リクエスト3
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
《縺れたものを解きましょう》
『おはようございます、御剣検事』
「おはよう。スーツを新調したようだな」
『はい。明るい色の方がいいかと思いまして』
「そうだな、その浮わついたピンクはぴったりだ。君の頭の中の色そのものだろう」
『………年中代わり映えのないヒラヒラクラバットをつけてる貴方に言われたくないです。失礼します』
さて、これが1日の始まりで交わされた挨拶である。
皮肉とも嫌味とも、まあ仲良しには見えないやりとりなのは明白として。
真相はこう続く。
「…どうして"浮わついた"っていう言葉をセレクトしちゃったかな…」
「……ム」
「あと頭の中の色ね。普通は疚しいこと考えてる人に使うでしょ、脳内ピンク色」
「…そうだな」
「で?なんて言いたかったの?」
「……淡いピンク色が似合っている、彼女の優しい心を表すような色だ、と」
「………口下手にも程があるだろ、御剣」
口下手、と言ったのは御剣の友人であり弁護士の成歩堂。
そう、あんな嫌味を言っておきながら、御剣は相手の女性に恋をしている。
彼女相手だと手先どころか口先も不器用になってしまう友人の恋愛事情に、成歩堂も頭を抱えていた。
一方変わって嫌味を言われ、嫌味で返した女性はというと。
『…このスーツ、そんなに変な色かな…』
「そんなことないわ。フェミニンで優しげな色使いなのに、凛としたスタイルをしてて雨月にピッタリよ。これが解らないなんて御剣怜侍もまだまだね」
『そう?でも"浮わついた"とか言われたし、頭の中がピンクみたいな言われ方だったの…私、男遊びしてるように見えるのかな』
「寧ろ堅そうだけど?」
『……じゃあ嫌われてる?私もクラバットをヒラヒラとか言っちゃったし』
「怜侍の口下手も問題だけど、貴女の売り言葉に買い言葉もどうにかしないとね」
雨月、というその女性は、御剣と共通の知り合いである狩魔冥に相談していた。
まあくよくよするだけあって、彼女も御剣に恋をしている。
所謂両片想いであるが、一向に結び付く気配がなく、冥もほとほと悩んでいた。
いい加減相談に乗るのが億劫になってきた二人は、なんとか相手を素直にさせようと話しかける。
なんてったって、
「『きっと嫌われてる』」
と始終聞かされるんだから、鬱陶しいったらない。
「まず嫌われてたら挨拶されないから。嫌味を言われるって解ってても話しかけてくれるってことは、少なくとも嫌われてないでしょ」
「興味がない相手のスーツになんて触れないわよ。それだけ関心があるってことじゃない」
それなりに正当な意見を言っているのに、返ってくる答えは
「だが…」『でも、』
である。
勘弁してほしい。
さて、双方勝手に悩んでいるだけならまだしも、そこは拗れるもの。
(雨月君も、成歩堂と話すときは笑うのだな)
(御剣検事、冥ちゃんと話すときは穏やかだな)
((好きな人、なんだろうか))
モヤモヤと抱えたそれの処理に困って。
かといって本人達に相談することもできず。
その鬱憤に近いものは最悪な形で発散されてしまう。
「…はあ」
『なんですか、人を見るなり溜め息ついて…』
「気にするな。それより、早く資料を」
『今やってます。もう少し待ってください』
カタカタとキーボードを叩いて次の裁判の資料を作る雨月。
後ろに立ったままの御剣が気になってスピードは落ちるし、ミスタッチは増えるし、イライラが加速する。
『…プリントアウトしたら持ってくんで離れて貰えますか?』
「一刻も早く欲しいんだが」
『気が散るんです』
「自分のタイプミスを人のせいにするな。それとも、ここにいるのが好みの男なら早く出来るのか?」
そこまできて、御剣は余計なことを言ったと気付いた。
が、雨月は振り返りもせず、キーボードを乱暴に叩いてパソコンの電源を落とした。
『…検事のパソコンにデータ送っておきました。後はプリントアウトするだけです。……そっちこそ、好みの女の子にでもやって貰ったらいいんじゃないですか?』
そして、そう言うや荷物を持って席を立つ。
「待て、仕事は」
『私の仕事はとっくに終わってるので。失礼します』
それから、駆けるように帰宅してしまったのだ。
「それは御剣が悪い」
「…」
「考えてもみろ。彼女は自分の仕事が終わってて、定時で上がれた筈なのに、お前の仕事を手伝ってくれてたんだぞ。その言い方はない」
「……なら、断れば良かっただろう」
