リクエスト2
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
《黄バラの杞憂》
私の恋人は検事をしている。
今日は食事の約束をしていて、彼の裁判が終わるのをロビーで待っていた。
そして、法廷から出てきた彼に私が声をかけるより先に
「あっ!夕神さん!」
と、明るい女の子の声がして。
「あれ?雨月?」
と、懐かしい声がした。
「…心音か。雨月、泥の字と知り合いなのか?」
『ドロノジ?はい、法介は小学生からの知り合いなんです。えっと、ココネさん?は?』
「希月心音です!弁護士してます!」
「ほら、前に話した教授の…」
『ああ、娘さん』
銘々に自己紹介や関係の説明を終えて、時間もあることで雑談に流れていった。
「でも意外だな、雨月が法廷係官してるなんて。てっきり実家の菓子屋継ぐんだと思ってた」
『あー…なんか兄貴が継ぐって言い出してお嫁さんも連れてきたの』
「え、あの一流大学いった兄さん?」
『そうそう、だからやりたいこと考えるなら、他人の人生が垣間見れるここがいいかなって』
「…お前ってたまに計算高かったよな」
「意外っていえば、夕神さんもですよ。雨月さんとどんな繋がりが?」
「係官だからな、裁判してりゃ見かける」
「いやいや、見かけたから好きになったってわけじゃないですよね?」
「……」
「まさか、一目惚れですか」
「…」
「意外ですね」
からかうような希月さんの問い掛けに、ふい、と横を向く夕神さん。
希月さんの言っている事は当たりで、私達は付き合ってどころか、出会ってからもまだ日が浅い。
「別にいいだろ」
「駄目とは言ってないじゃないですか。ただ、あの真面目すぎる夕神さんが一目惚れとか…」
「笑うな」
そんなこともあってか思い思いに昔話に花が咲いて。
隣の夕神さんは希月さんと研究所での思い出話に浸っている。
私は私で法介とあの人はどうしてるとか、あの先生はどうなったとか話していたけど、どうしても隣の会話が気になった。
聞こえて来るのは、夕神さんのお姉さんと希月さんのお母さんの話。
果ては夕神さんは和菓子が好きだとか、剣術ができるとか。
とにかく私の知らないことが沢山飛び交っていた。
『…私、飲み物買ってきます。夕神さん、お茶でいいですか?』
「ああ、悪ィな」
「あ、じゃあ俺も」
「先輩!コーラお願いします!」
「はいはい…」
なんとなく胸がザワザワして、席を外す口実に飲み物を使った。
ザワザワしてる理由なんて、流石にわかっているけれど。
「雨月、何か気に障ることした?」
『え、なんで?』
「なんか…まあ、雰囲気違うから、かな」
『法介のせいじゃないよ』
自販機に小銭を入れて緑茶のボタンを押す。
ガコン、という音と共に缶が出てきた。
「…ユガミ検事と希月さん?」
『まあ…ね』
「仲いいもんな」
『本当にね…あんなに夕神さんのこと知ってるんだもの』
「気になるなら聞けばいいし、知らないことはこれから知ればいいだろ」
ほら、
と、差し出されたのはレモンティーで。
『…ありがと』
「お前いつもそれ飲んでたよな」
二つの意味で発した4文字は片方の意味でしかとられなかったみたいだ。
法介は小銭を足してコーラのボタンを押す。
『法介はいつもオレンジジュースだったよね』
ガコン、と鈍い音を立てて落ちた缶ジュースを差し出した。
「ありがと!よく覚えてたな」
『蜜柑の食べすぎで手を黄色くするような人だからね、覚えるよ』
「あったなー、そんなこと」
笑いながら缶を二つずつもってロビーに戻ると、希月さんがバックを持って立っていた。
「先輩、成歩堂さんから連絡があってすぐに帰ってきてほしいんですって」
「…またあの人、勝手だな…わかったよ、急ごう」
「ってわけで夕神さん、雨月さん、食事楽しんできて下さいね♪」
「またな、雨月。ユガミ検事も」
にこやかに立ち去っていく二人を軽く手を振って見送った。
なんだかんだ、法介も楽しくやってるみたい。
「…いくか」
『はい、』
………夕神視点………
「…」
まさか雨月と泥の字が知り合いだとは思わなかった。
