リクエスト3
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《don't abandon me》
成歩堂なんでも事務所。
それが、私の職場。
構成員は、所長で弁護士の成歩堂さん。
その娘でマジシャンのみぬきちゃん。
ほぼ同期で弁護士の王泥喜君。
後輩で弁護士の希月さん。
そして、同じく弁護士の私で、計5人。
なんでも、というけれど、ほぼ法律事務所。ただ、探偵まがいに迷い猫をさがしたりする依頼も受けたりする。
ちなみに王泥喜君の"ほぼ同期"というのは、私と彼の弁護士歴は同じだけど、私の方が先にここの事務所にいたから。
弁護士になる前から私は入り浸っていたから、"事務所歴は雨月さんが先輩ですね"なんて、王泥喜君は笑ったのだ。
(好きだなぁ、王泥喜君の、この顔)
沢山の苦労を乗り越えてきた事務所に、新しい顔が次々とやってきて。
環境に慣れるのが苦手な私は、王泥喜様の屈託ない笑顔に何度となく救われ、何度となくときめいた。
「雨月さん、俺これから現場いきますね」
『いってらっしゃい。一人で大丈夫ですか?』
「はい、ちょっと確かめてくるだけなんで」
そして、彼は屈託のない笑顔をそのままに、弁護や推理の腕を確実にあげていた。
去年は一緒に行ってた検証を、一人で行ってしまうくらいには。
「……王泥喜君、随分成長したね」
『そうですね。希月さんがきて"先輩"と呼ばれるのもあって、とても頼もしくなりました』
「彼は、彼なりに苦難にぶつかって乗り越えて、凄いスピードで成長している。希月さんも、引けをとらない。このままなら、雨月ちゃん置いてかれちゃうかもね」
『…え?』
そんな中、成歩堂さんに声をかけられて、真意を聞く前にみぬきちゃんと希月さんが帰ってきて。
騒がしくなった事務所では聞き直すことができなかった。
(置いてかれる?王泥喜君に?傍にいられなくなる?)
だって、このままなら。
私はさっきみたいに見送って、帰ってきた彼にお帰りっていって。
それが、明日も明後日も続いて…
………彼は、成長していく。
(王泥喜君、もっと弁護が上手になったら、独立したりするかもしれない…よね。希月さんも成長したら、私、事務所にいらなくなるかもしれない)
そこまで考え至って、鳥肌がたった。
『置いてかれる…』
それが、彼の近くに居れなくなるという事実なら、そんなの、嫌だ。
確かに私は彼ほど成長してないし、希月さん程ガッツもないから。
『がんばらなくちゃ…』
何を、なんて明確なものはない。でも、何かしなくちゃ、という焦りが私を駆り立てた。
「検証終わりました」
『お疲れ様です。どうでしたか?』
「やっぱり、証言の通りにはいかないですね。見間違いなのか、嘘なのか…もう一度話を聞きに行こうかと」
『わ、私、手伝えることあります?』
「大丈夫です。一人でできますって」
『そう、ですか』
彼の傍にいるために頑張るなら、王泥喜君の手伝いをしようとしたけど、手伝いはいらないみたい。
なら、私の仕事を頑張って、ここに置いてもらうしかない。
「…雨月ちゃん、一人でその案件もつの?」
『はい。頑張ります、頑張りますから』
「…まあ、王泥喜君も一件持ってるし、僕と希月さんでも持ってるから、お願いしようか」
『はい!』
捜査も聞き取りも全部一人でやるのは初めて。
でも、これくらい頑張らなきゃ、王泥喜君に置いてかれちゃう。
(頑張る。頑張れ、私)
でも多分。
この時点で空回ってたんだと思う。
『い、異議あります!』
「なんですか?」
『その証拠品は、偽物の可能性がありますっ』
「……弁護人、この証拠品は弁護側からの提出ではありませんか?」
『え?…あれ…、あ、だから、』
裁判中に、考えてることが上手く話せなくなってしまった。
「いけませんなぁ、自分で出しておいて無かったことにしようだなんて」
亜内検事の嫌味が時折聞こえる。
こんなとこで、負けられないのに。
「この証拠品が偽物にしろ本物にしろ、やはり犯人は被告で間違いないのではありませんか?」
『ち、ちが…』
「異議あり!」
『!?』
王泥喜君が、いつの間にか弁護席に来て、異議を唱え…叫んだ。
「その証拠品が偽物である、ということが、被告の無実を証明してるんです」
そして、彼の登場で形勢は逆転し、無罪を獲得することができた。
のだけど。
(私…助けられてるだけで…ちっとも追い付けないや)
あまりの不甲斐なさに、ロビーのソファーに座り込んだまま、立てなくなってしまった。
「…どうしたんですか雨月さん」
『なにが、ですか?』
「惚けないでください、仕事詰め込みすぎです」
裁判のお礼もそこそこに、王泥喜君は私の前に屈み込んで、心配そうにそう質問してきた。
