酔いどれ夕神と酔いどれ彼女
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《クリスマスパーティーにて》
「メリークリスマス!」
盛大なクラッカーと、元気な声。
それに続く笑顔。
今、成歩堂なんでも事務所はパーティー会場と化している。
「さあ、じゃんじゃん食べましょう!羽影さんの料理は美味しいんです♪」
「確かに、凄いご馳走だね」
『ご馳走なんて大袈裟ですよ』
「えっ、十分ご馳走ですよ!コレとても美味しいです」
「あ!王泥喜さん、それ私が食べようと思ってたのに!」
広い…とは言い難い事務所のテーブルに並べられる料理を囲む。
心音ちゃんと成歩堂さん。王泥喜君にみぬきちゃん。
そして私と、隣に座る夕神さん。
「クリスマスパーティーしましょう!無罪証明出所祝いを兼ねて!」
と、心音ちゃんが誘ってくれたのだ。
夕神さんは心音ちゃんに弱いようで、最初は渋っていたのに結局こうして座っている。
『はい、夕神さん』
あまり箸の進まない彼に、料理を取り分ける。
彼は来たものの、口数も少なく何処かぼんやりと座っているだけなのだ。
「あァ…悪ィな」
『夕神さん、お口に合いませんか、それとも具合悪いです?』
受け取った皿を眺めながらも、やっぱり箸の動きが鈍い彼を覗き込む。
「美味ェよ。食うのが勿体ねェくらいだ」
『…食べて下さい、いくらでもつくりますから』
その答に納得したのか、黙黙と食べ進める彼に小さく笑みを零した。
といっても、テーブルの上にあった食べ物は粗方食べ尽くされて。
王泥喜君がケーキを切り分けてくれている。
「私、そのサンタさんが乗ってるやつで!」
「みぬきはチョコプレートがいいなぁ」
「俺はトナカイでいい?」
"じゃあ僕はヒイラギかな?"
なんていいながら、そのやり取りを微笑ましく眺める成歩堂さん。
家族なんだなぁ、なんてこちらまで和んでしまう。
「お二人は?」
『私は飾りいらないよ』
「…俺も別に」
「いやいや、夕神さんはお菓子の家付きでしょ」
取り分けられたケーキに、心音ちゃんが砂糖菓子の家を乗せる。
夕神さんは口に出さないだけで甘いものが好きだ。
それを、心音ちゃんは解っている。
「今日は夕神さんの無罪祝い兼ねてますから、主役ですもんね」
そして、その言葉を合図に。皆がグラスを掲げる。
「「「「『おめでとう!』」」」」
「…ありがとな」
小さな小さな声だったけど、それが聞こえた私と心音ちゃんで、顔を見合わせて笑う。
ケーキも殆どなくなって。
みぬきちゃんのマジックや雑談を楽しんでいた頃。
「なんか、夕神検事やけに静かですね」
「そういえば…」
『…夕神さん、大丈夫ですか…って、わぁ!』
余りに静かな彼を揺すると、その体はこちらへ倒れこんできた。
「…あんまり娘の前でイチャつかないでほしいな」
『イチャついてるわけじゃ、ないんですけど…』
「まあ、わざとじゃないにしろ…それ、俗に言う」
"膝枕、ですよね"
そうなのだ。
しかもこれだけ騒いでも動じず、覗き込んだ目もしっかり閉じていて。
爆睡している。
『もしかして、お酒弱かったのかな…』
「少なくとも、7年飲んでないんですもんね」
「それに、務所は10時消灯ですから…」
ふと目をやった時計は23時に近づいていた。
『もう、習慣になってるのかな』
心音ちゃんの手前、時間について言及するのは憚られて。
小さな寝息を立てる、膝の上の頭をそっとなでた。
「…羽影さんは、いつから付き合ってらっしゃるんですか?」
「結構長いですよね?初めて研究所でお会いした時から随分と仲よさ気でしたし」
「え、もう8年近くってこと?」
『…いや、その……付き合ってないんですよ……』
沸き上がっていた女の子が静まり返って。男性陣も驚いた表情を浮かべる。
「…膝枕する仲なのに?」
『初めてですよ…こんなことしたの。正直心臓バクバクしてます』
何たって歩が悪い。
このメンバーでは一言の嘘も通らないのだ。
「ってことは…嫌じゃないんですね♪」
『そうですねー、10年間片思いしましたから。例え叶わなくても、夢くらいみたいと思いまして』
「10年…」
『学生時代の先輩だったんですよ、夕神さん』
当人は寝ていることだし、開き直って恋バナでもしてやろう。
「なんか、ロマンチックですね」
「自分から告白しなかったんですか?」
『しようと思ってたんだけどね、その頃から希月教授のところに行くようになって、タイミング見失っちゃった』
「…」
『で、私も何を血迷ったのか、留置所で告白したのよ』
「「「「え!?」」」」
予想以上に強い反応が返ってきて驚いた。
その声で身じろいだ夕神さんにもっと驚いたけど、まだ目を覚まさないみたい。
「看守さんとかいるのに?」
『うん、なんか"もう会えない"みたいな気持ちになっちゃって』
「な、なんて言い寄ったんですか?」
『言い寄るって…普通だよ。好きです、って。それだけ』
「でも、それじゃあ…」
『そう、フラれちゃったんです』
"傍で守ってやれない俺に、その役はできない"
嫌い、とか。好きじゃない。とは言わなかったけど、同時に"好き"も言ってもらえなかった。
