リクエスト2
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《アイ、ノウ。》
※裁判の内容など、一部捏造がございます。
『迅、指紋の照合できたよ』
「お疲れ様、雨月。どうだった?」
『ビンゴだよ。ドアノブの指紋とペンの指紋は別物。やっぱり2人いたんだね』
私、雨月は新米刑事。
彼、夕神迅は新米検事。
どちらもひよっこだけれど、ブレインの方は同期の中でも秀でている。
という評価を貰っていて、実際捜査も大体順調で、裁判もピンチに陥ったことは今のところない。
それはそうだろう。
彼と私のペアは鬼に金棒ともいえる。20年来の幼なじみなのだから、相手の考えてることなんて手にとるように解る。
従って時間の無駄はないし、とっさのアドリブだって利くのだ。
「じゃあ、関係者の洗い直しだね」
『リストアップはしてあるし、目星も着いてるよ』
「流石雨月。早速確認しよう」
『ああ、あと例の件…なんだけど』
「…それは今、希月教授の所で詳しく調べてるんだ。多分、明日か明後日にはもう少し詳しく解ると思うよ」
『わかった。じゃあ、それが終わったらご飯でも食べに行こうね。ここんところデートもご無沙汰だし』
「そうだね。まず、この案件を片付けてから」
『ふふん、張り切っちゃうよ!』
幼なじみの関係を超えて、恋人同士になれたことは。ここ最近で一番いいニュースだ。
ただ、近頃調べるようになった"亡霊"の存在。
心理学の面から調べる為に、彼は頻繁に希月教授のいる宇宙センターに通う。
教授の娘にも気に入られてるらしく、そのためだけに行く日もあるくらいだ。
そんなこともあってデートはとんとご無沙汰。
だからつい、とりつけた食事に舞い上がりながら捜査を続けた。
彼は真面目だから、職場でこういう話をすると怒るけれど。
今回は彼なりに引け目があるのだろう、困ったように笑いながら受け止めてくれたのだ。
というのが一昨日の話。
今日、彼は被告人として法廷に立っていた。
「この人はやってないの!…心がそういってる!」
心音という少女が必死に叫んでいた。
私だって叫びたい、彼はやってない。
心なんて読めないけど、彼の目を見れば解る。
何を隠しているの?
全てを捨ててまで、何を守ろうと…………
ああ……
彼女、か。
「…来たな」
『きっと、私に頼みたいことがあるんじゃないかと思ってね』
「…………言わなくても、雨月なら解るだろう」
『…そうだね。解りたくなくても、解っちゃうよ』
「……」
『迅も、私の気持ち…解るよね』
「…」
『解ってるよ。言えないことも、言えない理由も』
だけど、せめて…
私の前で、諦めたりしないで。
(小さなレディの為に全てをすてる覚悟をしたんだから)
(私に謝るなんて、筋違いだって)
(彼は解ってるんだ)
(私が解っているように)
彼の無実を信じて疑わない人物は私を含め4人いた。
証言台に立った希月教授の娘、心音ちゃん。
彼の実の姉である、夕神かぐやさん。
そして検事局きっての天才、御剣検事。
『御剣検事、UR-1事件の資料と証拠品をすべて貸して頂けないでしょうか』
「…君か。持っていくがいい。本当なら私も一緒に調べたい所だが、生憎時間をとれない」
『お気持ちだけで十分です、助かります』
御剣さんは検察という立場と権力で私をフォローしてくれた。
「…ここが真理のラボよ。お姫様の部屋は隣。見取り図はこれよ」
『ありがとうございます…かぐやさん』
「構わないわよ、法律も警察も弁護士も…何一つ信用ならないけど。アンタだけが頼りなんだから」
宇宙センターの調査や聞き込みをフォローしてくれたのはかぐやさん。
どうしても通常勤務外の時間に捜査をしなければならなかったから、閉館日や時間外の開錠をしてもらっていた。
本来なら心音ちゃんの証言をもう一度聞きたい所だが、トラウマになっていてほとんど覚えていないことと、すでに渡米していることもあり断念せざるをえなかった。
何度となくにらめっこをした資料、証拠。
もう1年経ってしまった。世間からも忘れられかけている。
(あれ…この人)
監視カメラに映る、ジャケットを着た人物。どうやら手に怪我をしているようだ。
(メンバーにこんな人いたかな、…!、ジャケットって、個人認証の…!)
頭の中で何かが繋がりかけた。
証拠はない。
まだ可能性としては低い。けど。
(0、ってわけでもない)
もし、この人が真犯人なら、ジャケットの意味が解る。
でも、動機は?
希月教授を殺す動機…恨み、口封じ、邪魔…。
口封じ?何かを見られた?
