王泥喜と地学ガール
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《君が近い夕》
ふと、目が覚めたら朝の5時だった。私にしては随分と早起きなのだけど、それも当たり前だ。
昨日は昼過ぎに帰って来て、適当に何かを食べて着替えると、夕方には寝てしまったのだから。
本当は少し昼寝をする程度の筈だったのに、少々時間を無駄にした気もする。
まあ、今日は一日休みだし、やりたかったことを片付けよう。
……そう思って、まずは掃除だな。と、早い朝食を食べて洗濯や大方の掃除を終えたのが7時半頃。
一休みしたらお弁当のストックや常備菜を作って、午後はどこか出かけたりリフレッシュしよう。なんて、計画を立てていたら携帯が鳴った。
『…はい』
「ああ、もしもし雨月ちゃん?今日ちょっと出廷してくれないかな、担当責任者の刑事が来れなくなってしまったんだ」
『…』
「もしもし?」
『…何時からですか?』
「午後の1時からだよ、一応裁判が終わるまで居てもらわなきゃいけないから、終わる時間ははっきりとは解らないけど」
『了解…』
電話の声はあのジャラジャラした検事だった。どこで知ったんだろう、私の電話番号……緊急連絡先でも見たんだろうか…。
なんにせよ、私の午後は潰れてしまった。
昨日の帰りに買い溜めをした食材を下ごしらえしながら溜息をつく。職業柄、仕方ないことだとは解ってるけど、ここのところ連続で阻害されていて流石に疲れが溜まってきた。
まして、私は刑事課じゃない。鑑識の仕事をメインにしている私が出廷なんて……。
と、心の中で愚痴を零しながら下準備を終えた食材を瓶やタッパーに詰めて、冷凍庫や冷蔵庫にしまっていく。
私の家は裁判所からは少し離れていて、そろそろ出ないといけない。
裁判の打ち合わせだってあるだろうし。
服装を整えて、鏡を一瞥した後、鬱々とした気分で車のキーをとった。
「やあ雨月ちゃん、すまないね。急に呼び出して」
『…私は何を証言するのでしょうか』
「現場の状況についてだよ。概要や動機、経路は僕や当人達が証言するから」
『了解』
「あ、あと、ガリューウェーブのコンサートが今度あるんだけど」
『すみません、音楽には興味がないので』
何度も誘われて正直面倒くさい。音楽に興味がないのも事実だし、特にロックの類は理解ができない。あと、大切な非番で疲れたくない。
「検察側、弁護側、及び証人は入廷して下さい」
係官の声で法廷に足を踏み入れる。この緊張した感じ、余り好きではない。
冒頭弁論があって、私の証言があって。弁護側の尋問。
「…なぜ、あんな人気のない場所を通ったんでしょう?」
『…当人に聞いたらいかがですか』
「凶器はどこで見つかったんですか?」
『自首するときに持参してくれました』
「…」
こんな調子で私の出番は終わり。
犯人は自首していて、証拠も揃っている。疑いようのない事件だったのに、それは意外な一面を見せた。
「…あなた、自分が刺した時の証言をすると、肩を押さえますよね?」
「…え」
「被害者が刺されたのは左側の脇腹です。なにか、肩を痛めるようなことが…?」
「な、ないっ…傷なんてない!」
「誰も、傷があるなんていってないよ?」
「あっ…」
そんな小さな綻びで。事件の真相は顔を出した。
飲みに行った友人と口論になり、友人が刃物で切り付けて来たのでとっさに抵抗したところ、逆に刺してしまった。口論の内容を反省していて、友人をかばってしまった。
というのが容疑者の証言。
しかし、これによって召喚された被害者の証言や、実際は被害者の持ち物だった筈の刃物から被害者の指紋が一つもでない事を追求していくと、殺意があってあの公園に呼び出したことが解った。
結論からいえば、正当防衛が認められたのだ。
簡単だった筈の事件は展開を繰り返して、大分時間をとった。
