ゴドーの日
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《甘いやつ》
梅雨入り前の、春の終わりを感じるような日。
正直、暑い。
でも、新緑に彩られたこの季節は嫌いじゃない。
『お疲れ様でした』
「ああ。裁判も終わったし、土日はゆっくり休めるな」
『そうですね。ゴドー検事もしっかり休んで下さいね』
金曜日のアフターファイブ。特にすることもない私は帰路につく。
駅まで少し遠回りをして、公園を通るのもいいかもしれない。
「雨月、この後予定はあるかい?」
『いえ。公園を通りながらゆっくり帰ろうと思います』
「差し支えなければご一緒したいんだが。どうだい?」
差し支える訳がない。
尊敬する上司で、大好きな恋人なのだから。
『是非』
『風が気持ちいいですねー』
少し強い日差しに、どこか夏の匂いのする風が駆け抜ける。
やや湿気を含んだそれは、梅雨の訪れも感じさせる。
「そうだな。ちと暑いが」
『最近ぐっと暑くなりましたね。春も終わってしまいます』
夕方なのに日が長くなったせいか、動いていれば汗が滲んで来るような気候。
彼といるだけで速まる鼓動は、さらに弾んでいた。
「雨月、アレ食べるか?」
『え?』
指された方へ目線を向けると、"アイスクリーム"とかかれた旗が立っている。
彼を見上げれば、口角を少しあげて旗の方へ歩き出した。
『結構種類ありますね』
「兄ちゃん、珈琲は置いてあるかい?」
「珈琲味のアイスでしたら」
「じゃあそいつを」
『私は…えっと…バニラで』
「王道だな」
『迷ったら普通が一番です』
なんていいながら奢って貰った。
そして、適当なベンチを探して腰掛ける。
アイスクリームは少し溶けてきていた。
『美味しいです』
「…甘いな」
『……アイスクリームですから』
かじるように食べ進める彼のアイスはどんどんなくなって、私がやっとコーンを食べ始める頃には食べ終わってしまった。
『ゴドー検事、食べるの早いですね』
「コネコちゃんが遅いんだと思うぜ?」
『冷たくて早くなんか食べれませんよ…』
溶けたクリームでふやけ始めたコーンは噛み切り難く、また食べるのが遅くなっていく。
「まあ…急ぐことねぇからゆっくり食べな」
ポスッ、と頭を一撫でして笑った彼。
なんだかそれだけで幸せになれた。
私が食べ終わる頃には陽も落ちはじめて、日陰にあった私達のいるベンチの周りはもう誰もいなかった。
「食べ終わったみたいだな」
『はい、御馳走様でした』
ペこりと頭を頭を下げれば、また頭を撫でられて。
やっぱり幸せな気持ちになれたから。
どちらかと言えば無意識だった。
『ゴドー検事、』
一瞬唇を重ねた。
すぐに恥ずかしくなって、少し乗り出していた身を引こうとしたのだけれど、
「……それは反則ってもんだろ、雨月」
そのまま片手で後頭部を支えられて、もう一度唇が触れた。
反対の手は私の腕を掴んでいて、捕まれている部分から溶け出してしまいそうなくらい熱い。
それ以上に。微かにする珈琲の薫りと、バニラの甘さで頭がクラクラする。
『ゴドーけ「神乃木だ」
『…』
「神乃木荘龍。俺の名前だ」
『かみのぎ、そうりゅう?』
「ああ」
恋人でいる時くらいは、本名で呼ばれてもいいだろう?
『神乃木さん』
「なんだい?」
『もう一回、キスしてください』
(だってだって)
(今日のキスは)
(とっても甘いから)
Fin.
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