御剣とイベント
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《クリスマスプレゼント》
『…よし、こんなもんでしょ』
リースとキャンドルにツリー。
テーブル上にはチキンとケーキ。
さすがに七面鳥は準備できないけど、「クリスマス」って感じは十分出てると思う。
後は彼の帰りを待つだけ。
ただ、その待ち人はクリスマスがあまり好きじゃない。
当然といえば当然だ、この、街が踊るような時期に2回も事件に巻き込まれて。
その内の1回では家族を失っているのだから。
だからこそ、私まで沈んではいけない。クリスマスはクリスマスなのだ。
お堅い真面目な彼も、少しくらい羽目を外していいし、ご馳走を食べる口実にしていい。
私は、彼を楽しませる為ならどんな努力も惜しみはしない。
……まあ、私の方が羽目を外しすぎて呆れられたりするのこともあるけど。
「ただいま」
『お帰り、怜侍!』
出来上がった料理が冷めない内に帰って来てくれた彼にほっとする。
何より、例年ほど表情が暗くない。
「……今年もよく飾りつけたものだな」
『ふふ、褒めて褒めて!今年はツリーも用意したんだよ!』
卓上ツリーに憧れた私は、画用紙と紙コップを使ってツリーも作ってみた。
小学生レベルの工作だけど、結構綺麗だと思う。
「…ム、確かに凄いが…これは七夕ではないか?」
ツリーに貼った付箋を指さす彼。
そこには"よいクリスマスになりますように"と"来年も幸せでいられますように"と書いてある。
書いたのは私だけど。
『あれ、そうだっけ?』
「…短冊に願い事は笹につけるのだろう?七夕だ。クリスマスはサンタに手紙で、プレゼントは靴下にいれてもらうのではなかったか?」
…そういえばそうだった……。
私はイベントが好きすぎるのか、それぞれがゴチャゴチャになったり、独自のアレンジをしてしまうことがある。
この前のハロウィンも、カボチャの煮物を作って冬至と一緒くたにしてしまったばかりだ。
『また間違えた…』
「最早慣れた。去年も言ったと思うが、クリスマスのチキンは何故照り焼きなのだ?」
『ち、違うよ!覚えてたんだけど…気づいたらもう照り焼き作っちゃってた』
悪意はない。
イメージとしてはローストチキンとか、チューリップのフライドチキンとか作りたかったのに。
手が勝手にというか。
照り焼きになってしまったのだ。
『…照り焼き、嫌いだっけ?』
「いや。雨月は和食が上手だから、照り焼きは好きだ。ただ、いつも何かしらミスマッチで面白くてな」
苦笑ともとれるけれど、眉間のヒビをゆるめる彼に、私は笑みをこぼす。
『ありがとう、来年はケーキも手作りしてみる』
「…ケーキでなくて苺大福にでもなっていそうだな」
『だ、大丈夫!材料からして間違えない筈!』
「フッ、楽しみにしている」
ちょっと皮肉っぽい笑い方だけど、このやり取りだって十分だ。
『さぁ、冷めないうちに食べよ』
「…ああ。Merry christmas」
『!…メリークリスマス』
「…発音」
『…め、Merry christmas』
妙なこだわりを見せるのも、彼の可愛いところだ。
シャンパンのグラスを傾けて微笑む。
照り焼きに対してのツッコミはあったものの、他の料理も含めて綺麗に食べてくれた。
口にあったみたいで安堵する。
「…気になっていたんだが、そのローブは脱がないのか?寒いなら暖房を上げるかもっとしっかりしたものを着たまえ」
『フフーン♪その発言を待ってました』
食器を下げて、ソファーに座った彼の前に立つ。
"何事だ"と言わんばかりの眉間のヒビに心中で苦笑しながらローブを解く。
『いい子の怜侍君にはサンタさんがやってくるんだよ!』
バサァーッ!
「…なっ!?」
ローブの下に着てたのはサンタ服で、勿論女性用のワンピースタイプ。
チューブトップで丈は膝上、テーブルの下に隠していた帽子を被ればサンタガールの完成だ。
『どう?似合うかな?』
「…寒そうだ」
『あ、うん。だからローブ着てたんだけどさ』
「…それに肌が見えすぎだ」
『あ、うん。だからローブ着(略』
「だが、……似合っている…他の輩に見せないで欲しい」
『…当たり前でしょ。怜侍の為に着たんだから』
すーっと、伸びてきた腕が私を捕らえて抱きしめられた。
彼は座っていたから、少し無理な体制になるけれど、心地好い感覚を手放したくなくてそのままでいる。
「サンタには、願い事をしていいのか?」
『うん。欲しいプレゼントは何かな、怜侍君?』
「…サンタ自身が欲しい、というのはありだろうか」
『それはもとから上げる予定だったから、もう一つどうぞ』
額をコツンと合わせて笑った。
お互いに、自然と出てきた言葉が恥ずかしすぎたのだ。
「そうだな、サンタがずっといてくれるなら、欲しいものは他にない」
しばらく沈黙した彼は、困ったようにそう言った。
私といえば目を丸くして、ただただ熱くなる頬とうるさい心臓に苦しめられていて。
その苦しさが喜びだということも噛み締めていた。
『…そ、っか』
「ところで、サンタ自身は欲しいものはないのか?」
『え、私?』
「私ばかり貰うのも悪かろう。雨月も、いい子だったしな」
『えっと、怜侍が私に渡したいものが欲しい』
「…?」
『うんと、怜侍が私の為にくれるものなら何でも嬉しい。形があろうとなかろうと、ね』
穏やかな表情なのに、やっぱり困ったような眉間。
私の為に言葉や何かを考えてくれる。それだけでも十分だ。
「…」
『…んっ』
その困った様な眉根が、ふと緩んで。気を取られた瞬間に唇に重なる温もり。
彼は、あまりそういう事をしてくれない。
だから一層、締め付けられる胸と、不意に熱くなる目頭。
「…他に思いつかなかった」
『いいよ。凄く嬉しい………でも、一回じゃ足りないかな』
「…ム」
また眉間を寄せた彼に思わず笑った。
『…ごめんごめん、そんな悩まないで。私はずっと一緒にいるから、今沢山しなくていいよ、だから、たまには…ね』
何か言いかけた彼を、今度は私から唇を重ねることで黙らせた。
明日はお墓参りで、現実に引き戻されるけど。
今日は甘い夢を見ていい日。
"ずっと一緒"がいつ途切れるか解らないなんて事は考えない。
むしろ、いつその日が来るか解らないから未来の約束をする。
その日が来ても、あきらめないために。
最高のプレゼント
(君に私の愛を)
(貴方に私の愛を)
次の日の朝。
片付けようと思った画用紙のクリスマスツリー。
付箋が1枚多いことに気づく。
"来年もその先も、こんなクリスマスが過ごせますように"
(君とある未来を)
(貴方とある未来を)
Fin.