リクエスト3
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《言いたかったことが》
雨月がカグヤに弟子入りして早半年。飲み込みのよさとセンスのよさで、弟子というよりは片腕になりつつある。
「いい素材を拾ったの」
そう言いつつも、お気に入りであるのは誰の目から見ても明らかだった。
『きゃっ』
「どうしたの?」
『あ…カグヤさん。窓から鷹が…怪我してて…』
「あら。それ弟に懐いてる鷹よ。ギンだったかしら…」
『羽が…それに脚も。カグヤさん、この子の手当てしてもいいですか?』
「駄目っていってもやるでしょ。噛まれないようにね」
雨月は優しい、その優しさは動物にも伝わるのだろう。
カグヤが近寄ることも許さないギンが、大人しく手当てされてる。
『できた。鷹匠じゃないし、動物病院にはつれてけないかな…まだ暫く大人しくしててね』
「ピーー」
この関わりですっかり雨月に懐いたギン。
『あと、カグヤさんって弟さんいたんですね』
「まあね。今日はラボに寄るっていってたから紹介するわ」
『はい、是非』
夕方になってラボに現れた迅は、ギンの手当てをしたという姉の弟子を紹介された。
「そうか。ギンが世話になったな、ありがとう雨月」
『どういたしまして』
お互いに はにかんで微笑みあう二人をみて、カグヤは直感する。
(この二人、気が合いそうね)
試しに用もなく部屋を出て、適当な時間で戻れば。
打ち解けたのか、談笑する二人がいた。
そこからは速い。あれよあれよと二人の仲は深まっていく。
ギンが話の種だったり、真理の娘と遊んだり、さながら夫婦のような距離でもあった。
が
(じれったい)
恋人というカテゴリーではないらしい。
カグヤは二人が両想いなのを知っていて、応援しているものの。あまりの進展のなさに苛立つこともしばしば。
そんな矢先だ。
真理が殺されたのは。
ラボには負のオーラが渦巻いていた。
カグヤからは、真里を殺された怒り、心音を庇っているであろう弟の逮捕というやるせなさ。
雨月からは、師匠の友人が亡くなったというショックと師匠の痛みを思っての憂い。そして、淡い恋心を抱いていた人物のありえない逮捕という哀しみ。
それが全部、行き場をなくして漂っているのだ。
「…っ、あの子、真里に愛されて迅に可愛がられて…なのに、なんでよ!」
しかし、カグヤの気持ちの矛先は、心音への憎しみと警察への不信へと向きはじめていた。
雨月の方は、
『迅さん…人生全部をかけて、あの子を守るつもりなんですね…』
優しい迅らしさにどこか納得してしまった故に、色々な気持ちを諦めようとしていた。
「冗談じゃないわ。どんな理由にせよ迅が真里を殺すはずない」
その気持ちに歯止めをかけたのがカグヤだ。
「私達が諦めてどうすんのよ。私達が信じなくてどうするのよ!」
『…勿論、無罪なのは信じてますよ』
無罪なのは解ってる。
でも、命を天秤にかける覚悟をした人に申し立てる勇気はない。
『ギン…届けてくれるよね?』
ならせめて、想う人がいると知ってほしい。
『迅さんへ
貴方が犯罪者で無いことを事実と信じています。
だから、貴方とまた会えることも信じています。
どうか、お体に気をつけて。
雨月より』
短いその手紙はギンの脚に結ばれ、牢屋の格子戸まで運ばれた。
「なんだァ、ギン?脚に妙なもん…、っ!」
その手紙を見て、脳裏を過る想いは少なくない。
心音を助けるために選んだ道は、心音以外の多くを苦しめる判断だった。
姉のカグヤは勿論、雨月にも。
薄々気づいていたのだ、彼女が自分に好意を寄せていると。自分も彼女に惹かれていると。
「また、会えたらいいなァ」
彼女はどれだけ待っていてくれるだろう。
真犯人、亡霊が解るまで何年という月日がかかるにちがいない。もしかしたら、間に合わないかもしれない。
間に合わないなら、これは墓場までもっていかなければならない事だ。
「ギン、届けてくれ」
独房に筆記具はない。
この手紙を残すわけにもいかない。
「迅」と「犯罪者」の文字を破り捨て、同じようにくくり直す。
『…信じていいってことだよね』
受け取った手紙に目を潤ませながらカグヤにも見せる。
「当然でしょ。あいつが犯人なわけないもの」
そういいながらも破顔する彼女は、彼女なりに不安だったのだろう。
『もう、7年ですね』
手紙を綴りだして、続きに困った。
返ってくるのは、名前だけが破られた返事のようで返事ではない何か。
どれだけ待っていても、どれだけ信じていても。
自分にできることはない、それを突き付けられるようで、どんどん疲弊していた。
迅さんだって、この手紙を読んだからどう、ということはもうないんじゃないか。
ぐるぐると脳裏を駆ける想いは、余計にペンを重くしていた。
「書けた?ギンが待ちくたびれてるわよ」
『あ、そうですね。ギン、お願い』
「もういいの?」
『はい』
冒頭の文と名前だけ書いたそれ。
もう、思い付かない。
麻痺する程に綴った"信じてる"は、"会いたい"と同義に成り果てていた。
無罪なのは解ってる
あの子を守るためなのも解ってる
ねぇ、会いたい
貴方に好きだと告げるチャンスが欲しい
会いたい
そんな資格も勇気もないけど
また、貴方と笑いあう時間が欲しい
『…っ』
「……そう」
手紙を見たカグヤさんがギンに手紙を預ける。
戻ってきたギンの脚には、いつもの手紙がなかった。
『あれ…無いの?』
ギンも首を傾げており、どうやらないものらしい。
(返事のしようがないから、だよね?)
