成歩堂の日
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《雷の日は》
雲量…10。風力7。雷雨。
観測地…成歩堂法律事務所。
夕方、薄暗い空と窓を叩く強い風。当たり前か、台風が近づいてるんだから。
『成歩堂君、そろそろ帰る?』
「そうだね、もう人もこないし…って、あれ?真宵ちゃんは?」
『台風で電車止まっちゃうからって先に帰ったじゃん』
忘れちゃったの?
と首を傾げた雨月は僕の恋人で。暇だと言っては遊びにくる。
もっとも、土日だけだけど。
「ああ、そうだっけ。雨月は?送っていくよ、通り道だから」
『ありがと!傘は持ってるか…』
ピシャッ ゴロゴロ…
彼女の言葉を遮るように鳴った雷。思わず窓に目を向ければ
バリバリバリバリッ
と、稲妻が地上へと走っていた。
しかも、風の強さが増したらしく、傘やバケツやいろいろな物が飛ばされていて。看板なんかもへし折られそうだ。
「……」
『成歩堂君?』
「いや、外出るの危ないかな…と」
『だねー。飛ばされちゃいそう』
ああ、ぶつかるじゃなくて飛ばされる心配をするんですか。
とか心中ツッコミを入れれば、また稲光がして雷鳴が響く。
「困ったな…」
この台風は進むのが遅いらしく、台風の目に入って風が納まるのは真夜中らしい。
『どうしようか?』
「風が止むまで待とうか…お茶でも飲む?」
『うん!』
お湯を沸かそうと給湯室に向かう僕の後ろに着いてきて、何やら楽しそうな彼女。
「雨月って…台風くるとテンション上がるタイプ?」
『そうかも。雷鳴ってるとワクワクする!』
子供じゃないんだから。と言いたくなるけど、子供は雷怖がるよな…なんて思って。
どちらかと言えば雷は好きじゃない僕は何も言わない事にした。
「雨強くなってきたかな?」
『音が大きくなってるもんね』
お茶を飲んで、少しお茶請けを摘みながらそんな会話をする。
万が一、窓ガラスに何か当たってもいいように、ブラインドは閉めてしまったから外は見えない。
バリバリバリバリッッ
「っ!」
すごく近くで稲妻が走る音がした。どこかに落ちたのかもしれない。
『成歩堂君、雷怖いの?』
「え、怖いって程じゃ…」
ない。と言おうとしたのに、また大きな雷鳴がして。
一瞬息を飲んだ次の瞬間に、視界が暗くなった。
『停電!』
どこか嬉しそうな声で、隣にいた彼女は立ち上がる。
「ちょ、雨月!?」
携帯のディスプレイの明かりを頼りにどこかへ向かった彼女。
暗闇に目がなれない僕はそこに座ったまま。
暫くしてまた彼女は隣に座った。
『やっぱり停電。ブレーカーは普通だったし、前のホテルも電気消えてる』
「そう…」
そういうところはしっかりしてるんだな。と思ったのに、隣からは明らかに楽しんでる雰囲気。
足をパタパタさせてるのが解る。
『成歩堂君、もしかして一人でいるの怖かった?』
素っ気なかった僕の返事に気を病んだのか、手探りで僕の手を握り締めた。
「いや、そういうわけじゃな…」
ピシャッ ゴロゴロ…
どうやら今日の僕の発言は雷に遮られる運命のようで。また息を詰めてしまった。
…思ってた以上、実は雷が苦手なのかもしれない。
『よしよし…』
そんな事を考えていれば、暗いソファーの上。彼女に抱きしめられて、背中をさすられていた。
(普通は逆だよなぁ)
怖がる女の子を、僕が抱きしめてあげるんだろうけど。
そもそも、その女の子は怖がってさえいないんだから。
「ありがとう」
自分の腕を彼女の背に回して囁いた。
こういうシチュエーションなら台風もいいか、なんて彼女以上に不謹慎なことを思う。
『どういたしまして』
すると、やっぱりどこか楽しげに。けれど優しさを帯びた声が降ってきた。
トントン、と背中を叩くような、撫でるような。
そんな動作をずっと繰り返しながら、彼女の腕は一層強く抱きしめる。
『怖くないからね、私がいるからね』
本当に、小さな子供をあやすような台詞なのに、僕は酷く安心した。
「…あ」
『電気戻ったね、風の音も少し弱くなった?』
復旧した明るさに、思わず瞬きを繰り返す。
そういえば雷の音もずいぶん遠くなったような。
と、考えながら少し残念そうな彼女を見る。
ソファーに座ってる僕に、ソファーの上で膝立ちして抱き着いている彼女。
『偉いね、泣かなかったね』
なんて頭を撫でるものだから、今更恥ずかしい。
『偉かったから、何かご褒美あげようか』
「え」
『何がいい?』
「じゃあ……お願いでもいいかな?」
『うん?いいよ』
なあに?と、小首傾げた彼女の耳元に口を近付ける。
「僕の事、名前で呼んで欲しい」
『…名前?』
「そう。成歩堂じゃなくて、龍一って」
ビクッと彼女の肩が震えた。
彼女なりに、多分抵抗があるんだろうな。
『りゅ…ち』
「聞こえない」
『っ!りゅういちっ』
少し顔を離して覗き込めば、真っ赤になって、でも、どこか嬉しそうに笑う雨月が目に入った。
「これからもそう呼んでね」
『うん、りゅ、龍一』
「…、ちゃんと言えたからご褒美あげようか」
余りに赤くなって、必死に紡ぐものだから。
彼女に倣って尋ねてみる。
『いいの?』
「まあ、僕にできるものなら」
『えっと、あのね…』
"キスして欲しい"
今度は僕が赤くなる番で。
復旧した明かりがちょっと恨めしい。
『龍一?』
「…目、閉じて」
ふわりと閉じた瞼。
期待するように、嬉しそうに。うっすらと上がった口角はとても魅力的だった。
重ねるだけ。
触れるだけ。
そんな軽いものだったのに。
想像以上に柔らかくて、しっとりしていて。微かに甘い彼女の唇は。
僕の心臓を破壊するくらい高鳴らせた。
『えへへ、龍一にファーストキスあげちゃった』
それでいて、赤くなった頬を押さえながら。にまぁっとした笑顔でそんなことを言う。
「…初めてが僕でよかったの?」
『もちろんだよ!セカンドもサードも、龍一が貰ってね』
(…雨月、有罪)
(えっ、なんで!?)
(天然すぎ。あと、可愛すぎ)
雷の日は
…………………
…………………………
いろいろあったけど
何だかんだで幸せだった
End.
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