リクエスト4
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《負けず嫌いな可愛い貴女へ》
彼女は小学校時代の旧友だ。
その頃の印象は、負けず嫌いで、曲がったことが許せない、真っ直ぐで強い女の子。
そんな彼女は私を目の敵にしていた。
理由は単に、私がいつも1番で彼女が2番だったからかもしれない。
とにかくことあるごとに私と張り合ったのだが、結局1度も勝てなかったのではなかろうか。
テストの点数も。
作文コンクールも。
楽器の演奏会も。
スポーツ大会でも。
私の1つ下に彼女はいて、悔しさを滲ませる強い眼差しとは裏腹に、泣き言を漏らすまいと引き結ばれた唇が印象に残っている。
唯一意気投合したのは、例の学級裁判の時。
「異議あり!証拠もないだろう!」
叫んだ私に続いて彼女も立ち上がった。
『成歩堂君をどうして誰も信じないの、見てもいないくせに!』
非難される元々成歩堂と仲の良かったやつらは
「お前好きだから庇ってんだろ!」
と、論点をずらして口撃したけれど。
彼女は一瞬たりとも怯まなかった。
『クラスメイトを、友達を信じたいと思うことに、好きか嫌いかなんて関係ないんじゃないの?』
そう、凛とした声で言い放って。
クラスを沈黙させた。
それからだ、彼女が張り合ってくる女の子から、友人の一人になったのは。
「…僕は、いつかお父さんみたいな弁護士になる」
『じゃあ、私は検事になる』
そんな夢を語るくらいに。
ただ、私の引っ越しでその時は長く続かなかったけれど。
時は10年以上流れた。
彼女の存在は中等部の作文コンテスト、高校の総合文化祭などで見かけ、忘れることはなかった。
……なんせ、私のいつもすぐ下に名前があるのだから。
あの、悔しさいっぱいの瞳で唇を一文字にしてるのだろうと、想像に難くなく。
また、会う日はくるだろうか。
なんて、ぼんやりと想っていたものだ。
まさか、こんなところで会うとは。
『…!御剣君!?…なんで、検事局に…』
「検事になったからな」
『な……』
なんで、と言いかけた彼女は、あの日の面影を残して大人になっていた。
弁護士になるだろう私と対峙するつもりで検事になったのに、私が検事になってたらそれは驚くだろうな。
けれど、引っ越した理由や私の表情から、『なんで』を飲み込んだ彼女に、相変わらず強い女性だと思い知って。
「…検事最年少記録は同着か…ついに並ばれてしまったな」
そう口にすれば。
『…っ、見てなさい、直ぐに追い抜いてやるんだから!』
僅かに笑みを浮かべて、踵を返していった。
それからは、小学生の日々が戻ったかのようで。
起訴回数
有罪回数
判決までの最短記録
逮捕人数
何から何まで彼女は競いたがった。
あの頃と何が違うかといえば、彼女が常に下ではないということ。
勝っては負け、負けては勝って。
勝負は拮抗、勝敗は均衡、どちらも一歩も引かない。
同着では納得いかない彼女はストイックに振る舞い続けていたが、私はとても楽しかった。
肩を並べて勝負できるライバルなど、望んで手に入るものではないからな。
張り合えることが嬉しかったのだ。
あれから更に3年経って、私と彼女は上級検事になった。アメリカ留学から戻った私は彼女と主席検事争い中…といったところ。
まあ、私はその座を狙っているわけではないのだけど。
もとより私は特別ライバル視されているが、誰に対しても負けたくない彼女の隙のないオーラは
「雨月検事って怖い」
のレッテルは早々に貼らせた。
むやみやたらに怒鳴ったり、理不尽に機嫌を悪くするわけではないのだが……。
ただ、悪に対して厳しすぎるだけで。
「量刑裁判、ご苦労」
『労われる程の裁判じゃないわ』
「そうか?極刑は難しいと言われてたろ、……世論は望んでいたが」
『別に世論が押したから勝ち取ったわけじゃない。単純に、極刑が相応しいと思ったのよ。寧ろ罪に対する対価が命なんて、足りないくらいだと思うけど』
ロビーですれ違えばこの会話。
情状酌量がつくような殺人罪はともかく、私利私欲で人を殺めた輩は、彼女にとって死刑ですら温いらしい。
「相変わらず、惚れ惚れする正義感だな」
『…多忙な御剣検事は、わざわざそれを言うために裁判所へ?』
「いや、本題は明日の裁判の打ち合わせだ。まあ、君の顔を見たくてロビーに寄ったのは事実だが……」
『そんなことを嘯く暇があるなら、明日の裁判はさぞ余裕なのね』
靡きもしない、凛とした声と視線が堪らなく愛しかった。
