王泥喜と地学ガール
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《君が隣の夜》
俺は今、ガッチガチに緊張して車の助手席に座っている。
運転しているのは雨月さん。
食事に誘ったものの、俺は運転が出来ず、彼女は自家用車で通勤していた。
「…なんか、すみません」
『じゃあここで降りる?』
「えっ!」
『…冗談だよ』
こちらをチラリとも見ずに彼女は言った。
俺はこの車がどこに向かってるのかもしらないのだ。
『で、誘ったからには行き先決まってるんだよね?』
「あ、いや、何が食べたいか聞いてから行こうと…」
『…………あっそ。私が行きたいとこでいいんだ』
「…まあ」
『好き嫌いは?』
「いえ、特に」
そんな会話をして今に至るのだけど、本当にどこに向かってるんだろ。
大した会話をすることも出来ずに心の中でため息を付けば、車はスルリと左折して駐車場に入った。
「…え、ここ」
『何よ、私の好きなとこでいいんでしょ?』
「そうですけど……」
だって、予想もつかないような看板が目に入ったんだ。
[牛丼]
って。
呆気にとられる俺を置いて彼女は先に降りていった。慌てて追い掛けるように店に入れば、いつも同じものを頼むのか、メニューも見ずに注文していた。
『牛丼中盛りツユダク、おんたまと青ねぎ。店内で』
「生憎店内満席でございまして…」
『じゃあ持ち帰り』
「かしこまりました」
さっぱりとしたやり取りを眺めていれば、怪訝な顔で振り返った雨月さんに"頼まないの?"と言われてしまった。
会計を済ませる彼女の横で少し慌てて注文して、出来上がったものを受け取る。
先に戻っていた雨月さんの車に乗り込めば、彼女の分の夕食を預けられた。
『…この辺詳しいの?』
「多少は。歩いて捜査したことありますから」
『じゃあそれが食べられそうな場所教えて。なければ君を駅まで送って解散』
「…!えっと、その国道右折してください!」
なんとか思い出したのは平日は一般に解放されている公共施設。メインはホールだけれどラウンジがあって、多少の仕切りもあり、持ち込みも可だったはず。
一度しか来たことはないけれど、どうやらちゃんと案内できたらしい。
殆ど車のない駐車場に彼女の車が加わる。
『君って変わり者だよね、私なんか食事に誘ってさ。何の目的?』
「俺は、雨月さんと仲良くなりたくて」
『弁護士って大変だね、そこまでして情報得なくちゃいけないの』
「なっ!そんな意味じゃないですよ!純粋に人として…」
『はは、余計に変わってる』
割り箸を綺麗に割って、買った牛丼を口に運びながら彼女は笑う。
俺は、彼女が笑ったところを初めて見た。
『私はこんな女だよ。男の子に食事に誘われて牛丼のチェーン店に連れていくような』
これでもう興味もないでしょう、とでもいいたげな笑み。
「…ちょっとびっくりしましたけど、もっと貴女のこと知りたくなりました」
それに、俺も負けないように笑って返せば。彼女は少し目を見開いて、さっきより柔らかく笑った。
『たとえば?』
「…デートしませんか。って行ったらどこに行きたがるのか、とか」
『んー、そうね……』
牙琉検事のコンサートを断る彼女の興味がどこに向かうのか、そんな好奇心もあってそんな質問をした。
彼女が考え始めてから、まるで誘っている見たいだと思う。
『…化石館』
「好きなんですか…恐竜とか」
『うん、好きかな。アンモナイト可愛いじゃない』
「ティラノサウルスとか…?」
『レックスを全身骨格で見ると感動ものでしょ?』
からかうように、楽しそうに、彼女は笑う。
少年みたいだ、とふと思った。
「今度、一緒に行きませんか。俺も見たくなりました」
『私の非番に合わせられるの?私、これでも忙しいんだけど』
「俺は暇な弁護士ですから。大丈夫です!」
『ははっ、本当に変わってる』
彼女は食べるのが早い。
空になった容器を袋にしまいながら頬杖をついた。
『…これから時間ある?私が、仲良くして理解できる女なのか解らせてあげる』
誘われている、となんとなく解ったけれど。
その笑みにどうしてか悲しみが見えて、コクリと頷いて残りの牛丼を掻き込んだ。
昨日も、今日の裁判が終わったときも。彼女の家に来ることになるなんて思いもしなかった。
『適当に座って。お茶とか持ってくる』
「いえ、お気遣いなく……」
彼女、雨月さんの部屋。すっきり片付いたリビングに通されて、ソファーに座った。
『はい、お茶。あと、これが私の趣味』
コップに揺れる緑茶と、彼女が抱えた図鑑が目に入る。
