リクエスト4
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《花遊》ゲーセンネタ
物騒な世の中になったなぁ。
なんて、あえて口には出さなかったけれど、顔には出ていたと思う。
キンキンに染められた髪の毛と、バッサバサの付け睫、短いスカート。
「てゆーか、マジありえないんですけど。殺人なんてするわけないじゃん!」
キャンキャンと無実を訴える彼女は、れっきとしたJK。花の女子高生だ。
確かに派手な化粧はしてるけど、子供らしく不安な顔を見せたりもする。大人になりかけの未来ある少女。
そんな彼女を、殺人犯として検挙することになるなんて。
まったく、嫌な世の中である。
なんせ、彼女が検挙された理由は
「殺害現場にいたから」
ただそれだけだ。
正確に言うなら、被害者はゲームセンターの店長で、バックヤードにて撲殺された。
そのゲームセンターに、死亡推定時刻に入店していたのが彼女だけだった…ということ。
彼女は当然
「何にも知らないよ!ずっとUFOキャッチャーに熱中してて、他に誰かいたかも、音がしたかもわかんない!ただ、両替して貰おうと思って店の裏に声かけたら……オッサンが倒れてたんだよ!」
と無罪を主張。
まあ、第一発見者だし、通報も彼女からだし、私はシロで見てるけど。
他に目ぼしい人もいないから拘束されてるわけ。
「…つまり、君は彼女は犯人でないと見ているのだな?」
『まあ…捜査次第ですけど。証拠不十分ではありますよね、あんなの状況証拠じゃないですか。………再捜査、ご同行願えませんか?御剣検事殿』
この事件の担当である、御剣検事にその旨を報告する。
…この、御剣検事とは。
若くして上級検事へと昇進し、高い推理力を誇る検事局きってのブレインだ。
それに見あった給料なのか、赤いスポーツカーに乗っていたりホテルから紅茶を取り寄せたりとリッチな面も見せる。
それでいて見た目も良いのだから、本当に、自分とは別世界の遠い遠い人物だと感じざるをえなかった。
「構わない。私も、げーむせんたーとやらは行ったことがないのでな。一度見ておきたいからな」
話はまとまり、現場であるゲームセンターへ足を運ぶ。
そこは、流行りのアミューズメントパークには程遠い規模。
カラオケやボーリングなんてついてないし、ドリンクバーだってない。
ゲームのみでワンフロア。
アパートのゲーセンコーナーよりちょっと広いくらいの場所だ。
「あ、御剣じゃないか」
「…成歩堂。そうか、弁護はお前か」
「まあね。というか、お前が捜査に来るってことは…やっぱり引っ掛かるとこがあるってこと?」
「そうだな。…部下からの進言というのもあるが」
「今日は雨月刑事と一緒なんだね!糸鋸刑事は?」
「糸鋸刑事は冥検事の捜査に同行していますよ。真宵さんは、本日も成歩堂さんと捜査へ?」
「うん!なるほど君はゲーセン来たことないっていうから、真宵ちゃんがレクチャーしてあげるの!」
そこで、担当弁護士の成歩堂さんと真宵さんも合流。以前は敵対していたのだが、最近は協力して捜査することもあるのだから、古い縁とは面白いものだ。
「じゃあ、現場再現ということで」
事件があってから止まっていた明かり、ゲーム、BGMを全て稼働させる。
一気に賑やかになった店内に、目を輝かせる真宵さん、騒音だとでも言いたげな御剣検事、音の多さに戸惑う成歩堂さんと。三者三様の反応。
私は
「あれが、容疑者が遊んでいた機械で…現場はほぼ対角。………気づかなくてもおかしくはないですね。むしろ、間にこれだけ機械があれば目視は不可」
然程気にならない。
聞かない、と決めてしまえば騒音なんて全て聞き流せてしまう。
「うわぁ!なるほど君!トノサマンのフィギュアがあるよ」
「ム!中々大きいな。しかもこのタイプは初めて見る」
「ゲーセンにはね、ゲーセン用に作られたフィギュアや人形があることもあるんだよ!」
聞き流さないようにしてた、会話で聞こえて来たのがこれ。
一層目を輝かす真宵さんに、食い入るように見つめる御剣検事。
「真宵ちゃん、やるなら自分のお小遣いからやってよね」
「わかってるって!」
トノサマンのフィギュアが入ったクレーンゲームは2つ。
1つは昔ながらのUFOキャッチャー。
4つの脚が開いて、上から掴むタイプ。
