リクエスト3
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《かわいいよ、可愛い》
「やあ、有罪獲得おめでとう」
『ありがとうございます、牙琉先輩』
「ひさしぶりに時間もとれたし、一緒にご飯でもいくかい?」
『行きます!』
にっこりと、控えめなのに華やかな笑顔を浮かべて付いてくるのは雨月。
学生時代からの後輩であり、可愛い恋人だ。
いつも必死に後ろを追いかけてきて、僕と同じように検事になった。
「何か食べたいものある?」
『いえ。お任せしてもいいですか?』
「OK。美味しい小料理屋を見つけたから行ってみようか」
『お願いします』
バイクの後ろに彼女を乗せて、目的の店まで走る。
しがみつく彼女の可愛さといったらない。
「ここだよ」
『綺麗なお店ですね』
「洒落てるよね。味も見合ってるんだよ」
和食だとしても、さりげないエスコートは欠かさない。まあ、身に付いたものだけど。
席に通されてから、自分のオススメ、店のオススメ、彼女の好みのもの。
適当に頼んで食事を進める。
『牙琉先輩、よく美味しいお店みつけますね』
「雨月と美味しいもの食べたいからね。そのためのリサーチは欠かせないよ」
全くその通りなのだけど、目を少し見開いて赤くなった彼女が可愛かった。
『あ、ありがとうございます』
恥ずかしそうに言葉を選ぶ彼女は、その言葉を言い切ってはにかんだ。
嗚呼、なんで彼女はこんなに可愛いんだろう。
その後も一口食べるごとに顔を綻ばせる雨月に見惚れっぱなしで、折角リサーチした筈の料理の味がよく解らなかった。
店には申し訳ないが。
『ご馳走さまでした。すみません、また払わせてしまって』
「いいよ、僕が誘ったんだし。可愛い恋人に払わせるわけにいかないだろ?」
『…///』
また赤くなった。
本当に可愛いな、本音を言うだけでこれだけ喜んでくれるんだから。
「さて、送るよ。それとも、泊まりにくるかい?」
『あ、えっと…』
「明日は僕も君もオフだっ…、…!?」
店を出て停めてあるバイクに目を向けて一瞬驚き、参ったな、と心の中で呟いた。
…………ヒロイン視点…………
ああ、またか。
先輩にばれないように、小さく溜め息をついた。
先輩のバイク、目立つから、それを目印に出待ちされることも少なくない。
そして、今日も例外でなく。
「ファンなんです!ガリューさん!」
「握手してください!」
「サインください!」
「またバンド組んでください!」
数人の女の子に囲まれてしまった彼。
ファンの子をぞんざいにする訳にもいかず、相応に笑顔で対応していく。
(解ってたんだけどな)
彼を好きになったときから、独り占めできないことは覚悟していた。
それこそ、ガリューウェーブ最盛期には二人で会うことはおろか、電話やメールもままならなかったし。
でも、バンドが解散して、少しずつ二人の時間がとれるようになってきた。
と、思えばこれだ。
普段から笑顔な彼は、営業スマイルとの差がない分余計に。
(私以外にも、ああいう顔、できるんだよね)
勿論、ファンに囲まれて嬉しくない人は少ないだろうけど。
もやもやとした気持ちは彼が微笑む度に色濃くなって。
(これは駄目だな)
ほとんど蚊帳の外である私は、バイクに近付かず、踵を返す。
『電車で自宅に帰ります、今夜はご馳走さまでした』
我ながら可愛くないメールを作り、彼へ送信する。
私がいなくなったことに気づいているだろうか?
