酔いどれ夕神と酔いどれ彼女
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《君のいない時間》
「出張?」
『はい、なんでも人手が足りないとかで…一週間ほど』
「まァ、それも経験だな。気をつけて行ってこい」
と、彼女を見送ったのは3日前。
法廷係官として働く彼女は、地方の家庭裁判所へ短期の助っ人として出張した。
それが、新幹線とローカル鉄道を乗り継いで更にバスかタクシーが必要…そんな場所。
流石に通勤は厳しく、出張先の寮に世話になるらしい。
(静かなもんだなァ)
帰りの時間が近かったのと、職場が近いこともあって、何とはなしに一緒に帰路についていたのに。
一人で辿る家路に寂しさを覚えた。
(まだ半分もきてねェのに…)
連休を挟んでる、そう思えば自然な筈の距離も。なんだか遠く感じた。
(今日で一週間、か)
高が一週間、そう思っていたのが間違いだった。
彼女が生活の中に溶け込んでいるのが当たり前すぎて、裁判所ではつい彼女の姿を探してしまう。
帰りも、彼女が乗っていた電車に間に合うように急いでしまう。
そんなことは、誰にも言わないけれど。
明日の朝には帰ってくる彼女、駅で出迎えよう。そんなことを考えていたら。
「雨月?」
電話が鳴った。
『夕神さん、お久しぶりです!』
「あァ、久しぶり」
『すみません、どたばたしてて連絡も出来ず…』
「忙しいのはお互い様だ、構わねェよ。それに、明日には戻るんだろ?」
『それが……』
3日程延期になってしまって。
「………」
『それをお伝えしようと…夕神さん、聞いてますか?』
「…あァ、聞いてる」
『ならいいですけど。そういうことなので』
「まあ、頑張れよ。笑われねェようにな」
『もう!大丈夫ですよ、仕事が速いって褒められてますからー』
怒ったようで、笑いを含んだ話声が懐かしくて。
聴き入っていればホームに入ってくる電車。
『あ、電車きたんですね。ではまた3日後にー』
プツッと、呆気なく切れた電話。
一週間ぶりに聞いた声だったのに、いともあっさりと。
(7年待った女にとっちゃ、7日なんざたいしたことないのか)
そうだよなァ。
なんて、らしくもなくふて腐れた。
.
「…」
あと1日。
明後日の朝には、今度こそ彼女が帰ってくる。
というのに。
部屋に散らかる空き瓶、空き缶。
本当は彼女と飲むつもりだった酒を、寂しさを紛らわすように飲み漁った。
それでもやっぱり頭を過ぎるのは雨月のことばかり。
酔った彼女の、柔らかい笑顔が見たい。
(雨月…)
「…もしもし、夕神さん?」
そう思ったら、自然に電話をかけていた。
『珍しいですねこんな時間に電話し「会いたい」』
『…』
「雨月に会いたい」
動き出した口はなかなか止まらず、次々と言葉を紡ぐ。
「なァ、お前さんがいないと静かだなァ」
『…』
「静かすぎらァ」
『…』
「もっと、喋れよ雨月。俺は、お前の声が聞きたくて電話したんだ」
こんなこと、伝える気はなかったのに。
『夕神さん…』
「あァ」
『夕神さん、私の大切な夕神さん』
「…」
『明後日の始発で帰ります。だから、いい子で待ってて下さい』
「…馬鹿にしてんのか」
『まさか。私だって会いたいの我慢してるんです』
「…」
『ね?』
待ち慣れてる、のか。
上手くあしらわれている気がして。
「雨月、俺の雨月。頼むから、早く帰って来てくれ」
勢いに任せて本音を言った。
『…ふふ、努力します。出来るだけ早く、貴方のところへ帰れるように』
「…ん」
『それではおやすみなさい、夕神さん』
その声を耳にして、スッと眠りの世界に落ちた。
(やっちまった…)
酔うとろくなことがない。というか、ろくなことをしない。
もう、昨日の自分を殴ってやりたい。
ついでに彼女の記憶からも消えてほしい。
そんなどうにもならないことを思いながら、明日帰ってくる彼女を思って部屋を掃除する。
明日は休日、ゆっくりするにしろ、近くに置いておきたい。
とは言っても、日付もそろそろ変わる。始発を迎えに行くなら、そろそろ寝た方がいいかもしれない。
そう思った時。
ピンポーン
「…、こんな時間に…」
『夕神さん!』
「雨月!?」
飛び出す勢いで鍵を開けてドアを開く。
そこには、多くの荷物もそのまま持って、スーツも着替えていない雨月の姿。
「…お前、明日って…」
『言ったでしょう?出来るだけ早く帰って来いって。だから、』
とっても急いだんです。
肩で息をしながら、へらりと笑った彼女。
「…っ」
『わっ、ちょ』
「…本当に、会いたかった」
『、私も…すごく会いたかったですよ』
にやける頬と、泣きそうな目を隠す為に彼女を力いっぱい抱きしめた。
久しぶりの温もりに、腕を離す気がなくなってしまったけれど。彼女からも回された腕の幸せに、しばらく浸ることにした。
(たまには)
(飲んでなくても言える本音)
(堪らなく恥ずかしいけれど)
Fin.