リクエスト2
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《いくら不死身な君といえ》
※逆裁4‐逆転連鎖の街角 が舞台
『まったく…どんな鍛え方をしてるんだ、その体』
「いや?別に何も?」
『……いいか、龍一。別に何もしてない三十路は…車に撥ねられて捻挫だけで済むなんてことないんだ』
「へぇ。僕って運がいいのかな」
車に撥ねられて、電柱に頭をぶつけた。
と、徒歩で来院してきたこの男。
成歩堂龍一は以前、救急で運ばれてきたことがあった。
『……前回を踏まえると、運だけで片付けるのは無理があるだろ。あれは天の采配の域を超えている』
その時は確か、燃えた吊橋を渡ろうとして、案の定下の川に落下。
雪の積もるような山の上流を流されたのにも関わらず、下した診断は"風邪。それもとびきり悪性の"たったそれだけだった。
「じゃあ何、僕神様なわけ?」
『むしろアンデットだろう。不死身なんじゃないか?』
「まさか」
『まあ、不老ってわけではなさそうだな』
軽い冗談を交えた問診は終わり、カルテには"足首の捻挫"と記される。
「あれ?本当にそれだけ?」
『ああ。CTもレントゲンも異常は見受けられない。正直、私もびっくりだ』
10年近く医者をしているし、医大生だった頃を含めればもっと医療に携わっている。
けど、これだけの災難に見舞われてこれ程軽傷な輩をみたことがない。
些か不安にかられるくらいだ。
「ええー、入院すれば雨月と毎日会えると思ったのに」
『龍一、お前こりないな』
「そのくらい好きだってことだよ」
『よし、カルテに妄言・せん妄ありと足そう』
「うわ、ひどい」
言葉とは裏腹な屈託ない笑顔は、昔から変わってない。
ここ最近は擦れた発言が多いけれど、色々くぐり抜けて来た結果だろう。
私はその"色々"を、近からず遠からず見守ってきた。
生死をさ迷っていいはずの災難をくぐり抜けて来た人間だから。
きっとこのくらいのことは跳ね退けられる。
そう思って。
『…心配なら検査入院の処置はとれるぞ。無論、金はかかるが』
「いいよ、それでも」
『まあ、入院したからといって私が病室に行くことは殆どないし、明後日は非番だがな』
「じゃあ検査は今日明日のみでよろしく」
『…即刻事務所へ帰れ』
「あー、頭が痛い気がするー」
『見事な棒読みだな』
実際へこんだりなんだりしたものの、私達の間柄というのはこんなものなのかもしれない。
いつの間にかコントのような、ふざけた会話になってしまう。
「あ!センセイ!」
『やぁ、みぬきちゃん。そちらは?』
「成歩堂事務所の新入りで、特技はベンゴの…」
「王泥喜法介です!弁護士してます!」
『そう、私は雨月。成歩堂の主治医だ』
翌日、何やかんやで入院した彼の病室へ回診に行けば、何やら賑やかな様子だった。
娘のみぬきちゃんに、新入り君。
龍一はと言えば食えない笑顔で眺めている。
「それで…パパの容態は…」
『ああ、残念だが…』
「えっ、えっ、」
『至ってなんの問題もない。足の捻挫も湿布貼っときゃ治る』
けらけらと笑う成歩堂親子に、げんなりと表情を曇らす新入り君。この子は苦労しそうだ。
「…捻挫、だけですか」
『ああ、車に撥ねられて数メートル飛んだうえに、電柱に頭をぶつけて、捻挫だけだ』
「…成歩堂さん、あなた人間ですか」
『ほらな。やっぱアンデットかなんかなんだよ。まあ、念には念をいれて2日間の検査入院をしてもらうが』
予想通り、新入り君は呆れた反応。一方で、パパをよろしくお願いしますね、なんてみぬきちゃんは笑っている。
よく出来た娘だ。
『お前の事務所は賑やかだな』