……もう、夕方だ。
また私の非番は半日なくなってしまった。
まあ、今回はゆっくり寝れただけいいか。
なんて閉廷した法廷を出ながら考えていれば、昨日も聞いた元気な声に呼び止められた。
「雨月さん!」
今日は寝不足じゃないから、頭に響くこの声もそう不快じゃない。
まあ、もう少し小さい声でも聞こえるから抑えてもらっていいのだけど。
『何?えぇっと…オド…、なんだっけ?』
「オ・ド・ロ・キ・ホー・ス・ケです!あの、昨日言ってたことで…あんまり高いのは無理ですけど、よかったら一緒に夕食を…」
呼びかけるのは元気なのに、段々と萎んでいく声。
『私さ、年下に奢られるのは嫌なんだ』
「…う」
『それに、恩義のない相手に奢る趣味もない』
「…」
『さあ、考えてごらん』
キョトン。本当にそんな表情をした。案外年下も可愛いかもしれない。
首を捻ったり、額を自分で突いてみたりしながら、何かに気づいたように彼は口を開いた。
「俺と食事に行くこと自体は、嫌じゃない…って捉えていいんですか?」
『まあね。ああ、あと私は今日も非番を潰されて機嫌が悪いんだ。気が変わっちゃうかもしれない』
「す、すぐ手続き済ませてきますからエントランスで待ってて下さい!」
駆けていく赤いベストを見送って、荷物を取りにロッカーへ向かった。
何だかお腹も空いてきたし、今日はあの子に付き合ってもいいかな。
君に少し近づいた夕方
「やりましたよ牙琉検事!雨月さんとご飯一緒に行けそうです!」
「まさかオデコ君に先をこされるなんてね…僕は開廷前にコンサートに誘ったけど断られたよ」
「売り付けたんですか?」
「…本命の子にはプレゼントしようとしたよ。渡すことも出来なかったけどね。流石に3回も断られるとちょっと堪えるな」
「一回目で断られたら手法を変えましょうよ…」
昇り来る月は結末を見れるか
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ふと、目が覚めたら朝の5時だった。私にしては随分と早起きなのだけど、それも当たり前だ。
昨日は昼過ぎに帰って来て、適当に何かを食べて着替えると、夕方には寝てしまったのだから。
本当は少し昼寝をする程度の筈だったのに、少々時間を無駄にした気もする。
まあ、今日は一日休みだし、やりたかったことを片付けよう。
……そう思って、まずは掃除だな。と、早い朝食を食べて洗濯や大方の掃除を終えたのが7時半頃。
一休みしたらお弁当のストックや常備菜を作って、午後はどこか出かけたりリフレッシュしよう。なんて、計画を立てていたら携帯が鳴った。
『…はい』
「ああ、もしもし雨月ちゃん?今日ちょっと出廷してくれないかな、担当責任者の刑事が来れなくなってしまったんだ」
『…』
「もしもし?」
『…何時からですか?』
「午後の1時からだよ、一応裁判が終わるまで居てもらわなきゃいけないから、終わる時間ははっきりとは解らないけど」
『了解…』
電話の声はあのジャラジャラした検事だった。どこで知ったんだろう、私の電話番号……緊急連絡先でも見たんだろうか…。
なんにせよ、私の午後は潰れてしまった。
昨日の帰りに買い溜めをした食材を下ごしらえしながら溜息をつく。職業柄、仕方ないことだとは解ってるけど、ここのところ連続で阻害されていて流石に疲れが溜まってきた。
まして、私は刑事課じゃない。鑑識の仕事をメインにしている私が出廷なんて……。
と、心の中で愚痴を零しながら下準備を終えた食材を瓶やタッパーに詰めて、冷凍庫や冷蔵庫にしまっていく。
私の家は裁判所からは少し離れていて、そろそろ出ないといけない。
裁判の打ち合わせだってあるだろうし。
服装を整えて、鏡を一瞥した後、鬱々とした気分で車のキーをとった。
「やあ雨月ちゃん、すまないね。急に呼び出して」