[古代生物図鑑]
まさしくだった。
彼女は俺の隣に腰を下ろして、ページを開く。
何度も見たのだろう、背表紙やページの端がボロボロだ。
『ね?こういう趣味なの。からかってたんじゃないんだよ』
「本当に好きなんですね。読み込むくらい」
『ええ。恐竜だけじゃなくて昔の生き物が好きなの』
彼女の指が、開いたページのプテラノドンをそっと撫でる。翼竜、と分類されるそれらは恐竜ではないと後から説明された。
「いいじゃないですか、古代生物、カッコイイし。俺にも教えてくださいよ」
『…変だ、って言わないの?』
「どこがですか?」
『………なんでもないよ。じゃあ、最初のページからいこうかな。アノマロカリスとか…』
彼女は楽しそうに図鑑をめくっていった。知ってる生き物や、自分の祖先の魚、奇妙な生き物。
時間はあっという間にすぎていく。
『……で、これがフタバスズキリュウ。国立科学博物館に標本があるんだ』
にこり、と今までにない楽しげな笑みで彼女は顔を上げた。
図鑑を一緒に覗き込んでいた俺とは、目と鼻の先。
「…っ//」
『顔真っ赤』
「だって!それはっ!」
『遅くなっちゃったし、送るよ。ってか私明日は仕事だからそろそろ帰ってもらわないと』
「俺の話聞く気ないですね」
『え、泊まって行きたいの?』
「ち、違…違わなくないけど違います!」
『あは、もっと赤くなった』
散々からかわれながら車の助手席に乗り込んだ。
最初の、そっけない態度とは違って明るく笑う姿を見れた。
しかも彼女の隣で。
「…今度、博物館に誘ってもいいですか?」
『何、デートのお誘い?予想以上に積極的だね』
「そんなつもりじゃ…まあ、そうなんですけど…」
『まだ一回食事しただけじゃん』
「…う」
『しかも私の独断で』
「…うう」
駅の駐車場へ車を止めて、彼女は街灯の薄明かりの中で悪戯な笑みを浮かべた。
『…今度は君の好きなところに食べに行こう。それからでいいんじゃないかな、オドロキくん?』
「は、はい!」
望みあり、と思っていいんだろうか。
いや、そう思うことにしよう。
改札まで見送ってくれた彼女は小さく手を振っていた。
(…オデコ君、随分抜け駆けしてくれたね)
(勝負ありましたね)
(まだだよ。告白して来なかったんだろ?)
(あぁっ!)
(今度は化石の歌でも書こうかな)
俺は今、ガッチガチに緊張して車の助手席に座っている。
運転しているのは雨月さん。
食事に誘ったものの、俺は運転が出来ず、彼女は自家用車で通勤していた。
「…なんか、すみません」
『じゃあここで降りる?』
「えっ!」
『…冗談だよ』
こちらをチラリとも見ずに彼女は言った。
俺はこの車がどこに向かってるのかもしらないのだ。
『で、誘ったからには行き先決まってるんだよね?』
「あ、いや、何が食べたいか聞いてから行こうと…」
『…………あっそ。私が行きたいとこでいいんだ』
「…まあ」
『好き嫌いは?』
「いえ、特に」
そんな会話をして今に至るのだけど、本当にどこに向かってるんだろ。
大した会話をすることも出来ずに心の中でため息を付けば、車はスルリと左折して駐車場に入った。
「…え、ここ」
『何よ、私の好きなとこでいいんでしょ?』
「そうですけど……」
だって、予想もつかないような看板が目に入ったんだ。
[牛丼]
って。
呆気にとられる俺を置いて彼女は先に降りていった。慌てて追い掛けるように店に入れば、いつも同じものを頼むのか、メニューも見ずに注文していた。
『牛丼中盛りツユダク、おんたまと青ねぎ。店内で』
「生憎店内満席でございまして…」
『じゃあ持ち帰り』
「かしこまりました」
さっぱりとしたやり取りを眺めていれば、怪訝な顔で振り返った雨月さんに"頼まないの?"と言われてしまった。
会計を済ませる彼女の横で少し慌てて注文して、出来上がったものを受け取る。
先に戻っていた雨月さんの車に乗り込めば、彼女の分の夕食を預けられた。
『…この辺詳しいの?』
「多少は。歩いて捜査したことありますから」
『じゃあそれが食べられそうな場所教えて。なければ君を駅まで送って解散』
「…!えっと、その国道右折してください!」
なんとか思い出したのは平日は一般に解放されている公共施設。メインはホールだけれどラウンジがあって、多少の仕切りもあり、持ち込みも可だったはず。
一度しか来たことはないけれど、どうやらちゃんと案内できたらしい。
殆ど車のない駐車場に彼女の車が加わる。
『君って変わり者だよね、私なんか食事に誘ってさ。何の目的?』