弾んでいく思い出話がつい気になって、ココネの話を聞きながらもついそちらに耳がいってしまう。
「中学ん時一緒だったハーフいただろ、セレブ高校行った」
『ああ、イギリスの男の子』
「あいつ国に帰って日本語教師してるんだって」
『あー、似合いそう。教えるの上手だし優しかったもの』
「………モテたしな」
『ぷっ、あの子と張り合うのは無理だよ法介』
昔のクラスメイトの話。
学校の先生、お互いの進路…様々な話題が飛び交っていた。
「雨月前から猫飼いたがってたろ、近所の猫が子供産みそうなんだけど、交渉してみようか?」
『えっ、いいなぁ…でも今のアパート、ペット駄目なんだよ』
「そうか…」
初めて知った。
雨月が猫好きなんて。
他にも好きな食べ物だの、得意だった教科だの。
知らない話ばかりだった。
そして
『…私、飲み物買ってきます』
と、泥の字と席を立った。
「……夕神さん、何をそんなにイライラしてるんですか?」
「…別に」
「本当に?」
「………………………」
「王泥喜先輩は鈍感ですし、ああいう人なので気にしない方がいいですよ?」
「何も言ってねェだろ」
「顔に書いてあります」
楽しそうに笑ったココネ。俺が気づかなくたってこいつは解る。
「邪魔ものは帰るんで、ゆっくり昔話でもしたらどうですか?」
その笑顔を崩さないまま、戻ってきた雨月と泥の字に声をかけた。
それも大嘘の。
「先輩、成歩堂さんから連絡があってすぐに帰ってきてほしいんですって」
「…またあの人、勝手だな…わかったよ、急ごう」
「ってわけで夕神さん、雨月さん、食事楽しんできて下さいね♪」
「またな、雨月。ユガミ検事も」
にこやかに立ち去っていく二人を軽く手を振って見送った。
残ったのはレモンティーと緑茶の缶を持った雨月と俺。
「…いくか」
『はい、』
………ヒロイン視点………
「…泥の字とは長い付き合いなのか」
『はい。小中は一緒でした。高校は違いますが家が近くて…最近はぱったりでしたが』
「そうかィ」
『夕神さんも、希月さんとは…』
「長かねェが…、師匠のこともあって気にかけてはいたな」
予定していた和食屋さんに着いて。
卓上の一輪挿しが黄色いバラとか、和風に合わないなぁ。なんて思いながら、ぽつりぽつりと、先程気になったことを質問する。
知らないことが多すぎて聞きたいことも沢山あるけれど…
『……………』
「……………」
もやもやとした感情が邪魔をする。
希月さんが知っていて、私が知らない彼のこと。
何から聞いたら、なんて切り出したら……
そんなことを逡巡していたとき。
「…今日、泥の字と話すお前さんを見て…少しイラついた」
『えっ』
「雨月にじゃねェ、お前さんのことを何も知らない俺自身にだ」
『夕神さん……』
口火を切った彼。
ああ、同じことを悩んでいたなんて。
「嫉妬とか、浅ましいな…嫌うか?俺を」
『…夕神さんと希月さんが話すのを見ていて、私もモヤモヤしたんです。…私のこと、嫌いになりますか?』
思い切ってそれを伝えれば、目を見開いて彼の行動は止まった。
そして、照れ臭そうに小さくはにかんで
「まず、ねェな」
と、言った。
『私もです』
それを見て、私も小さな声で返事をする。
「……なら是非、聞かせてくんなァ。雨月の昔話」
『勿論、夕神さんのも聞かせ下さいね』
「当然」
それから沢山、色々なことを話した。家族の事や今までの人付き合い、それからくだらないことまでとにかく沢山。
『どうしよう』
「あ?」
『夕神さんのことを知れば知る程好きになります』
「…そいつァ俺も一緒だ。だが、」
これからもっと知っていくんだ
今以上、もっともっと
好きになるだろうな
「これからの雨月を誰よりも知るのは俺だし、これからの俺を一番知るのは雨月、お前さんだ」
『夕神さん…………』
「だから、」
いつも傍にいて欲しい
『…っ、是非』
なんで、なんでこんなにストレートなのか。
嬉しくて恥ずかしくて真っ赤になりながら頷いた。
言い終えた彼も相当恥ずかしかったようで、私にまけず赤くなっていた。
(卓上の黄バラの花弁が)
(音もなく散った)
(黄バラの花言葉は)
("嫉妬")
fin