成歩堂の日
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《雨の日は》
雲量10。どうみても雨。
観測地…雨月宅。
窓の外は雨。
細い雨糸が幾重にも重なって見える。
その雨のおかげで、彼女の部屋でお家デートになったわけだけど。
「傘させば出かけられると思うよ、横殴りって程の雨じゃないし」
『だって…傘だと手、繋げないから』
彼女の言い分はこれ。
だから今も床に座ってコーヒーを飲んでいるのに、左手は彼女の右手と繋がれたまま。
未だに慣れなくて心臓はドキドキしているけど、嬉しいことこの上ない。
ただ…
「雨月、飲みにくいでしょ…」
僕も彼女も右利きだから、右手の塞がってる彼女は左手にマグカップを持っている。
いつもは両手に抱えて飲んでいるくらいだから、左手のマグカップは少し震えていて。
上手く飲めてないように見えた。
「飲む時くらい離していいよ?」
『やだ』
解放しようとした右手にいっそう強く指を絡められて。
嬉しい半面、困ってしまう。
少し考えて、自分の飲み終わったマグをテーブルに置いて彼女のマグを下から支える。
「少しは飲みやすい?」
『うん』
端から見たらどれだけバカップルなんだろう、なんて苦笑は噛み殺して。
飲み終えた彼女のマグもテーブルに置く。
満足そうな彼女に頬の緩みが押さえられない。
『成歩堂君はお出かけしたかった?』
「いや…別に」
雨月と一緒なら何処だっていい。
なんて台詞は口にできないけど、
『私は成歩堂君がいれば何でもいいや』
彼女はそれを簡単に口にして、僕達の間をぐっと詰めるようにピッタリとくっつく。
「なんか、照れる」
『そう?』
彼女の恥ずかしい、だとか照れる、という感情は僕と違う所で起きる。
しかも、同い年の筈なのに妙に子供っぽい。
それは見た目、趣味、感情表現、全てにおいて言える。
"照れる"と言った僕に更に近寄って、繋いだ手もそのままに抱き着かれた。
『成歩堂君、あったかい♪』
初めてのハグ。
躊躇いがちに腕を回せば、胸元に埋まる彼女の髪からイイ匂いがするし、女の子独特の柔らかい感触がした。
雨月は依然として楽しそうに、"あったかい"を繰り返す。
本当に子供みたいで、恋愛、って感じがしないのが少し悔しくて。
ちょっとだけ勇気を出してみる。
「…雨月」
『あ…』
繋がれていた手を解いて、強く抱き寄せながら彼女の髪を撫でる。
「どうしたの?顔赤いけど」
『だって、成歩堂君がぎゅってしてくれた』
早鐘を打つ僕の心臓。
そこに耳をあてて
"成歩堂君の音がする"
と呟かれたら一層早くなる様で。
「僕がするのは照れるの?」
話を戻そうと言葉をかければ、赤くなった頬を緩めて見上げられる。
『うん。"好き"って思われてるんだ…って。恥ずかしくなる』
「自分からするのは恥ずかしくないの?」
『だって、私が成歩堂君のこと好きなのは、私が一番知ってるもん』
完敗。
もうどうやったって彼女の無邪気は有罪だ。
「…思ってるよ。大好きだって。」
少し抱き上げて、彼女の項に顔を埋めながら、耳元で囁く。
『私だって大好きだよ』
そして、くぐもった声が耳元で聞こえて、僕まで頬が熱くなってしまう。
『ねぇ、成歩堂君』
少しだけ緩んだ腕の力に、彼女の顔を覗き込めば。
『このままお昼寝していい?』
ふにゃり、と眠そうな目を向けながら
『成歩堂君も一緒に寝ようよ』
なんて誘う。
そのまま一緒に床に転げるように倒れ込んで。
僕の腕をちゃっかり枕にして、自分の腕は僕の肩にかけたまま。
もう寝息を立てている。
「狡いな…雨月」
もっと触れ合って、じゃれ合っていたかったのに。
あどけない寝顔で擦り寄られては起こす事もできない。
(僕も寝ようかな)
この寝顔を見続けるのは酷だから。もちろん寝顔だってかわいいけれど、自分が堪えきれるか解らない。
「おやすみ」
空いている腕を彼女の体に回して、瞼を閉じた。
雨の日は
君と抱きしめあって
そのままお昼寝しちゃおうか。
と思ってたのに。
『りゅういち……』
「!」
彼女の寝言の中で突然呼ばれた下の名前に、まどろみかけていた意識は冴えてしまう。
『りゅ…ち、…あのね』
しかも、何かを言いかけた寝言は途中で終わってしまって。
続きが気になって結局眠れなかった。
(りゅういち、あのね)
(起きた時も)
(龍一の腕の中だったらいいな)
Fin.