いつになるかわからない、実現するかもわからないし、彼女が望むとも思えないが、いつか。
彼女と背中を預けあって、もしくは手をとりあって。法曹界を担う日が来たら。
どんなに心強く、頼もしく、希望に溢れていることか。
『…御剣君?』
「ああ、すまない。呼び止めてしまって悪かったな。また、時間のあるときに紅茶でも」
『そんな暇があればね』
彼女を誘うと、あしらうように笑われるのは常だ。
けれど、その暇を、わざわざ作ってくれることも知っている。
『このくらい、どうとでもなるわ。御剣君が暇か気にしただけ』
と、一言足しながら。
かくして、翌日の裁判を終えて執務室に戻れば。
彼女が茶菓子を広げて待っていた。
ご丁寧にポットやカップも温められている。
「用意のいいことだ。ダージリンでいいか?」
『何でもいいわ。美味しければ』
そう言ってソファーに座った彼女に、カップを渡した。
「成歩堂と矢張が会いたがっていたぞ、たまには一緒に食事でもどうだ?」
『成歩堂君はいいけど、矢張は嫌。ホント、煩くて敵わないわ』
「そう言うと思った。私も同感だからな、成歩堂にだけ連絡をつけよう」
きっと成歩堂君はいつも暇よね。と、本人が聞いたら青筋立てそうなセリフを吐いた。まあ、本人目の前にしても言ってのけるから、大層肝が座ってる。
肝が座ってるのは良し悪しだ。
彼女は単身単独で事件に首を突っ込んでいくスタイルで、捜査官が置いてきぼりになること多々。
手柄を一人で立てた…という優越感に比べたら、それに伴う危険など安いものだという。
(いつか、痛い目を見なければいいが)
そんな周囲の心配も薄れる程、着実に仕事をこなせるのだから、ライバルと言うには申し分なく。
友人として誇れるものもある。
きっと、彼女の弱い部分でも見た日には、そのギャップで転がり落ちるように恋するだろう。間違いなく。
さて、長くなったがここまで回想だ。
現在、私と彼女はとある人物を追っている。
「こんな所で指名手配犯を見るとは」
『成歩堂君には悪いけど、ご飯は延期ね』
夕食の予定を組んで、待ち合わせた18時の駅。
すれ違った男に見覚えはあるが、会った記憶がない…と、記憶を辿って行き着いたのは行方を追われている捜査対象者。
彼女も同じだったらしく、目配せをして後をつける。
彼女が携帯で何やら連絡をとってくれ、応援が来るまでは二人で尾行することとなった。
「…このまま繁華街を抜けると住宅地だな」
『そんなに大きなベッドタウンじゃないわよね?』
「まあな。最近別の事件でこの辺りの聞き込みをしたが……変わったことといえば幽霊騒ぎくらいだった」
『…っ!ゆう、れい?』
彼女の言葉が僅かに上擦って、人通りの少なくなった道でその声は響いた。
それに気付いただろう、後ろを振り向いた男の視線から隠れるように小路に入る。
「……急にどうしたのだ」
『ど、どうもしないわよ。幽霊なんて、変なこと言うから…』
「……その話は追いながらな」
住宅地の先は工業地帯で、その狭間には古いアパートや廃ビルがいくつかある。
既に無人の筈なのだが、人影が見えたとか火の玉が出たなどの噂が尽きないのだという。
「火の玉は土葬によるリンの発生が有力らしいからな、こんな街中だと確かに不可解だろう?」
男はそのビルの1つに向かっていて。
隣を一緒に歩く彼女に知っている情報を共有しているのだが、返事がない。
彼女のことだ、些細な情報でも何か引っ掛かるかも知れないと思って伝えたが、怪異など下らないと思われただろうか。
「…雨月?」
そのうち、男がビルの中へ消えて行くのが見えて。
ここに不法入居しているのだと確信しつつ、漸く彼女を見下ろした。
彼女は唇をぎゅっと引き結び、瞳を僅かに揺らしている。
「……まさかとは思うが、ホラーは苦手か?」
『苦手じゃない!……ちょっと、考えごとを…』
苦手、という言葉に過剰反応する。
しかし次の瞬間、彼女の瞳は大きく見開かれ、唇を戦慄かせた。
そして
『…いま、あっちのビル…火の玉でた』
「火の玉?」
『赤いのと、青いのが、ふわーって……』
「どのあたりだ」
『真ん中…』
と、男が入っていったビルを指差す。
細かく震える肩。
カチカチと噛み合わない歯。
音もなく零れ落ちる涙。
(苦手どころではないな、これは)
普段なら一人でもビルの中まで尾行してしまうくらいの行動力ある彼女だ。
ここに留まっているだけで異常。
『っ!』
「なんだ」
『あっちにも、出た……っ』
怖くてたまらないのだろう、眼を瞑って自分を抱き締めるように縮こまる。
