リクエスト4
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《特別と平凡の在り方》
生まれもってこのかた、常に平凡に生きてきた。
良く言えば調和してて、悪く言えばその他大勢。
学生時代も優良可で分ければ基本は良。優もいくつかあったし、可もまれにあった、そんな、どこにでもいる女。
…案外全部良なんて平均ど真ん中な人間は少なくて、偏差値50ジャストよりも、前後のが多いもの。
ちょっとできるところがあって、ちょっとできないところがある。そういう平凡さが私だった。
こうやって、公務員として検事局や裁判所の受付をしているけど、この仕事はちょっとしたミスこそあれ、大成功とかないし。
未だに平凡街道をまっしぐらに進んでいた………はずだったんだけど。
こんな私を"特別"と呼ぶ人が現れたのだ。
「この紅茶は気に入ったか?」
『うん。味はちょっとまだわかんないけど、匂いが好き』
「そうか。味は、いつものものより少し渋いな」
『うーん…言われてみれば、かな』
その人と今日はお家デート。彼の家で、彼の趣味である紅茶のプチ試飲会をしている。
で、この彼が、検事界きっての天才で。
私を"平凡"とくくるなら、彼は"特別"であり"格別"であり、"鬼才"の持ち主だった。
見た目、仕事の腕、すべてがハイスペック。だから、たまに見せる天然な部分はギャップというか、可愛さにしかならない。
本当なら、隣に並びたくないと思っていた。
日常の中にいる分には、私の"平凡"は"普通"と同義。
でも、彼の隣になった途端、"劣等"になり果てるから。
初めの告白を、この言葉をもう少しオブラートに包んで断ったものだ。
「また何か考えているな?」
『顔に出てた?』
「ああ。何か嬉しかったことでも思い出したか?そういう笑い方をしていた」
『ふふ、怜侍さんに告白され直したときのこと』
2回目は食事だけでも、と、ご飯を食べにいって。
やっぱり好きだと言われたのだ。
"貴女の平凡は、私の特別だから"と。
彼の友人は奇跡じみた弁護士で、その周りには霊媒師やマジシャンをしている女の子。親しい検事も鞭を振り回したり牢屋に入ったりしているらしい。
"私の周りは数奇な奴等しかいないのだ"
「……だから、貴女の平凡は私の安寧であり、癒しなのだ。"特別"なのだよ」
『そう、それ。……嬉しかったの、特別なんて、初めてだったから』
紅茶のカップを置いて彼を見上げれば、告白を思い出したのだろう。うっすら頬が赤い。
「…今も特別だし、これからも特別だ」
『っもう、恥ずかしい。怜侍さんだって私の特別なんだから』
「…!そ、うか」
『…?』
「いや…持て囃されることはあったが、………誰かの特別であるというのは、存外嬉しいものだな」
彼は、一層頬を染めて、照れ隠しのように口許を隠した。
照れたいのはこっちだ、といいたいところだけど、その可愛さに負けて閉口する。
『ふふ、私をいつもそういう嬉しい気分にさせてるのよ、怜侍さんは』
彼は、別に私以外からだって特別に違いないのだ。
ただ、
こういう、照れた顔だとか、穏やかな微笑を見たときは、優越を感じる。
検事の彼はいつだって忙しいから。
「…。雨月にこんな幸福感を与えられているのなら、嬉しい限りだ。君がくれる長閑かな時間は、かけがえのないものだからな」
『っ、も、もうこの話終り、心臓に悪い!』
「…そうか、では、なんの話をしようか?」
『意地悪しないでよ、…なんでもいいの、怜侍と話せれば』
「なら、もう少しつきあってくれ」
普通が如何に幸せかについて
私が平凡普通な生涯を送ってないのはわかっていた。
学業も芸術もある程度人よりできたし、今となっては地位や実力もある。それは、極限られた人間のもつもの。
しかしその中で、父親を同じ空間で殺される子どもがどのくらいいるものか。
その苦しみがあったからこその地位と実力であるが、苦しみから救ってくれたのは殆ど奇跡のような裁判をやり遂げる親友で。
しかもその苦しみの根元は尊敬していた筈の師で。
私は、諸刃の剣の上、もしくは崩れそうな数奇と奇跡の瓦礫に立っている。
それを痛感した。
だから、良く言えば人並みに、悪く言えば何も知らない彼女が安穏の象徴だった。
平凡で、平穏で、幸せな。
そんな気がするほど。
私の過ごした普通が世間では希ケースのように、私は世間の平凡を経験してない分、平凡は特別なのだ。
『………』
「さて、紅茶を淹れ直そうか。何がいい?」
『この前のハーブティー。なんだっけ、カモ…』
「カモミールか」
『それ!』
味覚でいえば、繊細な味が全部わかるわけでもない。
高級な茶葉を好むわけでもなければ、リッチな食事を要求するわけでもない。
「…次の休みはどこか食べに行こうか」
『そうだね、どこいこうか』
だから、その分。
『こ、こんなとこ来て大丈夫?私、浮いてない?』
「大丈夫。そのドレスも綺麗だ」
私が彼女に与えたい特別を、初初しく、心から喜んでくれる。
『美味しい!鴨の?』
「テリーヌだ」
『鴨って美味しいのね。実家の田んぼにいた覚えしかなかったけど』
「ふっ、なら、そちらの皿はもっと驚くだろうな」
『ん?貝?美味しいけど、食べたことない感じ…』
「エスカルゴ。食用カタツムリだ」
『!?』
平凡、普通。とは、知らないことも多い。
だから、私は
彼女に特別を与え続けたい
『ごちそうさま。楽しかったわ、怜侍さん』
「よかった。今度は違う店も行ってみような」
『それも嬉しいけど…ね、怜侍さん、忘れないで』
私自身は確かに平凡で、貴方に与えられるものは全て輝いているけれど
『怜侍さんがいればこそ、の特別なの。私にとって、怜侍さんが特別なのよ』
「……ならば私からも、忘れないでほしい」
君にこうまでしてあげたいのは、君が特別だから
「雨月が好きだからに他ならないと」
特別と平凡の在り方
Fin
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