今は、その優しさすら、気まずく感じる。
私は彼の助けになれないのに、助けられてばっかりだ。
『そんなこと…ないですよ』
「じゃあ…言い方を変えますね。らしくないんです。こんな、詰めの甘い裁判は」
『っ!』
ああやっぱり、嫌われてしまっただろうな。
出来ないだらけの私は、彼の傍に居られないし、要らないだろう。
「え!?ま、まって、泣かないでください!」
『うっ、ぐすん、すみません、まだ頑張ります、頑張れますから…置いてかないでくださいっ』
「は?置いてく?」
『まだ、皆と、っ、事務所にいたいから、ひっぐ、王泥喜君の傍にいたいから…置いてかないで…』
今の私は、足手まといで、皆に置いてかれて、王泥喜君と会えなくなるビジョンしか見えていないから。
涙が滴り落ちてきてしまった。
王泥喜君は、慌てながらもそれをじっと見ていたかと思えば。
ぎゅっと、私の両手を包むように握り締めた。
「大丈夫です。雨月さんを置いていったりなんてしないですよ。俺は、ずっとここにいます」
だから、泣き止んでください。
そう笑った彼の顔は、私の大好きな、あの笑顔。
『でも…私、足手まといで…』
「雨月さんが?雨月さんは誰よりも丁寧に調査を進めています、それはスタイルであって欠点ではありません。…だから、らしくないって言ったんです。ああいう、俺や成歩堂さんみたいな、行き当たりばったりな裁判が」
『…っ、』
「というか、雨月さんの丁寧で整然とした弁護を目標にしてるのに、雨月さんを置いてけるわけないじゃないですか」
『え…?そうなんですか?』
「そうですよ。だから…まあ、結果的には隣を歩いてるんです」
この辺りでやっと、成歩堂さんが言いたかった"置いていかれる"が、物理的な距離じゃなくて技量や精神的なものだと理解した。その勘違いも王泥喜君は解った上で、置いていかないと言ってくれたんだ。
『………』
「あわわ、だから、泣かないでください…っ、ほら、手を繋いでれば置いてかれないし、はぐれないし、助け合えるんですから」
今度のは嬉し涙だったのだけど、彼があまりに必死に捲し立てるから。
思わず、くすりと笑みが溢れた。
「やっと笑った。もう、今回みたいに変に悩むのなしですよ?次からはちゃんと相談してください。どうせ成歩堂さんが言葉足らずになんか言ったんでしょうけど、雨月さんと一緒にいたいのは俺も一緒です」
『はい…あ…え?』
「一緒に、少しずつ、成長しましょう、ね?」
『…はいっ!』
(あーもう成歩堂さん!雨月さんを泣かせないでください!)
(いや、悪気はなかったっていうか…)
(ちゃんと言葉を選んでくださいね?雨月さんは繊細なんですから)
(…そんなに言うならしっかり傍にいなよ、騎士みたいにさ)
(そのつもりですっ!)
Fin
******
さて、ロビーで一通り泣いて幾分落ち着いた。
それでふと、自分の手が王泥喜君に包まれていて、その距離がとても近いことを認識する。
(~っ!?//////)
恥ずかしさで顔が熱くなった。
それを王泥喜君も感じたのか、こちらを見上げてニカッと笑うと。
片手を私の頬に添えて、真っ赤ですよ、と言う。
『だ、だって、手が…あ、あと、近いです…王泥喜君…っ』
「傍にいるって言ったじゃないですか。手も繋いでるって」
『そ、そうですけど』
「それに、もっと雨月さんと近くなりたいから」
『は…え…』
「俺に負けず劣らず鈍感ですよね、雨月さん」
あ、鈍感な自覚あるんだ、なんて一瞬頭を掠めたけれど。
意識させるように、私の手を強弱をつけて握り締める彼に、再び思考は現状に戻される。
「皆といたい、の"皆"には、俺も含まれている筈なのに、"王泥喜君と"って付け加えるじゃないですか。俺、特別なんですよね?」
『…っ』
「図星ですね、その瞬きの癖、結構前から気づいてますよ」
『お、王泥喜君』
「はっきり言いましょうか?好きです、ずっと一緒にいるために付き合ってくれませんか?」
『…は…い…うっ、ぐすん』
「あああっ、な、泣かないでくださいってば!」
ああそうだ、好きだから、一緒にいたくて、特別だったんだ。
『王泥喜君、私、泣き虫ですが…置いてかれても、絶対追い付きます。だから、こちらこそ、よろしくお願いいたします』
「はい。てか、置いていかないっていってるじゃないですか」
この笑顔が、大好き。
(王泥喜君、本当に成長しましたね)
(そうだね。君が口説かれてしまうなんて思わなかったよ)
(ふぇっ、な、な、なんでそれを?)
(なんでかな?)
(勾玉ずるいですっ!)
end
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