今回は指さされたのは隣のビルので、私も一瞬、青白い発光を目撃した。
(あれは……)
考えるより先に、甲高い音が短く、時折長く何度か鳴いた。文字にするならピーとかキーンだろうか。
得体の知れない音に、彼女はとうとうしゃがみ込んでしまう。
「…落ち着きたまえ」
『お、落ち着いてる、わ』
「……膝が笑って立てないのにか」
『うる、さい』
睨む目元にいつもの気迫は無く、すごむ声は震えて、ヒュッと息を飲む音すらしている。
「雨月検事って怖い」
そう言わせたオーラは何一つ残っていない。
「…立てそうか。君を置いて尾行を続ける気はない、が、もう少し目立たない場所に移動しよう」
『……っ、』
「無理するな。応援も直に来るしな。…だが、刑事達にその姿を見られたくはあるまい?」
『…そう、ね』
辛うじて、震える唇を噛みしめることで立ち上がった彼女は。
悔しさと恐怖が混ざった涙声を出す。
『御剣君に、知られたくなかったわ』
「……怪異が苦手なこと?」
『……ええ。非現実なことって解ってるけど、だからこそ、受け止め切れなくて』
「気にするな。誰しも得手不得手はある。…私も、地震とエレベーターだけは御免だ」
そして、物陰で息を潜める私達は、刑事達が近づいているという連絡を受けた。
「しかし、君の観察力は素晴らしいな」
『どういうこと…?』
「君は火の玉の色を証言してくれたろ?だから推測できる。あれは、人だ」
『は…』
「赤いのは、恐らく煙草。青いのが、携帯の液晶。今追跡した対象者が入ったビル以外でも光ったということは、このビル以外にも仲間がいる。あの音も、何らかの合図かもしれん」
もし、私達に気づかれてたら厄介だ。
このまま隠れていよう。
そう伝えて、尚も震える肩を抱き締めた。
思わずとった行動だが、彼女なら振り払うかも知れない。と、一瞬身構えたけれど。
彼女は肩に回した私の指先をぎゅっと掴んで、小さく頷く。
(……、落ちた)
何に?
恋に。
彼女を、初めて「可愛い」と認識して。
こんなにも、守りたいと思う。
恋じゃなければなんなのだ。
『…御剣君』
「ム?」
『……っ、内緒よ。私がお化け嫌いなの』
「当然だろ。雨月のこんな可愛い姿、他人に教えるなんて勿体無い」
『はは、何言ってるの』
笑うだけの余裕が出てきて一先ずほっとする。
それから程無くして、警官達の応援も加わり、指名手配犯は御用となった。
彼女が火の玉を見た、といったビルにも仲間がいて、それも含めて一網打尽に。
因みにあの不可解な音は、一般人を脅かして近づけないようにする為のものだったそうだ。
『………一生の不覚よ、あんな姿見られて、可愛いとか言われて』
後日、私の執務室で紅茶を啜りながら、彼女は愚痴を溢す。
あの一件以来、私の前では堂々と悔しがったり、勝ち誇ったり。素直な彼女を見ることが出来ていた。
1番見せまいとしていた顔を見せてしまい、リミッターというか、箍…みたいなものが外れてしまったのだろうな。
「可愛いは誉め言葉だろ。君はライバルを魅力したのだ、圧勝ではないのか?」
『……そうなんだけど、圧勝じゃないのよ』
「…というと?」
向かい合うソファー。
彼女はカップの紅茶を一気に飲み干すと、頬を膨らませてそっぽを向く。
『……私も、あの時、御剣君カッコいいって…頼りになるって思っちゃったわ。…だから引き分けなの』
また引き分け。
本当、いつになったら勝てるのかしら。
彼女は不機嫌そうに眉間を寄せて、カップをソーサーに戻し、そのソーサーを私に差し出してお代わりを要求する。
そのソーサーを受け取って、紅茶を注がずにテーブルに戻せば。彼女は不思議そうに首を傾げた。
『…御剣君?』
「…はあぁぁぁぁ…今回は私の完敗だ」
『何、急に』
「君も知ってるだろう?」
恋愛というやつは、
惚れた方が負けなのだ。
「こればかりは、勝てそうにない」
頭を抱えて唸る。
素直なのは嬉しいが、調子が狂うのだ。
彼女にカッコいい等と言われる日は絶対来ないと思っていたから。
転がるように落ちていた恋は、とうとう垂直落下した。
「……私の、弱点であってほしい」
『……え、それ告白?もう少しまともなのあるでしょ』
「ム……私に勝てるのは君だけだ?」
『なんで疑問系?』
予期せぬ愛しさの積み重ねで、思わず告白したものの。気が利くセリフなぞ急には思いつかない。
結局、シンプルな言葉に行き着いた。
「……好きだ、恋人になってもらうことはできるだろうか?」
『望むところよ』
(…そこも勝負なのか?)