ファンにかまけて気づいてすらいないかもしれないな。
駅へ向かう足は然程早くない。
急げば乗れる電車ではなく、間に合うものに乗れればいいから。
もしかしたら、メールを見て来てくれるんじゃないか。
なんて、期待もしてるから。
(本当、可愛くないなぁ)
先輩、牙琉先輩のことが大好きで。
好きだからこそ、彼が他意なくファンと接し、私にきを使ってくれているのが解る。
あの場で私を連れてすぐにバイクに乗ってたら、私に害が及ぶかもしれない。
だったら、適当に応えて早く帰ってもらった方が安全。
そこまで解ってるからなおのこと、自分の態度が可愛くない。
(嫉妬してるって、自覚はあるんだけどな)
本当は、聞き分けのいい後輩でいたいし、心の広い恋人でいたい。
でも。
『駅、着いちゃった…』
中身は何一つ変わってない。
彼に振り向いてほしくて仕方ない、片想いしてる時の私から。
…………響也視点…………
ファンの子に囲まれて、顔には出さないけど大分焦っている。何せ、彼女と一緒なんだから。できるだけ早く一緒に帰りたい。
でも、ここで彼女を引っ張ってバイクで逃げるわけにもいかないし、バイクを置いてくわけにもいかないし。やっぱりファンの子に早く帰ってもらうのがいいだろう。
そう思って適当に応えていけば余計に焦りは強くなる。
先程から雨月の気配がない。
どこにいった?誘拐とかじゃないよな?色々と考えていれば、携帯がメールの受信を告げる。
「…ごめん、仕事の話をしたいんだ。皆、帰ってくれる?」
受信したメロディは彼女専用のもの。ファンから距離をとって内容を見た。
(気を遣いすぎだよ)
彼女の淡々とした文面。
僕の考えを察したうえで、居たたまれなかったんだろう。可哀想なことをしてしまった。
携帯をしまい、バイクを飛ばす。駅に、彼女はまだいる筈だから。
「…間に合って良かったよ」
『牙琉先輩…』
もう一本早い電車に乗れた筈の彼女は、切符も買わずベンチに座っていた。
『…ごめんなさい、勝手に帰ってしまって』
「ううん、僕こそ、ほったらかしてごめんよ」
彼女と目線が合うように少し屈んで、髪を撫でた。
とたんに不安げに寄っていた眉間が緩んで、くすぐったそうに笑うものだから。
やっぱり可愛いくて仕方ない。
帰りも後ろに彼女を乗せて、有無を言わさず僕の家に連れ込んだ。
「…雨月、言いたいことがあるなら言ってごらん?」
『…え』
「可愛い君を、そんな悲しそうな顔にしてしまった理由、聞きたい」
ソファに並んで座り、肩を抱きながら囁く。
彼女はいつもそうだ、言いたいことがあっても、口にできない。
『可愛くないこと…いってもいいんですか?』
「いいよ。可愛くないなんてことはないと思うけどね」
『…可愛くないんです…解ってるのに、納得できない私が。先輩が、ファンの人と話すの、仕方ないって解ってるんですけど…』
「…焼き餅やいてくれたの?」
『……』
十分可愛いと思う。
『私、昔からそうなんです。先輩が…クラスの人と話したり、刑事さんと話したり…もやもやしちゃって…ちゃんと考えられなくなってしまうんです』
「…なんだ、十分可愛いじゃないか」
いや、十分なんてもんじゃないが。
『えっ…、!?』
「ねえ、聞いてくれるかい?」
『…』
彼女を、胸にしっかりと抱き寄せた。
さすがに僕でも、好きな子の顔を見ながら言えるほど気障じゃない。
「雨月、それをずっと我慢してくれてたんだね。話さないわけにいかない僕を考えてくれて、ありがとう。これからも、きっとそういう想いをさせてしまうと思うんだ。でも、我慢しなくていいし、可愛くないなんてこともない。仮に可愛くないとしても、そんなことで嫌いになったりしない。…それでね」
大人しく腕の中で聞いている彼女の髪を梳いた。
「こうしてると、少しモヤモヤした気持ち、減るだろう?」
『…はい』
「だから、こうやって僕の時間をあげる。勿論、僕だって君が他の人と話すの見れば嫉妬ぐらいするから、君の時間も貰うけど」
『先輩も、嫉妬するんですか…』
「まあね。僕が"牙琉"先輩で、ダイアンが"大庵さん"って呼ばれてるのは妬けたかな」
驚いたような彼女を抱き竦めて、静かに笑った。
「僕達は恋人だろ?先輩と後輩でも確かにあるけど、対等なんだよ。さっきみたいに駆け引きしなくても、"駅で待ってるから迎えにきて"って、言っていいんだ」
『!!』
「迎えにきて欲しかったんでしょ?僕だって一緒に帰りたかったし。ね?」
抱擁を緩めて顔を覗き込めば、彼女は真っ赤になって頷いた。
『我が儘いってもいいですか?』
「ん?」
『響也さん、って呼びたいです』
「………駄目」
『え』
「響也、がいい。それ以外は認められないな、雨月?」
『………。きょう…や』
「なに?」
『ありがとう、大好きです』
「僕も、大好きだよ」
嗚呼、可愛い。
(可愛くない、です)
(可愛いよ)
(可愛くないです)
(可愛くないところも可愛い)
(…響也だってカッコいいよ)
(!?ちょ、もう一回)
(もう言わないです)
Fin