「お得意のロジックはどこいった。なんで断らなかったと思う?」
「…」
「……はぁぁぁ。御剣、彼女はお前を手伝いたかったんだ。嫌味しか言えないお前が、"ありがとう"とか"よくできた"とか、労いや感謝の言葉を言うのを期待したんだよ」
「…何故」
「それは教えない。彼女に謝るなら協力するけど」
「…む…」
彼女が怒ったのは解ったし、言いすぎたのも解っていたが、どうして拗れたか解らない御剣は、成歩堂に説教されていた。
一方雨月は延々と冥に泣きついている。
『冥ちゃん…、ぐすっ…うぅ』
「仕様が無い男ね、怜侍も…」
『あんな風に言うなら、私じゃなくて、もっと仕事できる人に頼めばいいのに…っ。というか、御剣検事は自分でやった方が速いのに…』
「じゃあ何故、貴女に頼んだと思う?」
『…嫌味を言いたかったから?』
「うーん…半分正解、かしら。貴女と話すきっかけが欲しかったのよ。怜侍は不器用だから、そんなことでしか話しかけられなかったのね」
『……』
「貴女のように思っても当然だけどね。…、仕方ない、御膳立てしてあげる」
『え…?』
「いい?ちゃんと、自分の感情を伝えるの。言われたことに傷ついたら、悲しいっていいなさい。嬉しかったら、ありがとうって言うのよ」
冥の圧力に、雨月は頷くよりなく。
黙ってその背中を追いかけた。
「御剣怜侍、話があるんだけど」
「冥か…話中なのだが」
「狩魔検事?」
「成歩堂龍一?………そう、そういうこと。貴方も早く決着を着けたいわよね?」
「…そっちもみたいだね。同感だよ、こっちは任せて」
苦労人同士は察するものがあったのだろう。
自分の不器用な友人の少し後ろに立って、目配せをする。
「怜侍、この子スーツ新調したのよ。どう?」
「…どう………その、軽薄そうで、彼女ら…っ…しい…」
軽薄、という言葉の段階で成歩堂が御剣の踵を蹴った。
が、何か意固地になったのか最後まで言い切ってしまった御剣。
その言葉に叫び返しそうになった雨月の腕を冥が強く握る。
『っ……か、なしい。御剣検事が、私を軽いって、思ってたなんて、悲しいです』
そして、よくできたと言いたげにその腕を優しく撫でた。
成歩堂は返事を促すよう、再び御剣の踵を蹴る。
「ち、違うのだ。軽いといっても、その、浮薄という意味ではなくて…軽やか…というか…優しげな…感じが…に、似合うと」
そこまで言って成歩堂は漸く一歩下がり、冥が腕を軽く握った。
『あり、がとう…ございます。似合うって、言ってもらえて嬉しいです』
そして冥も一歩下がる。
後は、二人がどれだけ素直になれるか、だ。
「…その、先程は、、すまなかったな。残業してくれてるとも知らず…酷い言い方だった…」
『…はい。確かに傷つきました、けど。引き受けたのに、最後までやらなくて、ごめんなさい』
「いや…急ぎじゃなかったからいい。ただ、その…スーツの件でも、悪い言い方だったから…謝るきっかけが欲しかったのだ。…あの時も、淡いピンクが綺麗だと言いたかったのだが…上手くいかないものだな」
『……!そう、だったんですか…てっきり、嫌われてるのかと…私も、クラバット、お洒落だと思っているのに、馬鹿にした言い方をしてしまいました…』
「嫌ってなどいるものか。むしろ、」
『寧ろ?』
「いや……む……。好ましいな、君は」
ゆっくり、言葉を選ぶようにして歩み寄る二人に、成歩堂も冥もそうっと離れていく。
もう部屋を出れるんじゃないか、というくらいで、御剣が渾身の微笑みを湛えて、勇気を振り絞った言葉を発した。
『……っ、』
「私の方が嫌われてもおかしくなかったろう」
『な、なんでですか!嫌いな人の資料なんて、無償で引き受けるわけないでしょう?寧ろ!』
「むしろ?」
『あ…え、その、検事が好ましいから…です』
不器用は不器用なりきにがんばったようだ。
恥ずかしさを隠すように発した御剣の質問に、彼女は勢いでこそあったが、喧嘩腰にならず答える。
そして、お互いの素直じゃない、けど、本心の告白を受け取って。
顔を見合わせてはにかんだ。
『仲直り、してくれますか?』
「勿論だ。よければ、もっと仲良くしたいが…どうだろう」
『喜んで』
縺れた
言いたいことも言えない舌と
思ったことに素直になれない頭も
君と私の関係も
ゆっくりゆっくり
解きましょう
(そうしたら、私と君の心を強く固く結びましょう)
「はぁ、ここまで長かったね、狩魔検事」
「本当ね。やっとよやっと。さて、あの子達もいれて祝盃でもあげに行きましょうか。成歩堂龍一も今日は無礼講でいいわよ」
「……そりゃどうも」
Fin