邪魔?何かをしようとした?
あの部屋には何があった?
それを欲しがるのは誰だ?
誰?
(まさか)
追いつづけていた、あいつだというのか。
(亡霊…)
明日にでも、御剣さんに相談しよう。
彼は検事局一のブレイン、まだ説明がついていない所も組み立たるかもしれない。
『御剣さん、明日、私が立てた推論をお話したいんです。お伺いしてもいいですか?』
夜中だというのに御剣検事につなげた電話。
彼は二つ返事で了承してくれた。
ただ、裁判や会議が立て込んでいる為に朝しか時間がとれないらしく、待ち合わせは朝7時に検事局。
(明日は…早いな)
資料をロッカーに入れて鍵をかけた。
もう、今日は帰ろう。
きっと彼に相談すれば、今より確実に一歩進めるはず。
ならば、明日上手く話す為に少し休んだ方がいい。
その方が考えもまとまるだろう。
「御剣の旦那、雨月は…」
「うム…一命は取り留めた。身体的な後遺症も残らないらしい」
「そうか…よかった」
御剣と会う約束を取り付けた朝、彼女は自宅マンションの階段から転落した。
刑事としての反射が働いたのか、頚椎や脳には損傷がなく、上手く転がり落ちたようだった。
尤も、脚や腕を複雑骨折だの粉砕骨折だのする嵌めにはなってしまったが。
「そうだろうか…雨月くんは突き落とされた可能性がある」
「…」
「足跡が一つ見つかったのだ。ただ、その階段を利用する者で一致する者はいない」
「だが、突き落とされる理由がない」
「…彼女は前の晩、私に電話をしている。"UR-1事件の真犯人が解ったかもしれない"と」
「!」
「彼女が調べ回っていることは周知の事実だからな…真犯人に襲われたと考えれば説明がつく」
「雨月が生きてるなら聞いてみたらいいだけのことじゃねェのかい?旦那」
御剣は苦い顔をした。
伝えなければならない内容が、あまりにも酷だったから。
「…彼女は一部、記憶障害が残っている。……覚えてないのだよ。階段を落ちたことはおろか、前夜に調べた内容も、UR-1事件のことも」
君のことも。
隈の残る目を見開いたあと、夕神は視線を臥せて。
「そうか」
とだけ呟いた。
「むしろ、それが真犯人に突き落とされた証拠ともいえるのではないか?」
「……」
「消えている記憶やフレーズを考えれば単純だ。彼女が行き着いた答えはきっと」
「旦那ァ」
「…!」
「仮にそうだとしても、証拠が出て来なければ俺は自白を撤回しねェ」
今まで臥せられていた瞳が、鋭い眼光を放った。
「無理矢理思い出させんのも無しだ。旦那の推理だと、口止めの為に命を狙われたんだろ?だったら、記憶が戻ってまた調べ始めれば…今度こそ消される」
「…しかしそれでは、夕神、君のことも!」
「構わねェさ。囚人の俺とトモダチでいるよりは、幸せになれんだろ」
おもむろに立ち上がって、夕神は御剣に背を向ける。
「ありがとな、旦那。雨月が無事で何よりだ。…あいつを、頼まァ」
そして、鎖をカチャカチャと鳴らしながら面会室を出ていった。
『ありがとうございます、御剣検事。これで刑事に復帰できます!』
「ああ、流石に殺人だの強盗だのを足で追うのはきついだろう。誘拐やテロ予防のブレインなら、君も十分活躍出来るはずだ」
『えぇ!休んでた2年、きっちり取り返します!』
「…あまり、無理しないでくれたまえ」
実際にリハビリや技能訓練を受けていたのは1年だ。彼女の記憶から消えた1年、UR-1事件を調べた1年は記憶にない。
はたして、これでいいのか。
警察のブレインとして動くようになった彼女は、検事と顔を合わせることは殆どなくなった。
はたして、これで………
月日は流れ、更に5年の歳月が経った。
『御剣局長、この命はどういった意味合いですか?』
「君は、気づかなくてはならないのだ。君がたどり着いた真実と、記憶の彼方に置いて来てしまった人物に…」
『…よく、解らないのですが』
何故か今日、この壊れた法廷で行われる裁判の傍聴を命令された。
紛れも無いこの裁判の検察であり、検事局のトップに君臨する御剣さんから。
「無理もない。これでダメなら私も諦めるが…このままではきっと、君も彼も後悔するだろうからな」
『彼?』
御剣さんは何も答えなかった。
そして、ボロボロになった法廷の扉を開けて私を誘う。
「これより、希月心音の裁判を行います」
希月心音……
知り合いではないのに、どこかで聞いたことのある名前だった。
