リクエスト2
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《唄を忘れたカナリア》※かぐや視点
「ねえ迅、いつまであの子を苦しめるつもり?」
「…」
「このままじゃあの子、もっと酷くなるわよ」
「……いつまでもガキじゃねェ。立ち直るだろ」
「どうかしらね。きっとあの子の時間は、あの日から止まったままよ」
「雨月、どう?はかどってる?」
『――』
「そう、じゃあ続きもお願い」
真理がラボに弟子として連れてきた少女。
今ではすっかり成人していて、穏やかに笑っているように見える。
けど。
『――、―』
「何、わかんないトコでもある?」
『―…』
「あー、ほっとけば直るわよ。少し休憩にしましょ。ケーキ買ってきたし」
『―!』
彼女は声を失っている。
あの日からずっと。
「美味しい?」
『―!』
「そう、よかった」
嬉しそうに頷く彼女から声を奪ったのは、"迅の死刑判決"という心的外傷、ストレスだった。
有罪が決まった段階で既に過呼吸を起こしているくらいだったから、余程ショックだったんだろう。
…ショックだったのは、私も例外じゃないけれど。
「え、何」
『―、―』
「ありがと」
"ひとくちどうぞ"と、ケーキを差し出した雨月。
とにかく、この子は優しい。
迅と惹かれ合うだけはある。あいつも真面目で優しい奴だから。
「ほら、お返しに私のも一口あげるわ」
『―♪』
「そうね。次は違う種類も買ってくるわ」
『―!』
ただ、まだ高校に通っているような小娘にはショックが大きすぎたらしく。
7年経とうとする今も声が戻らない。
まして、死刑の日が迫っていると彼女が知ったら。
発狂しかねない。
(こういうことは)
(真理、迅…)
(アンタ達の分野でしょ)
「さて、お茶飲んだらもう一仕事するわよ。少し急ぎの仕事だから」
『―、――』
きっと、これが成功しても彼女はショックを受けるだろう。
けど、何もしないよりはいい結果になるに違いない。
(真理の忘れ形見みたいなもんだからね、アンタは)
『―?』
「なんでもないわ」
このまま見す見す、壊させてたまるもんですか。
「今日は、この子も連れてきたわ」
「…久しぶりだな、雨月」
『――』
へこり、と頭を下げてはにかんだ。
きかなくても解るほど、迅に惚れてるのがよく見える。
それほど赤くなって、普段見せないような笑い方をした。
「迅…いい加減にしなさいよ。アンタだけの命じゃないんだから」
「……」
『ー…』
迅さん。
雨月がそう口を動かす。
迅は解ったのか解らないのか、沈黙を紡ぐ。
「…雨月、先に行ってて。すぐに行くから」
『ーーー…ー』
そして、名残り惜しそうな雨月を外に出す。
もっと話していたかったろうけど、こればかりは聞かれる訳にはいかない。
「…さて、迅。明日なんでしょ?」
「…」
「ふざけんじゃないわよ!それを知ってあの子、どんどん食欲がなくなってくのよ!アンタ心理学やってんでしょ、わかんないの?あの子がどれだけ震えながらさっきまで此処に立っていたのか!!」
「……」
「…いいわ、私にも考えがある」
(馬鹿がつくくらい真面目で優しい弟に)
(真理が残した優秀で可愛い弟子)
(大切なものをこれ以上失うなんて)
(冗談じゃない)
やっぱり、お姫様が一番大事なのか。
自分の為に声を失った兄弟弟子よりも。
師匠の娘の方が。
「…姉貴、雨月のこと、頼まァ……」
「…………馬鹿じゃないの。惚れた女くらい自分で守ってみせなさい」
それなのに、この弟ときたら。
雨月に惚れ込んでる。我が弟ながら、本当に何をやってるんだか。
…………ヒロイン視点…………
「…姉貴の実行力には度肝を抜かれるぜ」
「どっかの愚弟がヘタレなせいでね」
「どういう意味だ」
「そのまんまよ、このアホ」
この姉弟は、こんな口のききかたしかしないけど。
とても仲が良い。
せっかく迅さんが無罪になったのに、今度はかぐやさんが……
『……』
「雨月、この馬鹿頼んだわよ」
『――』
「心配しないで、私は覚悟があったし。あの弁護士ならなんとかしてくれるわよ」
頭をくしゃりと撫でて、かぐやさんはロビーを去った。
「…悪かったな、雨月お前の声が出なくなったのは、俺のせいだ。きっちり面倒みてやる」
『―!』
「このままじゃ教授にも姉貴にも、顔見せらんねェからな」
『―』
そんな口ぶりなのに、私の頭を撫でる手はかぐやさんより優しくて。
『―、――』
(私、決めてるんです)
「雨月?」
『――――、―――』
(もし声が出るようになったら、一番に言う言葉)
「…」
『―――、――――――』
(貴方の名前を呼んで、無罪おめでとうって)
「…そうかィ」
優しい笑い方は、7年前と変わっていなかった。
髪が伸びたり、隈ができたりしてるけど。
私が大好きな迅さんだ。
「…楽しみに待ってるぜ。お前の声が出るようになったら、俺も言いたいことがある」
『――?』
「そん時まで秘密だ」
意地悪そうな笑みを浮かべて、頭に置かれていた手が髪を少し乱暴に撫でた。
なんだか新鮮。
そんな気もしながら、了解の意で頷いた。
「………ただいま、雨月」
けど、その言葉で私の中の何かが緩んだ気がした。
『―ん、さん』
目を見開いた彼が、泣きながら拙い声を絞る私を抱きしめるまで、
あと10秒。
そして
「…ずっと好きだった」
そう告白するまであと1分。
Fin.