(どちらがより多く、永く、愛せるかのね)
(それは…負ける気がしないな)
fin
……………
アナザールート:SIRENオマージュ
※ホラーシーンのみ
※そんな怖くない
『ねぇ、羽生蛇村って知ってる?』
「……確か……土砂崩れで埋もれた小さな集落だったな」
『行方不明の被害者がその村について熱心に調べてたみたいなんだけど、なんか関係あるかな?』
「……まあ、大きな土砂災害で2回も埋もれた村だしな。オカルトが好きとか、興味のある者もいるだろう。なんせ村人33人殺しの噂も流れ、助かったのは一人の少女。…ここまでは資料というよりメモだな。昔のことだし、真否を確かめる術もない」
『え、そんな噂があるのに捜査されてないの?』
「捜査したくても瓦礫の下でな。1人…しかも少女が生き残っているのが不思議なくらいだ。今でも羽生蛇村といえば心霊現象には事欠かない。遺棄された死体は絶対見つからないが、死体を遺棄しに行った被告が"村に着いたら死体が動き出した"と取り乱して駆け込んでくる…と近隣の交番では有名だ。…近隣といっても山を越えた先だが」
そんな案件が何度かあったな…と、遺体の見つからない殺人事件のファイルを漁る。
その間、彼女は押し黙って俯いていた。
「…雨月?」
『……あ、え?』
「……………私もこの死体が消えた件は1度もってるからな。もし赴くなら捜査に加わりたいのだが……」
『……』
振り返れば、顔面蒼白の彼女が棒立ちになっていて。
普段勝ち気な彼女とはかけ離れた相貌に絶句した。
それを心配したのが半分、今更ながらこの村に関わる事件が不可解すぎて調べたくなったのが半分。
捜査への同行を願い出れば、
『……私の捜査の邪魔はしないでね』
まさかの了承。
捜査を共にすることになった。
翌日の昼過ぎには件の羽生蛇村を目前にして、薄暗い山道を車で走る。
「…そういえば、捜査官達は?」
『この辺りの管轄の捜査官が来てくれるらしくて、現地集合にしたの。待ち合わせ場所、ここのはずなんだけど』
山道のバス停。
こんな山道でも通るのだろうか、レトロな作りの割に綺麗なそれは目立った。
そこで車を降りて、周りを見渡す。
ただただ木が生い茂るばかりで人影は見えない。
『………今時、携帯通じない場所なんてあるのね』
彼女の手の携帯はアンテナが1つも立っておらず、電話もネットも通じないようだ。
「…無線でも拾うか」
山にいくならばと持ってきたトランシーバーで電波を拾おうと試みるも、拾える近さには来ていないらしい。
「…ム」
『……一旦戻って、県警と連絡とった方がいいかしら』
「いや、私達だけでも村に向かうか。日が暮れてしまう方が厄介だ」
『え、二人で?』
「怖いか?」
『そんなわけないでしょ!』
結局私達は、車を目印に置いたまま村への細道を二人だけで下っていった。
「……」
『……』
「思ったより瓦礫も土砂も片付いているな」
着いた村だった場所には、寂れた病院や民家が建ち並んで。
不自然に人の気配だけがなかった。
『今、誰か住んでるのかしら?』
「……いや、災害以来復興したとはきいたことがないが…」
『こんなに片付いているのに…』
「村人が戻るつもりだったのかもな。あの災害では遺体が1つも発見されなかったし」
『え……だって、行方不明が多かったんでしょ?……嫌な話だけど、一部とかは見つかってるんじゃないの』
「いや、それもない。土砂災害のあった日、村人が忽然と消えたのだ。たった1人の少女を残して」
その少女は"先生と一緒だった"と述べていたらしいが。この子も精神的に危ない状況だったらしく、先生…が医師なのか教師なのかも解らない。そもそも、本当に存在したのかさえ……
