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《その輪は刃を伴って》ヒロイン視点
成歩堂さんと最初に会ったのは、親友の真宵が殺人罪で捕まったとき。
慌てて留置所へ飛んでいって、成歩堂さんと出会った。
"真宵を助けて!"
人見知りで吃りな私が、つっかえながら必死に紡いだ言葉に。彼は頷いてくれた。
余裕とか力強さは感じなかったけど、弁護を誰も引き受けてくれないって聞いてたから、"弁護、僕が引き受けた"って言ってくれた時はほんとに救世主で。
前屈レベルで頭を下げたのは覚えてる。
正直肝が冷える裁判だったけど、なんとか勝利し。最後まで諦めないでいてくれた彼に尊敬と憧憬を抱いたのは必然で。
彼をもっと知りたいと、真宵に付いて事務所に何度も遊びに行った。
けど、真宵は霊媒で、成歩堂さんは勿論弁護で、依頼人を助ける姿を見て。
私も何か…と思うようになった。
そして、弁護席で戦う青いスーツを思い、司法試験に挑戦することにしたのだ。
「なんで弁護士になったの?」
『なんでって…』
その試験を突破して、ひまわりのバッジを手にすると。成歩堂さんはそんなことを尋ねた。
もうこの頃には真宵と同じくらい軽口叩ける仲になって、寧ろ修行してる彼女よりも距離は近づいている。
『…私、こんな態度ですけど、成歩堂さんのことはずっと尊敬してるし、感謝してるんですよ?』
胸を張って言える。
成歩堂さんはあの時私のヒーローだったし、今だって憧れも感謝も枯れていない。
たとえ、その胸にひまわりがなかったとしても。
「はは。君にそう言われたら、立ち止まってられないな」
そう笑った顔が、何だか久し振りで。
やっぱり彼を法廷に連れ出したいと思った。
法の暗黒時代を作った成歩堂の弟子。
私はそのレッテルを逆手に取った。
なんとでも言えばいい、私がここに立ってるのは確かに成歩堂さんのお陰。
彼の依頼人を信じる真っ直ぐな心と、諦めない意志と、絶えない笑顔。
何度となく見てきた、成歩堂さんの裁判から学んだもの。
私の成功が成歩堂さんの泥を晴らせばいい。
その想いが、青より青い、藍色のスーツだった。
……青を纏ってると心強い…というのは内緒にしている。
この頃には、憧れとか尊敬とか色々超越した、大切な人だった。
大切だけど、気兼ねのいらない…家族みたいな人。
その曖昧な距離に心地よさを感じていたから、王泥喜君が新鮮だった。
真っ直ぐな彼を、出会ったばかりの頃の成歩堂さんと比べては、似てる似てないと一人で思ううちに。
それはトキメキに変わっていて。
「…先輩が好きです!」
両想いになるとは思っていなかった。
でも、大切な人が増えるのは良いこと。
成歩堂さんとは今まで通り軽口叩けて、王泥喜君とはキラキラした時間が過ごせる。
ただ、成歩堂さんと遊びに行くことが減って、ちょっと寂しかったくらい。
それで、済むはずだったのになぁ。
王泥喜君は、私を忘れてしまったらしい。
忘れるだけならともかく、他人と間違えるなんて。
嫉妬のしようがなかった。
端から見れば、あんなに愛されていたのか。なんて、悲しすぎて一瞬冷静になれるくらい。
「…いいの?このままで」
そんな私を支えてくれるヒーローはやっぱり成歩堂さんだった。
本当は、ほんの少し気づいてた。
成歩堂さんが、私を女として大切にしてくれてること。でも、確信がなかったし、自分の気持ちも整理できなくて気付かない振りをしていた。
『いいんです…』
その罰が当たったんだろう。
私が真っ直ぐ王泥喜君を見れてなかったから、神様は真っ直ぐ王泥喜君を見ている森澄さんを選んだんだ。
涙が止まらないのは、"先輩がいい"と言った彼の嘘と、それでも本当に王泥喜君に恋していたという事実のせい。
(成歩堂さんを、もっと早く好きになればよかったなぁ)
そしたら、王泥喜君のことで悩むことも。少なくとも希月さんや森澄さんに気を遣うこともなかっただろうに。
「…やっぱり僕が、掻っ擢っとくんだったなぁ」
そんなことを巡らせていれば、成歩堂さんの手が私の手に重なって。
「今からじゃ、遅い?」
なんて狡いことを言う。
「好きだよ。ずっと前から」
『…私も、好きになりました』
でも、お互い様だ。
私も気付かない振りをしてきてしまったのだから。
やっと、収まる鞘が見つかっただけのこと。
もう、誰も気付かないように。
その刃をしまう鞘を。
Fin
…………成歩堂視点の後日譚…………
真夏の、暑い日差しの中。
別世界のようにエアコンの効いたコンビニへ足を踏み入れる。
『あ、忘れ物は大丈夫でした?』
「うん。ちゃんとあったよ」
『ところで何を忘れたんですか?携帯と財布は持ってましたよね』
「あー…うん。忘れた、っていうか、急に必要になったんだよ」
『…うん?』
「はは、答えはちゃんと教えてあげるから。そろそろ行こう」
僕らは事前調査の帰りで。事務所の施錠は王泥喜君に任せて直帰することにしていた。
それが思ったより早く終わったから、たまにはラーメンじゃなくてレストランでも行こうか…って話に。
そこで思い立った今日。
…僕が失恋した日。
『…わあ、綺麗』
「水族館に内設されてるから、早い時間じゃないと誘えなくて」
『よく知ってましたね。こんな素敵なとこ』
ちょっと小馬鹿にした感じなのに、繋いだ手に力を入れる彼女が可愛い。
ここは先も書いた通り、水族館内のレストランで、一面青の世界。
四方は大きな水槽で囲まれていて、テーブルや椅子は青に映えるカメオのような白。
「君といつか来ようって、ずっと思ってたんだ」
『ふふ、成歩堂さんに気障は似合いませんよ?…凄く嬉しいですけど』
軽口の癖に、青が反射する瞳は優しく潤んでいる。
シャンパン・ブルースで乾杯した僕らは少し見つめあった。
「…さっきの、答えを教えてあげようか」
『あ、そうでしたね。忘れ物』
「…だから、忘れたわけじゃないんだけどさ」
『……っ!』
「…君に、今日渡したいな…って思ったから。準備はもっと前からしてたけどね」
青い世界で小さな箱から覗くのは。
煌めく銀色の輪。
彼女を、僕に繋ぐ為の輪。
彼女を、刃から守る為の銀。
『…な、な…』
「受け取って欲しい。僕は、君を幸せにしたいし、君と幸せになりたい」
『~っ!』
指輪を見詰めたまま、硬直した彼女に焦りが出てくる。
そりゃ、告白してからは半年くらいだけど。片思いは何年だと思ってるんだ。なんならそろそろ10年になるぞ。
…そこは、あれ。
ピンチの時こそふてぶてしく笑う。
「…イエスなら左手を。雨月」
手を差し出して、精一杯微笑めば。
彼女は僕の手のひらに左手を重ねた。
それから、小さな声で。
『…左手だけじゃなくて、全部あげます』
と添えた。
「はは…勿論。僕も、全部君のだ」
嬉しくて嬉しくて。
震える指は中々リングを通せなかったけと。
お互いに震える手を握り合って、ゆっくりリングを嵌めるのは至福だった。
(君からも消えてしまえ)
(赤い記憶なんて)
(一片残さず)
END
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