リクエスト4
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《lovely lunchbox!》
私と雨月は同じテーブルで昼食をすることが多い。
それが、執務室にしろ食堂にしろ。
『レイ君、サンドイッチ好きなの?』
「む…好きというか、紅茶に合う食べ物だと思うな。種類も多いし手軽だから、つい選びがちだ」
『そうなんだ。いつもサンドイッチだからてっきり好きなんだと思ってた』
今日、ふと振られた話題は。
手元にあるクラブハウスサンドだった。
「まあ、弁当を作る手間も技術もないしな。外で買って来るなら、和食よりもパンの方が嵩張らないしゴミも少ない」
『あー、ゴミはわかる。だから私もおにぎりとかパスタサラダだけだもん』
「…たまに、人の作った弁当が食べたくなるな」
お互い出来合いのものを持ち寄ることが多いし、用意出来なければ外へ食べにいくこともある。
なんというか、手作りの食事(弁当に限らず)など、ついぞ口にしてないな…と思った。
別に、他意はない。
なかったのだ、決して。
『……レイ君、その、お弁当…作ってみようか?』
彼女がそう口にするまで、催促にとられそうな文言だとはこれっぽっちも思ってなかった。
「…!それは、是非とも食べてみたいな」
だから、遠慮や配慮などせず、素直な言葉を発してしまったのだ。
彼女の困り顔にも気づかずに。
『じゃあ、…来週の月曜ね。あ、あんまり…じゃなくて本当に期待しないで』
その動揺が照れてるのだと思ってしまうほど、"手作り"に惑わされていた。
…、仕方ないだろ。
好きな女性…まして恋人が作る弁当。
柄にもなく舞い上がって浮かれても悪く思わないでほしい。
だから
(そういえば、雨月から料理の話題が出たことはなかったな)
(弁当も、いつも手作りではなかったし…)
一抹の不安を覚えたのは約束をした3日後。約束の日を翌日に控えた日曜だった。
…………ヒロイン視点…………
『…はあ、ダメかも』
約束を取り付けたことを酷く後悔した。
なんたって私、雨月は料理が苦手。
一人暮らししてるし、作れないことはないけど、いかんせん不器用で手際が悪い。
何かを作りながらもう一品…とか出来ないし、何から作ったら効率がいいかも解らない。
いつも、サラダと汁物とおかず一品を作るのにとても時間がかかる。
しかも不器用が祟って凝ったものはからっきし。
揚げ物をすれば火傷して、千切りをしようものなら指を切る始末。
目玉焼きすら好みの固さに焼けないのだから、他人に食べさせるものなんて作れっこないのは百も承知だったのに。
(レイ君…嬉しそうだったな)
私の大切な恋人、レイ君こと御剣伶侍は、私が作ろうかと提案したら目を輝かせた。
そもそも、なんで提案してしまったかなんて、…レイ君が好きだからとしか言い様がない。
彼は、幼い頃に親を亡くして転校していった。
そんな彼なら、彼の為に作られたお弁当なんてついぞ食べてないんじゃないか。
"人の作った弁当が食べたくなる"
そう呟いた横顔が寂しそうなのは気のせいじゃないんじゃないか。
そう思ったら、言わずにはいられなかったのだ。
『…よし。がんばろ』
買い込んだ食材と、レシピを広げてエプロンを結わえる。
そして、焦げたフライパンと崩れた玉子焼きに向きなおった。
『…あー…間に合った…』
日曜…もう月曜だが、夜更けになんとか弁当らしいものが仕上がる。
鶏の唐揚げ、肉じゃが、ほうれん草のごま和え、ウインナー。
それから、少し焦げた玉子焼き。
隙間はミニトマトとプロセスチーズに埋めてもらい、小さなタッパーにデザートのグレープフルーツ。
これを作るのに日曜を全部使ってしまった。何せ一個ずつしか作れないから、煮物なんて天敵と呼んでも過言じゃない。
でも、これは私がお母さんに作ってもらった、一番好きなお弁当だから。
どうしてもこのメニューがよかった。
…このメニューのレシピを選ぶのと材料を買うのに土曜を費やしてしまったので、実質丸2日かけたお弁当である。
『…ご飯炊かなきゃ…』
そこでまだ抜けてるのが私の手際の悪さ。
肝心のご飯…おにぎりがなかった。
(でも、おにぎりは炊きたてのご飯で作ると美味しいって…言ってた気がする)
とりあえず炊飯器をセットして、具になりそうなものを探す。
