酔いどれ夕神と酔いどれ彼女
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《酔いしれて》
飲み明かした次の朝は、どうしようもなく恥ずかしかった。
飲むと箍が外れるなんていうけどまさにそれで。
自分の口から出たあれやこれやに、顔から火が出そうだった。
どうせなら酔い潰れて記憶が飛んでしまってればよかったのに、一部始終覚えているのだからたまらない。
だが、それに頭を抱えてるのは自分だけではないようで。
『お、おはよう…ございます』
目を覚ました彼女も、顔をみるみる赤く染めたあと、ふいと顔を逸らしてしまった。
これは幸いと、お互いに酔った時のことはあまり覚えていないことにした。
「かんぱーい!」
そんなことがあって数ヶ月、明るい掛け声に、各々がグラスを掲げた。
ビールの奴にチューハイの奴、中にはジュースの奴まで様々に。
「……で、何の祝いだこれは」
「私が成歩堂事務所にきて1周年記念です!」
『なんで私達まで?』
「日頃お世話になってるので」
成歩堂なんでも事務所に座る面々。
成の字、成の字の娘、泥の字、ココネ。そして俺と雨月。
どう考えても部外者の俺達が呼ばれたのは、ココネが雨月を気に入ってるからというのもあるのか…。
「まあ、何だかんだ1年目で色々あったよね」
「そうですねー、爆発したり被告人になったり」
「全部1つの事件じゃないか…」
「色々といえば、ユガミ検事と雨月さんはどうなったんですか」
「『!?』」
「…みぬきちゃん、直球すぎ」
「何言ってるんですか!それを聞くために呼んだんですよ?」
と思ったが、成の字の娘が暴露してくれた通りだったらしい。
事務所メンバーは"で?"と続きを促す視線。
雨月は真っ赤になって視線を泳がせている。
「雨月の様子で解るだろ…」
「じゃあ、どこまでいったんですか?」
「「『!?』」」
「み、みぬき…って、みぬきそれオドロキ君のコップ!チューハイだから!」
「もう、静かにしてよパパ!」
「ダメ!未成年は飲酒ダメ!」
………成の字が娘を抱えて出ていった……。
『「…」』
「で、ちなみにどこまで?」
「希月さん!?」
「だって先輩、10年の片思いがやっと実ったんですよ?のろけたいに決まってます!」
「いやいや……」
これは…。
大分不利な立場だ。
嘘の通じないココネ。
動揺すら見抜く泥の字。
緊張のあまり酒の進む雨月。
……まずい。
「で?で?キスしました?雨月さん!」
『っ!』
「……」
「したんですね♪その先は?」
『ココネちゃん…勘弁してよ…』
「まだですか。夕神さん結構奥手ですね」
これは、新手の拷問か?
デートはどうだの告白はどうだのと質問責めにあう雨月は、気を紛らわすように酒に手をつける。
「ユガミ検事…なんかすみません」
「泥の字が謝るこたァねェよ…」
そしてついに、雨月の手が止まった。
これは、酔いが回った合図…。
『…』
「雨月さん、なんか夕神さんの意外な話とかないんですか?」
『意外な話?』
「そうです!かわいい一面とか」
『…………、あ…ふふ』
「あ、今思い当たったんですね!なんですか!」
ああ、本当にどうしたものか。
泥の字は酔い潰せるとして、ココネは未成年。
シラフ相手に忘れろったって無理だ。
何を思い出したんだ雨月、いや、言わなくていい。
『内緒です』
「えー、教えて下さいよー」
『いくらココネちゃんでもダメ。可愛い夕神さんも、カッコイイ夕神さんも、私だけ知ってればいいの』
ね?