2つ目は景品が紐で吊られていて、その紐を切るタイプ。
『…………百聞は一見にしかず、ですから。御剣検事も試してみては?』
彼が、お財布を取り出す真宵さんを、あまりに羨まそうに見つめているので。
つい、そんな助け船をだしてしまった。
「そ、そうだな。物は試しだ」
そして。嬉しそうにソワソワと硬貨を投入する。
…検事局次期トップと名高い御剣検事が、ゲーセンで遊んでる。なんて、中々微笑ましい絵柄だ。
「あー!もうちょっと」
「ム…中々難しいのだな」
「次こそ行ける気がする!」
「んな!そこで落ちてくれるな!」
数回でのめり込んでしまった彼らを後ろから眺め、成歩堂さんはげんなりと肩を落とす。
「…僕は捜査したいんだけど」
『それは私が同行しましょう。死体が発見されたのは向こうのバックヤードですから』
それと連れだってクレーンゲームコーナーを後にする。
一応、『私達はバックヤードに入っています』と声をかけたが返事はなかった。
「あー、お金も盗られてるね」
『そのようですね。収支点検表との帳尻が合いません…といっても、大繁盛とは言えない売上ですが』
「ん?…そうだね、人件費や雑費入れたらプラマイゼロだ」
『店長も薄給ですね………というか、最初に切り詰めたのが店長の給料じゃないですか?減給して、新しい機材の導入資金を貯めています』
「ここ、個人経営のゲームセンターだよね?………店長、いい人じゃないか」
『小中学生は夕方には帰す、高校生も条例に従った時間には帰す…煩がられる反面、大人が夢中になっていて子供が遊べないでいると声をかけたり、ガラの悪い学生を注意したり、安心して遊べる場所にしていてくれたようです』
「…………なんで殺されちゃったかなぁ」
バックヤードに入って、事務デスクや金庫、簡易ロッカーなんかもあるそこで。
成歩堂さんと被害者の話をしながら現場検証をする。
遺体のあった場所、打撲傷が前面ということも含め、立ったまま殴られた…と考えるのが妥当か。
凶器は部屋にあった、シャッターを降ろすための鉤付きの鉄棒。
計画的、ではなく突発的な犯行?
だとしても、女子高生が職員用スペースまで赴いて、自分より大きな男を殴り倒して金銭を奪い、逃げ…る事もなく、通報して、第一発見者を装う…なんてするだろうか。
もっとズル賢い大人の犯行じゃないか?
金銭目的に見せかけただけとか、店長の口煩さにカッとなった少年少女に目を向けさせる…とか。
そうなると………まあ、怪しいのは副店長だろうか。
金庫のナンバーも知ってるし、バックヤードにいても不自然でない。
加えるなら、経営の方向理念が違う。
店長は、店を皆が楽しめる居場所にしたくて。
副店長は、店を経営の手段…稼ぐ為の場所と考えている。
『………寧ろ副店長の方が遥かに怪しいんですけどね』
「なんで検挙されなかったの?」
『ここの入り口にある防犯カメラに映っていないんです。出入口がそこしかないので、他の侵入方法を上げない限りは疑いようもないかと』
「うーん、そうかぁ……窓とかは?」
『私も考えたのですが、店内は嵌め殺し窓で、開閉できるのは小さな採風窓。そちらはとても人が通れる高さでも大きさでもないです。バックヤードに窓はありませんので…というか、入り口以外から入ってきたら計画犯行ですね』
「それもそうか……」
あーでもない、こーでもないと成歩堂さんと推理を続ける。
女子高生が犯人だという証拠もないけど、他の人物の手がかりがあるわけでもない。
「ここ、店員用の出入口とかないのかな?普段は見えないようにしてあるとか」
『…ロッカー、動かしてみますか?』
どこ、とは言えないが違和感のあるロッカー。
間取りとして邪魔…と気付いて、成歩堂さんと協力してずらしてみた。
「ちいさいけど…見事にあるね」
『この裏、丁度このくらいの大きさの冷蔵庫捨ててありませんでしたか?』
「ああ、そうやって隠したのか。ロッカーも比較的軽いし、外に出てから、取っ手でもつけて引っ張って…扉を外からも隠して逃げる」
『検証しましょうか。御剣検事も呼びましょう。真宵さんにも、女子高生に運べる代物なのかご助力願いたいです』
「いいんじゃないかな。………っていうか、あの二人はまだ遊んでるのか?」
………大分長いこと検証してたと思うのだけれど。
彼らは一向にバックヤードに訪れない。