そして、証言台で叫ぶロボットの声にも…何故か聞き覚えがあった。
というか、ロボットの証人を召喚してしまうあたり…流石だと思う。
でも、一番脳を揺さぶったのは…
「意義あり!」
低くて凄みのある声と、全身をモノトーンで覆った男の人。
彼を見ていると頭がズキズキと痛んだ。
まして、続いて出た希月さんという被告人であり弁護士の女の子。
何も解らない。
なのに、彼の背中からはヒシヒシと、何かを守っている事を感じた。
根拠はないけど、きっとあの子を。
男の人と弁護側が、沢山の攻防を繰り広げて。
男の人、ユガミという人が声を震わせる。
「喋るのが、こえェんだよ!」
その言葉。あまりの切実さに、頭の中で火花が散った。
『大丈夫だから!』
そして、次の瞬間には立ち上がって叫んでいた。
「せ、静粛に!」
「裁判長、彼女に続けさせてくれないか」
一斉に集まる視線。
木づちを振るう裁判長を、御剣さんが止めに入る。
それから、ゆっくり振り返ったユガミさんと目があった。
『解らない…何も解らないけど。でも解る、私は知ってる…貴方も、貴方が守ろうとしてる人も…やってない。だから、話して下さい!』
ユガミさんの表情は変わらなかった。でも、驚きや、躊躇いが伝わってきて。
慌てて座り直した。
「ユガミ検事、話してくれますね?」
そこから紐解かれる事実。
目まぐるしく変わる絶望と希望。
飛び交う怒号、絶叫、悲鳴…
その先にあった真実。
"亡霊"
という存在。
その言葉を聞いた途端、頭が警鐘を鳴らし始めた。
内側から割られるような痛み。
思い出してはいけないナニカと、忘れてはならないナニカがせめぎあっている。
そして。
一時休廷の合図とともに、私の意識はとんだ。
「雨月、あんまり走ると転ぶよ」
『平気だよ!このくら…あっ!』
「言っただろ?ほら、立てる?」
『うん』
『あー、またテスト負けた』
「国語と社会だけでしょ?数学と理科は雨月のが上じゃん」
『全部勝ちたいの!』』
『それが終わったらご飯食べに行こうね』
「…そうだね、」
『約束だよ?――』
……夢を見ていた。
黒髪で、優しい目をした男の子と一緒に成長してきた夢。
大人になった彼に、私は
『――ジン』
と呼び掛けていた。
ジン……迅………ゆうがみ、迅。
あああああああああああああああああああああああ!!!
「気がついたか、雨月くん」
『御剣さん、私…私!』
「……思い出したようだな。行こう、大詰めだ」
『はい!』
崩れた法廷へ。
戦っているであろう彼のもとへ!
「判決を言い渡します」
無罪
「旦那……世話になったなァ」
「どうということはない。それから夕神、いい知らせだ」
「…?…………!」
『迅、おめでとう』
「雨月、お前…記憶が…」
手錠のない彼。
6年もの間、彼を忘れていたなんて。
私がしっかりしていれば、もっと早く…!
『ごめんなさい、迅…私が、私がちゃんと…!』
「いいんだ…」
『だって!』
「解ってる。でも、これでよかったんだ」
雨月が、自分を責めることも、その理由も解ってる。
たけど、獄中から彼女を守る方法は解らなかったから。
きっとこれでよかった。
『私は…自分が許せないよ…一番大切な、迅を忘れていたなんて』
「馬鹿言え。俺だって、自分が許せねェさ。俺のせいで…お前は亡霊に襲われたんだから」
『それこそ…迅の為なら私、なんだって…』
「だから」
『…』
「だから、これでよかったんだ。お前がお前を許さなくても、俺はお前を許す。…ありがとな、雨月」
ふわりと抱き寄せられた体。
7年前の彼はロビーでこんなことしなかったのに。
でも、その暖かさが懐かしくて嬉しかった。
『私も、迅を許すよ。お帰りなさい』
溢れてきた涙で、化粧が崩れてしまったけど。
精一杯に微笑んだ。
「…7年越しになっちまうが、手続きが済んだら行こうな」
『そうだね。今度こそ』
「あァ」
7年前の約束。ご飯を食べに行くのだ。私達の間に多くの言葉はいらない。
そして。
御剣さんの後に続いてロビーを離れようとする背中に。
『迅――、』
思わず声をかければ。
「―知ってらァ」
そんな返事があって。
『知ってるよ。ばーか』
思わず笑った。
I know.
アイ、ノウ。
知ってる、知ってる。
君のことなら全部。
『、好きだよ』
「…好きだ」
君が私を好きなことも。
お前が俺を好きなことも。
全部、全部
Fin.