「…雨月…、具合が悪いのか」
『っ、違う、の。別に……』
昨日と同じく、血の気の引いた顔で僅かに震える彼女をみやれば。
両腕で自分を抱き締めながら首を横に振る。
ガサガサッ
『キャッ…!』
しかし、物陰から何かの音がするや、彼女は悲鳴を上げてしゃがみこんでしまった。
音は遠退いて行くので放置し、しゃがみこんだ彼女に目線を合わせる。
「…誰しも苦手なものはあるだろう、無理をするな」
『…』
「私も地震とエレベーターは未だに苦手だ。嫌いといってもいい」
『………。実を言うと…怪談系、無理なの』
おおよそ察していたが、的中した。
幽霊やゾンビのホラー、魔術や呪いのオカルト、消失やタイムリープの怪奇現象、どれもこれもが怖いのだという。
『……御剣君には、知られたくなかった』
そんなところまで張り合わなくても。
と思ったけれど、どうしても勝ちたい相手に弱味を見せたくないのは当然か。
「私も今しがた苦手を暴露したからな、お相子だ」
彼女の手をとって立ち上がらせ、辺りを見回す。
思ったより広い村、この状態の彼女と捜査するのは無理そうだ。
「……やはり戻ろうか」
そのまま手を引いて来た道を戻る。
この調子なら、彼女はこの一件離れた方がいいだろう。
(調子が狂うのはこちらも同じだしな)
手を引かれるどころか、私に先導されて歩くのすら苦い顔をする彼女が。
しおらしく震える手で私の手を掴んでいるなど、慣れないにも程がある。
先程のバス停が近くなれば、私の車と、何台かのパトカーが見えた。
憔悴した表情の彼女を先に車に乗せ、パトカーを伺えば、中は無人で。
「あ、御剣検事ですか?」
今、自分達がやってきた、村の方から何人かの警官がやってくる。
「そうだが?」
「すみません、時間になってもお姿が見えなかったので勝手に捜索させて頂きました。…といっても今さっき隣村から通報があって探し人は見つかったそうです」
班長らしい人物と、捜査官達が次々と戻ってきてパトカーに乗り込む。
しかし、私は状況を飲み込めない。
「……私たちも時間より早く来て待っていたはずなのだが」
「え?本官が来たときには誰もいませんでしたが……でも、検事殿が村に入る前でよかったです。なにせ昨日の雨で土砂がまた崩れて…そのスーツは泥だらけになってしまったでしょうから」
「雨……?」
「はい。もとより瓦礫も手付かずの、村とは呼べない惨状でしたので…歩くことも難しかったかと。…そもそも、目印にしたバス停さえこの有り様ですし」
そこで、私は改めてバス停を見る。
「…!?」
さっき見た筈の、レトロな割に綺麗なバス停。
それは幾年も放置されたかのように錆び付き、地名や時刻表など読めたものではないそれが…今にも朽ち果てんと木に寄りかかって辛うじて立っていた。
「……」
「御剣検事?」
「いや、なんでもない…そうか、まあ、みつかったなら、それでいい」
組み立てられたロジックは、信じがたいもので。
けれど、そうでなければ辻褄が合わない。
(タイムトラベルなど、非現実的だとわかっているが)
私達がいたのは、土砂崩れに見舞われる前の村、バス停。
あの村に人気がなかったのは、既に33人殺しが行われた後だから。
…ならば、あの物音は…犯人、だろうか。
それが、一番まとまる考えだ。
寧ろ、それ以外にどうしても説明がつかない。
『……御剣くん、戻ろう?』
「ああ。そうだな」
しかし、それは胸に秘めるべき真実。
震える雨月の為に、気づかないほうが幸せなこともある。
けれど。
車に乗り込んだ私は再び気づいてしまった。
ルームミラーに映る、村へ下る坂道に。
その坂を下らんとする私と彼女の後ろ姿を。
End