『ふりかけ…もないし、梅干しも置いてないし…海苔もないや…』
困った。
塩結びしか作れそうにない。
…………御剣視点…………
「…え、雨月が料理するって言ったの?自分から?」
「そんなに驚くことなのか?」
「…いや、まあね。ああ、味は心配しなくてもいいと思うよ。ただ、…うーん、なんていうか…」
月曜の午前中、裁判所で成歩堂と会った。
なんか嬉しそうだな、と話しかけられたので先週のことを話せば、成歩堂は首を傾げる。
小中と学校が一緒で、調理実習やキャンプなどの炊事を見る限り、得意そうではなかったと。
まして、"一人暮らしを始めても料理が上達しない"と最近溢していたらしい。
「包丁の持ち方とか、火加減とか…タイミング?危なっかしいんだよね。折り紙がお前と同レベルで折れないくらい不器用なんだし、てっきり料理は苦手だと思ってたよ」
「…無理強いしてしまっただろうか」
「馬鹿、愛されてんだよ。それでもお前に作ってやりたいって思ったんだから。…彼女が普通の料理してきたら、普通の倍以上の努力があると思えよ」
羨ましい男だな。
と、青いスーツは笑いながら帰って言った。
(…羨ましいのは、お互い様だろう)
成歩堂が知っていた、彼女の料理事情は何一つ知らなかった。
彼女からしたら、恋人に料理下手など思われたくないだろうし、言わなくて当然。
ただ、友達でもあるのだから、知って居たかったとも思う。
『…レイ君、えっと、作って…きた』
「ありがとう。大変だったろう」
『あ、ううん、そんなことないよ』
「開けていいか?」
『うん。…期待しちゃだめよ?』
お昼休みの執務室。
彼女から受け取った包をあければ、綺麗なおかずと、丸いおにぎり、果物の入ったタッパーがあった。
「…見事だな」
『味、好みだといいけど…』
いつも明るい彼女が、ずっともじもじしている。
そんなに自信無いのか、こんなに見事に作ってきたのに。
「…」
『…どう?』
「…美味しい」
おかずを一口ずつ食べて、おにぎりの包を開いた。
「…ふ、懐かしいな」
『え?』
「父は塩結びが好きで…母がよく作っていたのだ。母は三角のおにぎりが苦手で、いつも丸か俵型だった」
『…』
「…やはり、嬉しいものだな」
どれもこれも美味しくて、ゆっくり噛み締めているつもりなのに
あっという間に弁当箱は空になっていく。
グレープフルーツまで食べきって、漸く箸をおいた。
「…すまない、夢中で食べてしまった」
『い、いいよ!…その、お粗末さまです』
「粗末なものか。御馳走様」
彼女は自分のおにぎりを食べきると、恥ずかしそうに笑う。
『よかった。あんまり料理得意じゃなくて…実はちょっと心配だったんだ』
それから、胸を撫で下ろすように動いた手を見て、私は目を見張る。
「……その手は」
『あ…』
「隠すな…いや、隠さないでくれ。それが、君の努力だというのなら」
左手の指には数々の絆創膏、右手と右腕に火傷の跡。
よく見れば、目元に隈まであった。
『えっと、私、不器用で…台所に立つといつもこうなの。だから、気にしないで』
「…怪我するのを承知で作ると言ってくれたのか」
『…だって、レイ君に喜んで欲しかったんだもの』
彼女は両手を差し出しながら、困ったように、慈しむように笑う。
その差し出された両手をそっと手で包んで、指先にキスをした。
『…!』
「…愛しいとは、こういうことをいうのだろうな」
彼女のお弁当は、人の倍以上の努力によってできている。
そして、倍以上の愛に溢れているからこそ、美味しかったのだ。
紛れもなく、彼女が私の為に作ったから。
怪我をさせたことを申し訳なく思う。
でも、そうまでして作ってくれたことが嬉しい。
この矛盾が、愛しさを増長させている。
「すまない、無理をさせて。ありがとう、私の為に作ってくれて」
隈の残る目元に口を寄せれば、彼女は恥ずかしげに身を捩る。
そして、短く私の口に彼女のそれを寄せた。
『私は、レイ君の為じゃなきゃ無理なんてできないの』
「…!」
『大切な友達だけど、大切な恋人でもあるんだから、たまには無理させて。それから、うんと愛して。ね?』
(言われなくとも)
(愛さずにいられるものか)
lovely lunch box!
「…余裕のある時でいい。一品で構わない、また、作ってもらえるだろうか」
『もちろん。どれが一番美味しかった?』
「…玉子焼き」
(一番練習したやつ!)
Fin