と、笑ってみせた彼女に全員が絶句した。
これはこれで大きな爆弾を落としてくれたもんだ…
「夕神さん、愛されてますね」
「…これが素面で聞けりゃァな」
「ちなみに夕神さんは雨月さんの意外な一面とか…」
「雨月が言わなかった以上、俺が言うわけねェだろ」
「ですよねー」
「俺はコイツを連れて帰るから、後は事務所の奴らと楽しんどけ」
「そうします、ではまたー!」
ぐちゃぐちゃになりながらの宴会をおいとまして、少しばかり足元の覚束ない彼女を支えながら帰路につく。
「あんまり外で飲むな」
『だって…』
「飲まずにいられないのは解るがな」
『…うん、次から気をつけます』
後はコイツをアパートに送り届ければいい。
そういえば、俺は1杯しか飲めなかったな。
『夕神さん、歩くの疲れました…』
「もう少しだろ」
『爪先が痛いです』
「爪先?」
目をやる足元。
どうやらサンダルの紐が擦れて切れたらしい。
小指から血が滲んでいた。
「ほら、」
『いいんですか?』
「なら歩くか?」
『…お願いします』
背中におぶった雨月。
耳元にかかる息がくすぐったい。
『夕神さん、私の意外な一面ってどこですか?』
「あァ?」
『可愛いって思ってくれるのはどんな時ですか?』
どうやら、ココネ達の話を引きずっているようで。
「さァな」
しらを切ってやり過ごそうと思った。
恥ずかしくて言えたもんじゃない。
『私は、こうやっておぶってくれる夕神さんがかっこよくて好きです』
「…」
『高いところのものを取ってくれたり、転びそうになったら手を引いてくれたり、さりげなく荷物持ってくれたり。全部かっこいいです』
「…」
つらつらと出てくる台詞に赤くなるばかりだった。
それこそ、意識してやっているものから何気ない日常動作まで。
『…でも、この前の電話は可愛いかったです』
「電話?」
『ほら、私の出張が長引いた時の…』
「…」
この前あった、一週間の出張。
毎日顔を合わせていた人間に一週間会えないというのはなかなか堪えた。
それに加えてあと3日延長になった、と聞いたとき。柄にもなくつい深酒をした。
『夕神さん?珍しいですねこんな時間に電話し「会いたい」』
『…』
「雨月に会いたい」
そして、そんな内容の電話をした。
(あれは不覚だった…)
『…あれ、嬉しかったです。私だけが会いたいんじゃないって解って』
「そうかい…」
『ねぇ、夕神さん。私のどこが好きですか。可愛いって想ってくれますか』
「…またそこに戻んのかよ」
『だって、私はいっぱい言いました』
「…家ついたぞ。明日覚えてたら教えてやる。ほら、鍵」
『はい』
後ろから伸びる手が鍵をあけて、見知った部屋のベッドに彼女を降ろした。
『夕神さん…言わないだけで、可愛いって思ってくれてるんだよね?』
「雨月、何が心配でそんなに聞くんだ」
『可愛いって言ってくれたことないから。好きって言ってくれるのも凄く嬉しいけど…夕神さんに可愛いって思われたいから』
「…そうやって一生懸命なのは、お前の可愛いところだな」
『…!……、可愛い?』
「あァ」
『よかった。嬉しい』
すうっと、彼女の意識は遠退いていったようだった。
彼女の可愛いところなんて、それこそ数えきれない程ある。
ただ、酔ってでもないと言えないのだ。
彼女が酒の力で語ったように。
「…言わなくても解れよ、可愛いところばっかだから好きなんだろうが」
でも、寝ている彼女には聞こえない。
ならば声に出せる。
やっぱり、
君に酔いしれているから
だけれども。
Fin
『またやっちゃった…』
ふと、違和感で目覚めた早朝。
違和感の正体に気付けば、途端に血の気が引いて、一瞬でまた顔が熱くなった。
原因、それは隣で眠る彼。
でも根源は私だ。
『一緒に寝ましょう』
そう言ってベッドに引っ張りこんだ。酔っていたとはいえ大胆というか、恥じらいがない。
『…でも、嬉しかったな』
可愛いって言ってくれた。それに、微かに聞こえた"好き"の言葉。
彼は昨日、殆ど飲んでいなかったのに。
『もう少し寝よ…』
こちらに背中を向けて寝ている彼に、そっと寄り添って瞼を閉じた。
(無防備にも程があんだろ…)
背中にくっついた温もりに悶々と、行き場のない思いを巡らせる。
こんな無防備で、安心しきって身を寄せる彼女だって可愛い。
ただ、言葉にするのはとても難しいもので。
(たまには聞こえるように言わなきゃなんねェか)
仕事をする彼女は凛々しい。だからこそ、どこか抜けたことをするとすべて可愛いらしい。
左右違う靴下を履いてしまっても
歯磨き粉と洗顔フォームを間違えても
お箸を3本出してきても
全部可愛いけれど。
(言ったら怒りそうだ)
だから言わない。
言って直されてしまったら楽しみが減ってしまうから。
(俺ももう少し寝よう)
君に酔いしれながら
End