リクエスト4
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《君がため、紅の葉》
※ココネ視点
夕神さんを遊びに誘ったら、用事があると断られた。
仕事ばかりで、休日に予定があることなんて殆どない夕神さんに、用事。
「…はっ!デートですか!?デートですね!!?ついに雨月さんと!!!!」
それに思い当たって叫べば、渋い顔で頷いてくれた。
「……、先約なんだ」
「ええ、ええ、かまいませんとも!」
夕神さんと雨月さんのデートは私にとっても嬉しい事案。
何せこの人達ときたら、ラボにいた頃から両片想いで、子供ながらにヤキモキしていたのだ。
大好きなお兄さんと大好きなお姉さんが仲良くしてるのは、喜ばしい。
でも、ちょっとだけ淋しい。
そんな中、何年か越しにやっとくっついた二人だ、もう気になって仕方ない。
「デート、どこ行くんですか?」
「…いや、特に決めてねェ。なんでもいいッてのは結構悩むな」
「…。あ、なら紅葉狩りはどうですか?」
「紅葉狩り?」
「はい、この前雑誌で特集組まれてて、私も来週行くんですよ。えっと…ここです!」
奥手な夕神さんがデートなんてピンと来るわけない。
そこで、たまたま持っていた小旅行のパンフレットを広げて差し示す。
「…近場にあるもんだな」
「でしょ?ランチも園内で食べれるし、お弁当の持ち込みもOKです。夕飯は園内では食べれませんが、近くに食事処は多いし日帰り温泉もありますよ!」
「随分詳しいな」
「調べましたんで!もし行ったら、感想教えてくださいね」
「…そうだなァ」
ひとつだけ、嘘をついた。
私は確かに此処の紅葉狩りにいく…けど、それは今週末の話。
夕神さんをそもそも紅葉狩りに誘うつもりだったのだ。
もちろん、事務所の人やしのぶ達も誘って。
ただ、結局予定が付きそうなのは、しのぶと王泥喜さん、みぬきちゃんだけ。
折角だからしのぶと王泥喜さんには別の場所を伝えて、二人で行って貰おう。
なので、ここまで全部種まき。
おそらく、夕神さんはこの紅葉狩りにいく筈。
私はそれをひっそり尾行しようと思う。
だって気になるし、楽しそう。
みぬきちゃんはわかってくれると思うんだよね!
「もちろん!楽しそうです!」
難なくみぬきちゃんの許可を貰って、当日は紅葉狩りの公園に朝から張っていた。
そして、間も無くお目当ての彼らがやってくる。
『うわぁ、真っ赤ですね』
感嘆の声をあげる雨月さんは嬉しそうに夕神さんに笑いかける。
夕神さんも、照れたように頷いた。
(甘酸っぱいですね!)
(ね!)
順路に沿って歩く彼らを見ていれば、どうやら夕神さんは手を繋ぎたいらしい。
けど、恥ずかしさやタイミングからなのか、その手は右往左往と落ち着かない動きをする。
(焦れったいなぁ)
(まあまあ)
それを、気づいてか偶々なのか。
雨月さんは不意に夕神さんの手を引いて近くの木を指差した。
そのまま自然に繋がれる手。
しかも指までスルスルと絡んでいく。
『夕神さん、あの枝丸くなってますね』
「あ?…あァ、若い枝のうちに型をつけるとできるらしいな」
『へえー』
(なんと自然な…)
(天然でも計算でも怖いですねー)
手を繋げたことにホッとしたのか、夕神さんは饒舌に紅葉や盆栽の話を語っていく。
雨月さんも楽しげに聞くものだから、微笑ましいったらない。
そしてまた暫く歩いて、園内の小川にかかる橋の上で今度は立ち止まる。
私たちは日傘で顔を隠しながら少し後ろに背を向けて立った。
『はぁ…まるで紅葉の絨毯です』
「川が燃えてるみたいだな」
『本当に。綺麗ですねぇ…』
川を流れてくる、水面を覆い尽くすような紅葉に見入っているらしい。二人で川面を覗き込んでいる。
『あ、何でしたっけ…百人一首の…紅葉の錦…』
「あァ…なんだっけな。紅葉の錦 神のまにまに…」
『そうそう、神のまにまに…えっと、上の句…』
「確か、菅家の句だったな」
『よく作者覚えてましたね。寧ろ私知らなかったです。…、あ!この度は ぬさもとりあえず 手向山 です!』
「くくっ、山の神にはとりあえず葉っぱでもくれとこうって句だったな」
『なんでそう趣のない訳をするんですかぁ!』
(純和風文系カップルってああいう感じなんですかね)
(…カップルっていうのかな、あの会話)
『……でも、同じ紅葉なら在原業平の方が好きですね』
「……」
千早ふる
神代も聞かず
竜田川
からくれなゐに
水くくるとは
有名なその句を、夕神さんはゆっくりと呟いた。
雨月さんは微笑みながら頷いて、川面から視線を上げた。
『紅に染まった川の美しさが目に浮かびます』
「そうだな。業平の句は良い」
『カキツバタとか、露とか』
「あァ、想う気持ちが滲んでるよな」
正直、カキツバタも露も解らなかったけど。
凄くいい雰囲気で、横目にじっと見てしまった。
『ふふ、夕神さんがいつか、私に詠んでくれるのを楽しみにしてます』
「おいおい…」
『夕神さんてば、中々言葉にするの不得意でしょう。思ってても言えないこと、ありませんか?』
「……」
『俳句も短歌も、あんな短い言葉の中に沢山の想いを込めて詠むものです。それなら、夕神さん得意そうだと思って』
「…生憎、あんなに洒落た言葉を選ぶセンスはねェな」
二人とも、視線は紅葉のまま。
指だけを絡めて会話をしている。
『別に、飾り立てた素晴らしい歌じゃなくていいんです。自分の為に詠まれた…それだけでロマンチックじゃないですか』
「…ロマンチックねェ」
『あら。今、馬鹿にしましたね?』
「まさか。ただ、他人が読んだ歌だが…お前を想うのと同じ歌を思い出した」
『……?』
すぅ、と。
小さくも深い深呼吸が聞こえて、夕神さんの低い声が紡がれる。
君が為
惜しからざりし命さえ
永くもがなと思いけるかな
『……』
「別に未練もない筈だったんだ。命と引き換えにアイツを守れるなら安いとさえ考えたのに、お前の顔が浮かぶ度…あと少し、あと少しってのが止まらなくなってなァ。…結局諦めきれなかったんだ」
『っ…』
「…、随分話しちまった。これで勘弁してくれ」
しっとりと流れる時間に、なんだか盗み見ていたのが悪く思えてきた。
みぬきちゃんも同じなのだろう、何か訴えるように、困った顔でこちらを見上げている。
(……帰ろうか)
(そうですね)
来た道を引き返そうとした時、雨月さんが徐に口を開いた。
『夕神さんは、長生きしてくださいね』
「…」
『その句を詠んだ人は、本当に薄命でした…。折角生きてるんです、どうか、1秒でも長く私といてください』
「……あァ」
これは、邪魔してはいけなかった。
何年もかけて育んできた大人の恋を、私達みたいな小娘が覗いてはいけなかったのだ。
だから、私たちはこの続きを知らない。
ただ、休み明けの夕神さんが紅葉狩りはいいところだった、料理も美味しかった、と、楽しげに話すのが微笑ましかったくらい。
「…私も素敵な王子様に会いたい」
「そうですね…私もです」
それから、事務所で私とみぬきちゃんの理想の王子様談義に花が咲いたのは別の話。
fin