『…私は何を証言するのでしょうか』
「現場の状況についてだよ。概要や動機、経路は僕や当人達が証言するから」
『了解』
「あ、あと、ガリューウェーブのコンサートが今度あるんだけど」
『すみません、音楽には興味がないので』
何度も誘われて正直面倒くさい。音楽に興味がないのも事実だし、特にロックの類は理解ができない。あと、大切な非番で疲れたくない。
「検察側、弁護側、及び証人は入廷して下さい」
係官の声で法廷に足を踏み入れる。この緊張した感じ、余り好きではない。
冒頭弁論があって、私の証言があって。弁護側の尋問。
「…なぜ、あんな人気のない場所を通ったんでしょう?」
『…当人に聞いたらいかがですか』
「凶器はどこで見つかったんですか?」
『自首するときに持参してくれました』
「…」
こんな調子で私の出番は終わり。
犯人は自首していて、証拠も揃っている。疑いようのない事件だったのに、それは意外な一面を見せた。
「…あなた、自分が刺した時の証言をすると、肩を押さえますよね?」
「…え」
「被害者が刺されたのは左側の脇腹です。なにか、肩を痛めるようなことが…?」
「な、ないっ…傷なんてない!」
「誰も、傷があるなんていってないよ?」
「あっ…」
そんな小さな綻びで。事件の真相は顔を出した。
飲みに行った友人と口論になり、友人が刃物で切り付けて来たのでとっさに抵抗したところ、逆に刺してしまった。口論の内容を反省していて、友人をかばってしまった。
というのが容疑者の証言。
しかし、これによって召喚された被害者の証言や、実際は被害者の持ち物だった筈の刃物から被害者の指紋が一つもでない事を追求していくと、殺意があってあの公園に呼び出したことが解った。
結論からいえば、正当防衛が認められたのだ。
簡単だった筈の事件は展開を繰り返して、大分時間をとった。
……もう、夕方だ。
また私の非番は半日なくなってしまった。
まあ、今回はゆっくり寝れただけいいか。
なんて閉廷した法廷を出ながら考えていれば、昨日も聞いた元気な声に呼び止められた。
「雨月さん!」
今日は寝不足じゃないから、頭に響くこの声もそう不快じゃない。
まあ、もう少し小さい声でも聞こえるから抑えてもらっていいのだけど。
『何?えぇっと…オド…、なんだっけ?』
「オ・ド・ロ・キ・ホー・ス・ケです!あの、昨日言ってたことで…あんまり高いのは無理ですけど、よかったら一緒に夕食を…」
呼びかけるのは元気なのに、段々と萎んでいく声。
『私さ、年下に奢られるのは嫌なんだ』
「…う」
『それに、恩義のない相手に奢る趣味もない』
「…」
『さあ、考えてごらん』
キョトン。本当にそんな表情をした。案外年下も可愛いかもしれない。
首を捻ったり、額を自分で突いてみたりしながら、何かに気づいたように彼は口を開いた。
「俺と食事に行くこと自体は、嫌じゃない…って捉えていいんですか?」
『まあね。ああ、あと私は今日も非番を潰されて機嫌が悪いんだ。気が変わっちゃうかもしれない』
「す、すぐ手続き済ませてきますからエントランスで待ってて下さい!」
駆けていく赤いベストを見送って、荷物を取りにロッカーへ向かった。
何だかお腹も空いてきたし、今日はあの子に付き合ってもいいかな。
君に少し近づいた夕方
「やりましたよ牙琉検事!雨月さんとご飯一緒に行けそうです!」
「まさかオデコ君に先をこされるなんてね…僕は開廷前にコンサートに誘ったけど断られたよ」
「売り付けたんですか?」
「…本命の子にはプレゼントしようとしたよ。渡すことも出来なかったけどね。流石に3回も断られるとちょっと堪えるな」
「一回目で断られたら手法を変えましょうよ…」
昇り来る月は結末を見れるか
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