『でも、嫌いだと言われなかったから通い詰めました。片思いは素晴らしいですよ、見てるだけで幸せですから』
「それで…今は?」
『勿論今も好きだけど、私から告白することはないよ。フラれた身だし…もし夕神さんが私以外の人と付き合っても、祝福できると思う』
今となっては彼の幸せが一番だ。
彼が彼らしく生きていけるなら、私は支えるだけでいい。同じ幸せを求めたりしない。
「うーん…夕神さん、羽影さんのこと好きだと思うんですけどね…」
『…』
「小さい時に、研究所で聞いたんですよ。私と羽影さんどっちが好き、って」
「…大胆だね、希月さん……」
「その時は"お兄ちゃんを独り占めしたい"って感覚でしたね。そしたら夕神さん、「ん…」………」
『夕神さん?起きました?』
「……あァ」
『起きましたね』
「なんだ、いいとこだったのに」
「続きは今度聞きましょうか」
「時間も時間だし、お開きで」
なんでもないように夕神さんは起き上がって。
他の皆もそれぞれに帰り支度をする。
「あ、羽影さんは片付けいいですよ。お料理提供してもらったし」
『でも、私も場所お借りしたし』
「夕神検事酔ってるみたいだし、送っていったらどうですか」
「そうですよ、主役はお片付けしなくていいですし」
皆の笑顔が、怖い。
『お言葉に甘えて…夕神さん、帰りましょう』
「…」
「「「「よいお歳をー!」」」」
追い出されるように見送られて。夜中になっても賑わう街をゆっくりと歩く。
『お酒弱かったなんて知りませんでしたよ』
「…弱いって程じゃァなかったんだがな」
『シャンパン2杯で酔ったら、弱い方だと思いますけど』
「…羽影は強いのか?」
『まあ、どちらかと言えば』
さっきまでとは違って。
質問をしたり答えが返ってきたりと、口数が増えた彼。
大人数は苦手だったのだろうか。
「今度は羽影が酔うまで飲むか」
『シャンパンくらいだと、朝まで飲めそうですね』
「…正月に泡盛でも準備してやらァ」
『もちろん夕神さんも飲みますよね?』
「…」
『一人で飲んだって美味しくないですから』
「…解った」
本気にしろ、冗談にしろ。
彼と正月の話ができるなんて、夢みたいだ。
「なァ…来年は、クリスマス2人がいいな」
『…え』
「再来年か、もう少し先は3人か4人に増えてて」
『…』
「…なァ、羽影」
ピタリと足を止めたのは、駅のクリスマスツリーの前。
「まだ俺を、選んでくれるか」
すっと差し出された手を、迷わず握った。
『…酔って無いときに、言われたかったです』
「言った筈だぜ?酒に弱かなんざねェんだ」
"まあ、酔ってでもいねェと、好きだなんて言えねェな"
見上げた、街灯に照らされた彼の顔。ちっとも赤みがさしてなくて。
いつもの涼しげな顔でこちらを見ていた。
『…え、じゃあ、寝てたのとか、寄り掛かってきたのとか』
「内緒話はせめて小声でするんだな」
『~っ!』
全部、聞いた上での、今の告白。
『年越し、絶対酔わせますから』
「待てるのか?あと5日」
『待てますよ…7年に比べたらあっという間です』
「そうかィ、じゃあ、また暮れにな」
『はい、また』
電車に乗り込んだ彼。
その口が、ゆっくり動いた気がした。
「す き だ」
『!?、待って、今!』
絶対、絶対。
次に会う時は、聞こえるように言ってもらおう。
例え、酔っていたとしても。
(お前に酔ってるなんて)
(言えっこねェよなァ…)
Fin.
「心音さん、夕神検事、なんて言ったんですか?」
「俺も気になります」
「そうそう、あの時夕神さんね」
………………………………………
「ココネと羽影さん、どっちが好き?」
「…どっちも好きだよ」
「ダメ、どっちかしか選べないの。二人と結婚できないでしょ?」
「…」
「ココネとは結婚したくない?」
「…僕は、羽影さんと結婚したいと思ってるよ。でも、だからといって心音が好きじゃないのとは違う。大切な家族みたいな…」
「…家族?」
「うん。心音とはもう家族で、大事な妹だ。僕は家族に、羽影さんも入ってほしい。結婚は、家族になることだから」
「夕神さんは、私のお兄ちゃん?お兄ちゃんと結婚する羽影さんは?」
「…心音の、お姉さんかな」
「…夕神さんは、心音のこと好きなんだよね」
「うん」
「羽影さんより先に家族になったんだよね」
「そうだね、本当の家族じゃないけど、心音は僕の妹だよ」
「へへ、じゃあいいや。今度羽影さん来たら、お姉さんって呼ぼうかな♪」
「それは…ちょっと…」
………………………………………
「きっと、私に気を遣ってくれたんです。夕神さん、全然ノイズがなくて話しやすかったので。あの時もノイズがなくて、全部本当のこと話してくれたんですよね」
「…え、じゃあ羽影さんが片思いした10年は、両思いだったってこと?」
「そうだと思いますよ?羽影さんの話だと喜びの音聞こえてましたから」
「…なんとまあ……」
「でも、きっと今日でくっつきますよ♪そして私にお姉さんができるわけです!」
「…夕神検事が兄さんなら、かぐやさんももれなくお姉さんとしてついてきますね」
「………そうでしたね」
End
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