リクエスト2
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
《唄うカナリア》
※唄を忘れたカナリアの続き
『迅さん、迅さん』
雨月は楽しそうに俺を呼ぶ。
7年近く声を失っていた彼女が声を発するようになったのは最近で。
今まで表せなかったものを全て取り返すかのように、言葉を休めることを知らない。
「どうした」
『このアイス美味しいですね!前に来たときはこの味なかったんです、その時は確か限定だったマンゴーだかを食べて…あ、それも美味しかったです!けど、今食べてるやつの方が…』
この調子で捲し立てる。
別に悪くはない、こいつの声がまた聞けるなんて、幸せなことなんだから。
「くく、そんなせっついて話さなくてもいいぜ?顔にでてらァ」
『うぇ!?』
ただ、言葉以外で表現することに慣れているせいか、表情や仕草で一目瞭然なことも多々。
とくに感情なんてものはひしひしと伝わってくる。
『だって…嬉しいんですもん』
「…」
声に出して伝えられることが。
貴方がここにいることが。
拗ねたような表情のくせに、凛とした声で紡ぐものだから。
「~っ、解った、解ったから」
何かこう、煽られた気分になってしまう。
『迅さん、赤くなってますよ?大丈夫ですか?』
「見んな」
『えー』
わかっていてからかうように笑う姿さえ愛しいけれど。
ちょっとばかり居た堪れなくて視線を反らした。
それでも響いてくる鈴のような笑い声に安堵を覚えるのだから、惚れたことに間違いはないんだろう。
『…迅さん、私、本当に嬉しいよ』
「…」
『自分の声が貴方の名前を紡ぐ度に、貴方がもっと愛しくなる』
「…」
『迅さん。』
はにかむ彼女に、惚れたとかそんな言葉じゃ足りないとすぐに気づかされた。
「…敵わねェ、敵わねェなァ…」
『迅さん?』
「雨月、…雨月」
『…っ』
「そうだな。呼べば呼ぶほど欲しくならァ」
クハッ
と、照れ隠しに吐いた息は一層彼女の顔を赤くした。
『…私、迅さんが大好きです』
「奇遇だな。俺もだ」
口角を吊り上げたその笑みですら、彼女を喜ばすには十分で。
歌を忘れたカナリアは
愛しい人の隣で唄い続ける
(貴方がいて幸せ)
(貴方を呼べて幸せ)
『迅さん、せっかく声が出るようになったから、劇とか合唱とか、色々やりたいことがあるの!』
「…そうだなァ」
(その声を独り占めしていたいと思うのは)
(我が儘かねェ……)
Fin