「そっちの病院も賑やかじゃない?」
『あのジイさんは賑やかなわけじゃない』
翌日の回診の時、そんな話をした。
「まあ、確かに僕の事務所は楽しいよ。可愛い娘に元気な後輩。ちょっとうるさいけど」
『まんざらでもないくせに、よく言う』
「あはは。…君も事務所に入ってくれれば尚更楽しいかな」
『ほう、流石はなんでも事務所だ。だが龍一。お前、私の技量に見合う給料を払えるんだろうな』
「…今回は聞かなかったことにしてくれる?」
『いいだろう。何にせよ、元気そうだな。今日の夕方にでも退院しろ』
検査入院という名目もあって、一応MRIなんかも使ったんだが…本当に何の異常もなかったこの男。
とっとと退院してベッドを空けてもらうのが良策と判断した。
「明日非番なんだよね?」
『…ああ。やっとぐっすり寝れるんだ、邪魔してくれるなよ』
「僕の家にこない?」
『人の話を聞いてたか、龍一』
「寝るだけならどこで寝ても一緒でしょ?邪魔する気はないよ、僕は君の傍にいたいだけ」
『…お前、狡くなったな』
やっぱり食えない笑顔だ、なんて思いながら了承を表すように頷いた。
馬鹿な掛け合いをしていると、ふいとでてくる色のある言葉。
うまく転がされてるものだと自嘲するのは初めてでない。
「…本当に寝ちゃうか、雨月…」
ソファーに座る僕と、その膝に頭を乗せて眠る彼女。
ただ眠るために来た、というかのようなスウェット姿に、化粧っ気のない顔。
規則正しい寝息は微笑ましくもあり、恨めしくもある。
「せっかく、御剣から劇場版トノサマンのDVDも借りたのになぁ」
なんで僕の周りはトノサマンのファンばかりなんだろう、なんて疑問も浮かんだし。やるせない気持ちがないわけじゃない。
でも。
(この目の隈は…僕のせいだもんな)
どんなに忙しくたって自分の体調管理を怠らない彼女に珍しくあった目の隈。
"やっとぐっすり寝れるんだ"
なんて言われて。
しかも、
"雨月ドクター、本当は3日前が宿直明けで、一昨日が非番だったんですよ"
と、ナースから聞いてしまえば。
(僕のために、僕を心配して、この3日間勤務してくれたんだよね?)
(寝る時間も、休む時間も削って)
申し訳ないな、と思う半面。どこか満たされたような気持ちにもなって、膝の上の頭を撫でた。
「よく眠って、起きたらDVDを見よう、今日は僕も付き合うから。お昼は僕が作るし、夕飯はラーメンを食べに行こう」
それできっと、彼女に感謝が伝わるはずだ。
『…昼は冷し中華がいいな』
「麺がないから買いに行かなきゃね。…って、起きたの?」
『じゃあいい、なんでも…』
「(無視か…)すぐだから買って来るよ。もう少し寝たら?」
『ああ、寝る。だが買いに行く必要はない』
「…?」
『傍にいたいと言ったのは龍一だろう。なら離れるな、そこにいろ』
思わず閉じられたままの彼女の瞳を凝視する。
しばらく返答できずに見つめていれば、"顔に穴が開きそうだ"と、口だけ動かした。
「雨月も、ずるくなったんじゃない?」
『馬鹿いえ』
「僕、今日は何言われても離れる気なくなっちゃうじゃん」
『 』
「え、なに?」
もそもそと何か言った気がしたけれど、聞き取れなかった言葉。
でも、聞き返した時にはすでに、彼女は眠りの中。
「…、起きたら教えてくれるかな」
まあ、きっとしらを切られるだろうし。
聞けなくたって、この安らかな寝顔からして悪いことじゃないのは解る。
「ありがと、雨月」
"僕、今日は何言われても離れる気なくなっちゃうじゃん"
(いつもそうならいい)
(それならあんな、)
(心配な夜を過ごさなくて済む)
いくら不死身な君といえ
(私だって心配する)
(医者とて万能じゃないからな)
Fin.