「俺は、雨月さんと仲良くなりたくて」
『弁護士って大変だね、そこまでして情報得なくちゃいけないの』
「なっ!そんな意味じゃないですよ!純粋に人として…」
『はは、余計に変わってる』
割り箸を綺麗に割って、買った牛丼を口に運びながら彼女は笑う。
俺は、彼女が笑ったところを初めて見た。
『私はこんな女だよ。男の子に食事に誘われて牛丼のチェーン店に連れていくような』
これでもう興味もないでしょう、とでもいいたげな笑み。
「…ちょっとびっくりしましたけど、もっと貴女のこと知りたくなりました」
それに、俺も負けないように笑って返せば。彼女は少し目を見開いて、さっきより柔らかく笑った。
『たとえば?』
「…デートしませんか。って行ったらどこに行きたがるのか、とか」
『んー、そうね……』
牙琉検事のコンサートを断る彼女の興味がどこに向かうのか、そんな好奇心もあってそんな質問をした。
彼女が考え始めてから、まるで誘っている見たいだと思う。
『…化石館』
「好きなんですか…恐竜とか」
『うん、好きかな。アンモナイト可愛いじゃない』
「ティラノサウルスとか…?」
『レックスを全身骨格で見ると感動ものでしょ?』
からかうように、楽しそうに、彼女は笑う。
少年みたいだ、とふと思った。
「今度、一緒に行きませんか。俺も見たくなりました」
『私の非番に合わせられるの?私、これでも忙しいんだけど』
「俺は暇な弁護士ですから。大丈夫です!」
『ははっ、本当に変わってる』
彼女は食べるのが早い。
空になった容器を袋にしまいながら頬杖をついた。
『…これから時間ある?私が、仲良くして理解できる女なのか解らせてあげる』
誘われている、となんとなく解ったけれど。
その笑みにどうしてか悲しみが見えて、コクリと頷いて残りの牛丼を掻き込んだ。
昨日も、今日の裁判が終わったときも。彼女の家に来ることになるなんて思いもしなかった。
『適当に座って。お茶とか持ってくる』
「いえ、お気遣いなく……」
彼女、雨月さんの部屋。すっきり片付いたリビングに通されて、ソファーに座った。
『はい、お茶。あと、これが私の趣味』
コップに揺れる緑茶と、彼女が抱えた図鑑が目に入る。
[古代生物図鑑]
まさしくだった。
彼女は俺の隣に腰を下ろして、ページを開く。
何度も見たのだろう、背表紙やページの端がボロボロだ。
『ね?こういう趣味なの。からかってたんじゃないんだよ』
「本当に好きなんですね。読み込むくらい」
『ええ。恐竜だけじゃなくて昔の生き物が好きなの』
彼女の指が、開いたページのプテラノドンをそっと撫でる。翼竜、と分類されるそれらは恐竜ではないと後から説明された。
「いいじゃないですか、古代生物、カッコイイし。俺にも教えてくださいよ」
『…変だ、って言わないの?』
「どこがですか?」
『………なんでもないよ。じゃあ、最初のページからいこうかな。アノマロカリスとか…』
彼女は楽しそうに図鑑をめくっていった。知ってる生き物や、自分の祖先の魚、奇妙な生き物。
時間はあっという間にすぎていく。
『……で、これがフタバスズキリュウ。国立科学博物館に標本があるんだ』
にこり、と今までにない楽しげな笑みで彼女は顔を上げた。
図鑑を一緒に覗き込んでいた俺とは、目と鼻の先。
「…っ//」
『顔真っ赤』
「だって!それはっ!」
『遅くなっちゃったし、送るよ。ってか私明日は仕事だからそろそろ帰ってもらわないと』
「俺の話聞く気ないですね」
『え、泊まって行きたいの?』
「ち、違…違わなくないけど違います!」
『あは、もっと赤くなった』
散々からかわれながら車の助手席に乗り込んだ。
最初の、そっけない態度とは違って明るく笑う姿を見れた。
しかも彼女の隣で。
「…今度、博物館に誘ってもいいですか?」
『何、デートのお誘い?予想以上に積極的だね』
「そんなつもりじゃ…まあ、そうなんですけど…」
『まだ一回食事しただけじゃん』
「…う」
『しかも私の独断で』
「…うう」
駅の駐車場へ車を止めて、彼女は街灯の薄明かりの中で悪戯な笑みを浮かべた。
『…今度は君の好きなところに食べに行こう。それからでいいんじゃないかな、オドロキくん?』
「は、はい!」
望みあり、と思っていいんだろうか。
いや、そう思うことにしよう。
改札まで見送ってくれた彼女は小さく手を振っていた。
(…オデコ君、随分抜け駆けしてくれたね)
(勝負ありましたね)
(まだだよ。告白して来なかったんだろ?)
(あぁっ!)
(今度は化石の歌でも書こうかな)