げんなりと肩を落とす成歩堂さんと一緒に、クレーンゲームの前に戻ることにした。
そうして戻ったゲーム機の前。
「ム!また此処でか!」
「御剣検事ファイト!私はもうお小遣いなくなっちゃったから!」
相も変わらず二人はトノサマンフィギュアを取ろうと格闘していた。
レバーをカチャカチャと動かして、睨み付けるような形相で必死にクレーンを操っている。
『……検事殿』
その背中に声をかければ。ビクッと肩がはね上がった。
「…………っ!?いや、雨月君、これは………中々熱中するな。…その、確かに百聞は一見にしかずだ………う、む。現場の捜査に向かおう」
『今しがた成歩堂さんと終えました』
振り向いた御剣さんは、私達の呆れた視線に気付いたのか、オロオロとして見せる。
が、トノサマンフィギュアに後ろ髪を引かれて仕方ないようだ。
視線がチラチラとトノサマンを振り返る。
『…ここのゲームはかなり良心的ですね。酷いところは落ちないように細工されてたり、通常でもクレーンがしっかり閉じる回数を割合として設定しているものですが………ここは古い故の癖があるだけで、小細工はしてませんよ』
ポケットから、自販機でジュースを買おうと思って入れておいた小銭の内の1枚を取り出す。
カラン、という音で機材が動き出した。
…クレーンを止めた時に後ろに動く癖がある。
左のアームが弱ってるから、近いからといって左の景品を狙うよりは、正面奥のものを引きずり出して転げ落とす方が無難だろう。
ガタン!
「!!」
「うわぁ!すごい一発!!」
そうして、箱に入ったフィギュアは手元に来た。
『真宵さん、どうぞ』
「いいの!?」
『私は要りませんので。…これで、このゲームセンターが小細工してた訳ではないことを証明したにすぎませんし』
「わあ…っカッコいい!ありがとうございますっ!私達なんて全然だったのに………ねえ、御剣検事?」
「む………面目ない」
『検事たちは、熱中してたらバックヤードで何が起きてたかなんてわからないって、証明してくれたのでしょう?』
「………ぐ」
「良かったね御剣検事!私達も役に立ったよ!」
「………真宵君は素直で羨ましいな」
嬉しそうにフィギュアを抱える真宵さんは、ぴょんぴょんと跳び跳ねそうな勢いだ。
御剣検事は、それを羨ましそうな目で見ている。
彼は、こんなにわかりやすい人だったのか。
『……』
ポケットから、もう1枚小銭を出す。
これでもう、ジュースは買えなくなってしまった。
チャリン
こっちの糸を切るタイプのクレーンゲーム。
鋏の歯が丸いから先端では切りにくいが、刃の奥は錆が見える。
中間を狙って、レバーが重たいのを加味して気持ち遅めに選択すれば
ガタン。
「な………!連続だと!」
「ええええっ!そっちも!!」
『実証は必要ですから。御剣検事、どうぞ』
「い、いいのか!?これは君が取ったんだろう?それは…」
『私は要りませんので』
取った獲物を検事に押し付ければ。
口は遠慮するものの、腕はひしとフィギュアを抱き締めている。
それからもう、目は口ほどに物を言う。
御剣検事と真宵さんの、私を見る目が、ヒーローショーに来た子どもさながらにキラキラしてる。
真宵ちゃんは変わらずぴょんぴょん跳ねてるし、御剣検事なんか小さく拍手してて口も開いてる始末。
成歩堂さんが微笑みながら
「上手なんだね。真宵ちゃんの分までありがとう」
と、一番大人なリアクションだった。
**********
「よって被告人、無罪」
かくして、女子高生は無罪に。
副店長が有罪になった。
『行った甲斐がありましたね、ゲームセンター』
「…根に持ってるのか?」
『何をですか?』
「その…捜査もせず、ゲームに熱中していて…あまつそのゲームも満足に出来ない…と」
『…被害妄想強すぎです』
真犯人を起訴、拘束、有罪まで持っていけたのに、浮かない顔をしてると思ったらそんなことを気にしていたらしい。
「そうは言ってもな…私があそこでずっとモタモタと何十枚の100円玉と戯れていたのに、君はスッと。本当に1回で捉えて、しかも私に渡してくれた…」
『はあ………』
「それを、どこからか冥が聞き付けてな。"それは女の子がやって貰いたい奴よ。情けない男ね、御剣怜侍"と鼻で笑われてしまったのだ」
『あの、お話が見えないのですが』
深刻そうに寄った眉と、悔しそうに引き結ばれた唇と。
