リクエスト3
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《上書きではなく追加入力》
『レイ君、このまえの資料まだ持ってる?』
「ああ…あれか…確かそこの棚に…」
『え、どこ?』
「一番上の段の…左から二つ目だ」
『お願い、取って。高いところ苦手なの知ってるでしょ?』
「…、少し待ちたまえ」
『ありがとう!』
レイ君、と呼ばれたのは私。御剣"怜"侍。
呼んだ彼女は羽影雨月。
小学生の時からの知り合いだ。
まあ、知り合いだなんて言えば、
『どうしてそんな言い方するの?友達って言ってよね』
と、拗ねるような可愛らしい……友達だ。
「これでよかっただろうか」
『そう、これこれ』
「返すのはいつでも構わない、最近使ってないからな。……時間がある時に来るといい、紅茶くらい淹れよう」
『ふふ、ありがと。じゃあ美味しいお茶菓子が手に入ったら返しにくる』
またね、と。執務室を出る彼女を見送った。
同級生から同僚になった彼女は、女の子から女性にもなった。
変わっていないのは、彼女が"好きな人"であることと"友達"という関係だ。
父の事件で転校が決まった時、その気持ちを恋だと呼べる程の余裕はなかった私に、
『手紙いっぱい書くから、ずっと、友達だよね、レイ君…っ』
彼女は寂しいと泣きながら住所を書いた紙とお別れの手紙をくれたのだ。
バタバタしていて、引越が全て終わってから開いたその手紙。
一緒に遊んだのがどれだけ楽しかったか、転んだ時に手を貸してくれたのがどんなに嬉しかったか。友達になれて良かった、また会いたい、私を忘れないで。
彼女の思いが、小学生らしい、飾りの少ない素直な言葉で一生懸命に綴られていて。
読み終えた瞬間、泣き出しそうになった。
成歩堂や矢張と並んで大切な友達。友達、と呼ぶには大きな想いを寄せていたことに気付かされる。
そして、その相手とは、自分の力だけでは到底会えない距離になってしまったことを理解したのだ。
自分もとても楽しかった、転んだ彼女が心配だった、友達になれて嬉しかった、また会いたい。いつか、必ず。
溢れる思いを、素直になれない自分は彼女に比べて大分簡素に綴った。
まさか、その文通が再会するまで10年も続くなんて、思いもせず。
純粋純朴なその手紙は折々にやり取りされ、お互いに法の仕事に就こうとしていることも解った。
とても会いたいけど、検事になったら会おう、と約束を交わして勉学に励む日々。
結果、私達は昨年検事局でやっと再会した。
『…!レイ君、レイ君だよね!』
「…っ、雨月…だな」
『久しぶり、やっと会えたね!』
懐かしさと、恥ずかしさと、燻っていた恋心が溢れて。微笑むのが精一杯だったのは記憶に新しい。
で、今に至るこの状況。
『レイ君、一緒にご飯食べよ!』
『レイ君、エントランスまで一緒に行こ』
『レイ君、一緒に…』
彼女はいつも私に寄ってきてくれた。
私はそれを快く受け入れる。
まあ、周りからは
「恋人、ですか?」
なんて質問を互いに受けて。
言い淀む私を置いて彼女は、
『違うよ、大切な友達。ね?』
と、微笑んだ。
その花のような笑顔に、私は頷くよりない。
彼女の中で、私はずっと小学生の"レイ君"のままなのだろう。
その距離がどんなに縮まっていようが、"友達"という枠に収まったまま。
異性として、恋愛対象に見られることはない。
そんなの、悔しすぎる。
付き合ってないと解るや否や、彼女に近寄る男に虫唾が走った。
私に言い寄る女に憐憫だとすら思った。
彼女の隣にいるのは私だけでいいし、私の隣に並ぶのは彼女がよかった。
彼女以外なぞ、眼中にないのだから。
でも、私を"友達"と言い張る雨月は不思議なことに
『ごめんね、レイ君とたべてるんだ』
と、いつも昼食の誘いを断った。そして今も、私の執務室でソファに隣同士に座り、食後の紅茶を飲んでいる。
他にも、私との用事があればそれを優先して、靡くということがない。
「…いいのか?」
『なんで?友達は大事でしょ?私の一番の友達はレイ君だもの、レイ君と仲良くできない人とは仲良くなれないよ』
「…っ、そうか」
『レイ君変なの。レイ君だって結構お誘い断ってるじゃん。いいの?』
「ああ。……雨月と居る時間の方が大切だからな」
『ふふ、やっぱ気が合うね!流石レイ君』
靡かない、といえばまあ…彼女の"友達"という概念も揺るぎないのだ。
彼女にとって友達でしかないとしても、これだけ優先されるなら、それも悪くない。
悪くはないが…そろそろ言葉にしないと、このもどかしさが溢れてしまう。
溢れたもどかしさは、きっと凶器になって、彼女を…私を傷つけるだろう。
……その前に。
「…雨月……」
『なぁに?』
「…、好きだ」
『ん?私もだよ?』
「違う、君の好きは、友達としてだろう?私は…」
『!!』
「雨月を…女性として好きなのだ。ずっと、ずっと前から」
紅茶のカップを手放し、彼女の顔の横に手を付く。
少し近づいた距離にか、言葉にか、彼女は驚いたらしく瞬きを繰り返した。
「気付いてなかったのか。私を、そういう対象として見れないなら、忘れてくれ。今までのように君と親友でいられるなら、それだけでも幸せなのだ」
『……知らなかった…。レイ君、解んないよ…私の好きと、何が違うの?』
「私は…君に触れたい。触れられたい。もっと近くにいたいし、私以外が近くにいるのは面白くない」
『……』
「嫌なら、逃げてくれ」
瞳を揺らす彼女に、ゆっくり腕を伸ばす。
腕を、肩を通り越して、背中に手を回した。
そうっと引き寄せて、緩く抱き締める。
彼女の力でも、抵抗できるように。
『…レイ君、嫌じゃないよ。それに、私の好きと似てると思う』
でも、彼女も緩やかに、私の背中に腕を回した。
とん、と、肩口に寄りかかるのが解る。
『私もね、すごくレイ君に触りたくなるときある。手を繋ぎたい、抱き締められたい…とか。急に会いたくなったり、綺麗な人と歩いてると嫌だな…って思ったりね』
「……っ」
『ね?同じだよ。…本当はちょっと気づいてた。でも、友達でいられなくなるの怖かったから黙ってた』
「…そう、か」
『うん』
「触れても、いいのか」
『うん』
「…好きだ」
『私も好き』
ぎゅうっと、どちらともなく抱き締め合った。
愛しくて、堪らない。
『ね、ずっと友達でいてくれる?』
「ああ。だが、これからは恋人にもなってほしいんだが…どうだろう?」
『えへへ、喜んで』
私達の恋は、上書きではなく追加入力である。
友達
└恋人(new!
└??(coming soon?
Fin.