不思議に思いながらも、"ありがとう"とギンを撫でた。
その日、葵くんが殺される事件がおきた。
唖然とするばかりの私を置いて、調査や裁判はどんどん進んで行った。
そして、カグヤさんも行動に移る。
『…どうして…カグヤさん』
「このくらいしないと、裁判はやり直されない。雨月には悪いけど、貴女を人質にとれば迅だって動かざるを得ないわ」
研究所に閉じ込められた数人の一般客と、弁護士さんの娘、それから私。
殺すつもりはきっとないだろうけど、カグヤさんの目は本気だ。
そしてスピーカーに向かって話し出す。
「要求は裁判のやり直し、被疑者はお姫様よ。さもなくば人質の命は保証しないっ」
話している途中で女の子が割り込んで何か叫んでいた。それを見て私もそこへ混ざる。
「ちょ、雨月っ!」
『私にも話させて!お願いっ、これ以上誰にも罪を重ねさせないで!たすけて!』
たすけて。
もう、信じて待つのも苦しいの
怒りに震えるカグヤさんを見るのが辛いの
恋心に蓋をすることができないの
心音ちゃんを許せなくなりそうなの
お願い、たすけて
「…!ギン…」
『あ…手紙』
裁判が進んでいく中、ギンが窓から入ってくる。
脚に括られた紙切れを震える手で開いた。
『…っ、』
「雨月?」
『カグヤさん、私、裁判所に行きます』
「そうね…貴女は行くべきね」
一緒に文を読んだカグヤは雨月の背を押して、小さく微笑んだ。
「迅を、よろしくね」
『はい』
綴られた文字は急いで書かれたものなんだろう、彼らしくなく斜めに走っていたけれど。
「会いたい」
その筆圧は切実さを訴えていた。
雨月は息を切らして法廷に駆け込んだ。
振り返った長身の男は、目の隈や髪型こそ違うけれど。
『迅さんっ!』
「…雨月」
彼だと解るのに時間はいらなかった。
迅も、その声が振り返るまでもなく彼女のものだと気づいた。
そして、振り返って"あァやっぱり"と喜びを感じたのだ。
最期に一目会いたい
純粋にそう思っていたはずなのに、いざその姿をみれば、彼女と笑みを交わした幸せが込み上げてくる。
時間がほしい。
彼女と話す時間が。
ただ隣ではにかむ彼女を見る時間が。
雨月と過ごす未来が。
墓場までもっていくつもりだった事実を打ち明け、逆転を繰り返した裁判は。
真犯人を捕まえるというハッピーエンドに収まった。
「…待たせたな」
『はい、とっても待ちました』
「…手紙、読んでた」
『最後の手紙、嬉かったですよ』
「…来てくれたな」
『私も…とっても、会いたかったから』
何から話そう
なんて言おう
込み上げてくるものが多すぎて、どちらも言葉にならない
「言いたいことは沢山あるが…手紙ありがとう、ずっとあれに支えられてた。最後まで生きようと思えた。それに…」
言葉を切った彼は、7年前の面影をみせて、不器用にはにかんだ。
「好きだ、これからも傍にいてほしい」
『…是非っ、お願いします』
後半は涙声でかすれてしまったけれど、しっかり届いたらしい。
"よかった"
そう聞こえて、自由になった彼の腕に抱き締められていた。
これから紡ぐ
二人の物語も
きっときっと
ハッピーエンド
Fin.
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