それとは似合わず、気恥ずかしそうに若干染められた頬。
「………もう一度、一緒にげーむせんたーに行ってくれないか?」
ああ、なるほど。
御剣検事、ゲーセン気に入ったんだ。
それで、行く口実を探しあぐねていたと。
『構いませんよ。もっと規模の大きいところ行きましょう。そうすれば、得意なものも楽しいものも他に見つかるかもしれません』
「君は、詳しいのだな」
『それこそ、学生の頃はよく行きましたから』
「む………そうなのか。では、御指南頂こう、お任せしたい」
『わかりました』
(そうかぁ、御剣検事もああいうとこ楽しいと思うんだ)
今回の事件で少し、彼は身近な人になった。
fin
当日、100円玉の棒金と千円札の束を持って現れた彼に。
やっぱり遠い人かもと思った。
結論から言うと、御剣検事はクレーンゲームに向いてない。
運動神経が悪い訳じゃないし、反射神経もいいのだけど、………手先で感覚を掴む、みたいな細かいところは苦手なようだ。
「ぬあっ!」
棒金が1本なくなる、というところまできても何一つ取れなかった。
これでも、私が台を選んで比較的癖が無くて取りやすい機なのだけど。
『…しょうがないです。簡単に取れちゃったら商売になりませんから』
「しかし…」
『それ、最後の1枚にしましょう。他のゲームができなくなってしまいます』
「む、それは…」
『一緒にやりますから。集中してくださいね』
凹みに凹んだ御剣検事を見かねて、レバーを握る手に私の手を重ねて100円玉を放り込む。
「…っ!」
『ラストチャンスです。逆転しますよ』
右、奥、下降、閉じる。
レバーは私が先導して、ストップボタンは私の独断。
実質、私が操作しているようなものだったけど。
「と、とれた!」
『初ゲットおめでとうございます』
カコン。
と、取り出し口から出てきたぬいぐるみに御剣検事は目を輝かせた。
今回は、トノサマンじゃなくて、ふつうの可愛いウサギのぬいぐるみ。
狙いやすかったけど、御剣検事はこれで良かったのかな?なんて思っていれば。
「これは、君に渡したい」
と、差し出されてしまった。
『…え?』
「好みではないかもしれんが…その。前回の捜査でトノサマンを取ってくれたのが本当に嬉しくて、格好よくて…私もお返しがしたかったのだ。初めて取れたのも君のおかげだ、受け取ってほしい」
『………では、お言葉に甘えて。ありがとうございます』
そんな風に思っていてくれたなら、受け取らないわけにはいかない。
棒金1本、5,000円のぬいぐるみだ。
大事にしよう。
因みにこのあと、音楽ゲームのコーナーへ行った。
そちらの方が向いているようで、太鼓のゲームを二人でやるのは中々楽しかった。
1曲目はトノサマンのテーマ、2曲目はクラシックのボレロ。3曲目は御剣さんが「私が知らない曲で構わないから好きな曲を入れてくれ」というので、裏譜面を叩いた。終わって振り向いたら目を丸くして、また小さく拍手してた。
「君は、こういうのも得意なのだな!」
『…まあ』
私もクレーンゲームより音楽ゲームの方が得意だし好きで。こっちは少しの間はガチ勢だったからそこそこできる………と思う。
「好きな機種?はないのか?見てるだけで構わないから見ていたいのだが…」
『見てるだけで楽しいですか?』
「スポーツ観戦のような気分だな。とても楽しい」
そう言ってくれるなら…と、同じ音楽ゲームの「ビートストリーム」、略称「ビースト」を選んだ。
指先で画面に現れる指示をタップし続けるタイプなので、御剣検事は多分苦手。
個人的には五指どころか十指使ったプレイがピアノみたいで楽しい。…いや、ピアノ弾けませんが。
これも何曲かプレイできるので難易度を少しずつ上げていき、最後に難曲をノーミスしたところ。
「!!!」
だから、ヒーローを見る子どもですかって。
そのキラキラした目を止めてくださいよ。
『私は気が済みましたので、プリクラでも撮って帰りましょうか?』
なんだかその視線がむず痒かったので、色白美肌に加工したツーショットのプリクラを撮って「異議あり!」って書いてきた。
………存外楽しかったので、来月も行く約束をしてしまった。
(そんなのが1年も続いて)
(それってデートじゃないの?と)
(冥検事に呆れられた)
(………デート、なんですか?)
(………デート、なのだろうか?)
end