リクエスト4
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《therefore》
僕の彼女は可愛い。
いや、自分の恋人が可愛いのは皆一緒か。
彼女はどっちかというと大人しくて、控えめで、清楚。
僕の周りって結構元気に溢れた女の子が多かったから、余計魅力的だった。
だから、それが悪いわけじゃない。寧ろいいんだ…けど。
『…成歩堂さん、隣いいですか?』
「勿論。そのお菓子も持ってきてよ、お茶にしよう?」
『はい。あ、気がつかなくてごめんなさい』
何事に置いても控え目すぎる、と思う。
偶々二人きりの事務所、謝る必要はなかったのに。
「いいよ、僕も今思い立ったんだから」
これが、ただの口癖ならいざ知らず。
いつもいつも、自信無さそうで。オドオドといってもいいくらいの態度である。
それが顕著になるのが
「雨月ちゃん、今回の裁判は君が主体でやろうか」
『…っ、は、はい…努力しま、す』
「それが落ち着いたら、泊まりでデートに行こう。最近なんだかんだで休みとれなかったから」
『は、い!』
裁判と、デート。
笑っているのに、困ったように眉尻が下がっているのは、彼女の自信の無さから来るもの。
裁判はまだわかる。
"成歩堂さんの役に立ちたいから"と、弁護士になった彼女。
人を思う気持ちは多大にあるけど、言い争うのは言うのも見るのも苦手だ。…相手が検事だとしても。
緊張したり、場違いだと思うこともあるだろう。
でも、デートは?
僕の隣に並ぶのに、自信がないとか、オドオドしてるとか、ちょっと…というか結構切ない。
だって、大したことはしてあげられてないんだ。
ご飯だって、御剣みたいに高級フレンチなんてつれてけないし。プレゼントだって、牙琉検事みたいに自作の歌とか絶体無理。
いつも、ラーメンとか、ファミレスとか、凡学生のデートと変わりない。プレゼントだって、誕生日とクリスマスにアクセサリーを買ったくらい。…残念ながら、値段は高くない。寧ろ安い。
けど、金銭的に余裕がないのはあっても、アクセサリーは彼女に似合うものを探した。今目の前にあるお菓子だって、彼女が好きそうだと思ったから買ったんだ。
愛されてない、なんて自信のなさだったら、誤解だと抱き締めたい。
まあ、それも含めて、今回のデートのお誘いだ。
依頼が立て込んだ分、収入もある。泊まりで温泉なら、彼女が喜んでくれそうなデートになるはず。
………まあ、僕が彼女と温泉デートしたい…ってのもあるけど。
『成歩堂さん、これで大丈夫ですか?筋道立ってますか?』
「うん。納得できるよ、大丈夫。僕も隣にいるから、自信もって」
裁判前、ロビーで立ち竦むように突っ立った彼女。
何度も資料を見直して、それでも不安そうに聞いてくる。
「弁護士はピンチの時こそふてぶてしく笑うんだ。心配なら、その分笑って」
『が、がんばります』
頑張って笑ったんだろう顔が、ひきつっていた。
裁判中も、ずっと、不安そうに拳を握りしめて。
言葉ひとつひとつ発するのに、多大な勇気を要している。
(なんでそんなに…)
初めてならまだ解る。
でももう何回目かだし、僕はすぐ隣にいて、助言ができる。
(僕が頼りない…とか?)
それも釈然としないけど、彼女の自信のなさは一体なんなのか。
とりあえず裁判自体を終えたところで、困ったような笑顔は変わらず。
別に、嫌いだとか直して欲しいとかじゃない。
ただ、ただ…
(君が自分を認められないのはどうして?)
遣る瀬無いだけ。
「…雨月ちゃん。君の心の中を教えてよ」
『え?』
「僕は、君の慎ましやかなところが好きだ。でも、慎ましやかだから好きになったんじゃない。どうして、いつも…そんなに怯えたようにするのかな?」
念願の温泉デート。
誰も知らない異郷の地。
手を繋ごうとしたら、まるでそれがいけないことだと思わせる程、ぎこちなく握り返された。
こっそり握った勾玉が、彼女の心に、赤い錠前を浮き上がらせる。
『は、ずかしく、て』
「誰かに見られるのが?僕と手を繋ぐのが?」
どちらも、彼女の心にかかったサイコロックを崩さなかった。
彼女自身も、首を横に振る。
『手を繋ぐのは、嬉しいんです…でも、』
私だから。
と、呟いた彼女の真意は汲み取れない。
私だから?
「…どういうこと?」
『……私は、成歩堂さんに憧れていて、そこから好きになりました。今でも、憧憬の気持ちは変わりません』
「僕の隣に立つことが、役不足で恥ずかしいってこと?」
こくっ、と頷いた彼女にいじらしさを感じた。
赤い錠前がパリンと割れる。
…まさかそんなこととは。
『成歩堂さんは物凄く格好いいんです、特に裁判中は。…だから、弁護になると"成歩堂さんみたいにできなかったらどうしよう"とか、"失敗して嫌われたらどうしよう"とか…いっぱいいっぱいで……』
「…そうだったんだ」
繋いだ手を強く握り直した。
彼女はビクッと、背筋を伸ばす。
『そんな私が…可愛くもなければ仕事も出来ない私が…成歩堂さんと恋人でいいなんて…私が恥ずかしくて』
「…っ、そこまで」
余りに予想外の答えだったのと、聞きたくなくて思わず遮った。
『っ!』
「ねえ、たとえ雨月ちゃんでも、僕の彼女を卑下するのは許さない。僕の彼女は誰がなんと言おうと世界で一番可愛いし、丁寧で慎重な仕事をする。彼女程僕のパートナーに合った人はいないんだから」
横並びに歩いていたのを、向かい合わせになって。
彼女の頬を撫でる。
『でも…』
「でも?」
『……』
泣きそうな、困ったような顔をするから。
堪らず抱き締めた。
「自信がないのは、直ぐにどうこうはできないよね。自分を認めてあげるのはもっとゆっくりでいいよ。けど、僕の言葉は信じて?僕にとって、君は最高の女の子。君の代わりはいない、代わりなんていらない」
それとも、僕の言葉は信用できない?
悪戯に笑えば、彼女は必死に首を横に振った。
『…本当に私でいいんですね?』
「何度でも言うよ。雨月がいい」
抱き締めたまま頭を撫でれば、怖ず怖ずと背中に回された彼女の腕が、強く抱き締め返した。
『…成歩堂さんに好きになってもらえてよかった…幸せ』
「僕も君を好きになれて幸せ」
名残惜しくも、抱き締めていた体を離す。それから、手を繋ぎ直した。
今度は彼女もにこやかに握り返してくれる。
「さあ、もう少し散歩したら温泉入ろう」
『はい。…え、一緒に?』
「足湯もあるみたいだし、そこならどう?」
『それなら』
ああ。可愛い。
ちょっとだけ、積極的になった彼女。
控え目で儚げな可愛さはそのままに、僕を好きだという感情を隠さないでいてくれる。
「…本当、大好きだよ」
『っっ!わ、私も、で、す!』
可愛い。
Fin