってものはとめどなく溢れてくる。
そんな苛立つ夜が明けて、一先ず帰宅するよう指示が出た。
会ったら最初に何と言おうか、そんなことを思いながら部屋に帰れば、一瞬言葉を失った。
「雨月?」
リビングのソファーに埋もれているのは間違いなく彼女。
規則正しい寝息も聞こえてきたが、一番驚いたのが…
「お前ェさん、それは狡くないか?」
とある蒸留酒の瓶を抱えたままなこと。
自分としては余り思い出したくない、恥ずかしい台詞を吐いたあの酒。
それを見たら、なんとなく彼女の思考回路は解ってしまって。
「…来年は何がなんでも傍にいてやらァ」
ソファーの横にそっと屈むように腰をおろし、彼女の顔を覗き込む。
「1日遅れで悪ィな。誕生日おめでとさん」
そして、幸せそうな寝顔を眺めながらその頬を撫でる。
さすがに自分もクタクタだったが、可愛らしい寝姿にあてられて。
昨日言うはずだったもう一つの台詞とともに彼女の手を取った。
誕生日プレゼントは
俺の苗字
なんて。
‐酔態に酔わされた‐
(気障すぎるかィ?)
左手に感じる違和感で目を醒ますのは、もう少しあとのこと。
Fin.