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《妬み嫉みの輪》逆裁4時間軸
「…雨月ちゃん、顔怖いけど?」
『そう、ですか?』
「怖いし辛そうな顔してるよ」
『だって…』
成歩堂なんでも事務所の給湯室。
ニット帽の所長に心配されてる私は絶賛片思い中。
誰に?
残念ながら子持ちのヒゲパパではなく、熱血な後輩弁護士に…だ。
「あれは見抜いたり勾玉を使うまでもないよね」
『間に入ることもできないし、見てるのも辛いし、放っておくのも辛いし…』
「雨月ちゃん、意外と乙女だね」
『…今まで乙女になる機会がなかっただけです』
何でこんなにやきもきしているかといえば、数日前に入った依頼に遡る。
依頼人は兄の弁護を頼みに来た若い女性。
女性っていうか、まだ大学に入ったばっかの女の子。
兄は濡れ衣を着せられているのだという話で、それは嘘じゃなさそうだし、ここまでは問題ない。
その次だ。
「真犯人が捕まるまでボディーガードしてください!」
耳を疑ったよ。探偵になりかけてる弁護士がさらに道を逸れていくのかと。
何でも、彼女に証言させたくない輩にストーカーされてるとか。
最初、本気で心配していた私は
『判決が出るまで、私の部屋に来ますか?ボディーガードなら私も出来るし、女同士のが色々都合いいと思いますよ』
と、声をかけた。
まさかあんなに露骨に嫌な顔をされるとは思わなかったよ。
結局、
「男の人のが安心ですし…」
とか言い出して。
男の人なら暇そうな三十路男が一人いたんだけど、それもなんやかんやで断って。
オドロキ君を指名した。
今も、打ち合わせという名で彼女を事務所に呼んでいるのだけど、彼女自身が事件とは関係のない話をしたがって全然進んでいかない。
担当はオドロキ君で、彼の頼みで助言役として同席していたけど、余りに居心地が悪くて給湯室に逃げ込んだのだ。
『私の質問とオドロキ君の質問、答える時の態度とか全然違うんですもん…』
「来る度に化粧も派手になってるしね」
『あと、上目遣いと作ったアヒル口も見てて辛い』
「いいの?二人っきりにしてきて」
『ぅ、よくないです!』
給湯室から麦茶を持って慌てて出ていく。
やっぱり雑談に流れ込むところだったみたいで、依頼人から若干睨まれた。
今時の若い子は…ってくくっちゃいけないけど、どの世代も女は怖い。
「羽影先輩、他に聞くことありませんか?」
『う…ん、いいかな。後は直接尋問しないと…』
「ではこれで。明日はよろしくお願いします」
「よろしくお願いします//」
あぁ、語尾にハートが飛んでるし、上目遣いのアヒル口。弁護の依頼なのになぜか照れてる。
心の中で舌打ちした。
「…あの、オドロキさん、家まで送って貰えませんか?明日、ちょっと不安で…」
昨日もそうだった。
打ち合わせに来てそうやって送っていって、今日は迎えにも行ったんだ。
私はオドロキ君の彼女やなんかじゃないから咎める権利もないし、仕事という枠の中ではもっと無力。
でも、今日はちょっと違った。
「オドロキ君、ちょっと頼みがあるんだけど」
「えっ、今依頼人の方と…」
「ボディーガードの件なら雨月ちゃんのが適任でしょ、合気道と空手の心得あるんだし。女一人で不安なら僕も行くから」
オドロキ君を事務所の奥へ引っ張りこんで何か伝える成歩堂さん。
きっと、助け舟を出してくれたんだ。
「じゃ、いこっか」
「……はい」
「ああ、明日は弁護の準備もあるし、迎えにもいくならこのメンバーだから」
下唇を噛んだ後、あからさまにがっかりしたような、嫌な表情をしたことには目をつむった。
彼女とオドロキ君の間に距離をとれただけで十分だ。
「…彼女はオドロキ君に一目惚れでもしたのかな?」
『他に考えられないですよ、嘘までついて…』
「ストーカーのこと?」
『気づいてる癖に。襲われる心配するならもう少し人通りの多い道通りますよ。まして、カーテン開けっ放しで出かけたり鍵の数が一つなんてありえません』
彼女をアパートまで送った帰り、余りにも無防備な佇まいに心底幻滅した。
恐らく、パーカーのポケットの中で勾玉を弄る成歩堂さんには解ってたんだろうけど。
「いやぁ、あんまり君のソワソワした様子が楽しいからつい」
『……意地悪ですね』
「あれ?今回僕は助けてあげたつもりなんだけど」
『今日の事は感謝してます。ありがとうございました』
「はは、棒読み」
成歩堂さんとの付き合いは長い。
真宵ちゃんの友達という紹介で出会った私は、この事務所が法律事務所だった頃から知っている。
「さて、ただいま」
「お帰りなさい。ってか成歩堂さん、これが仕事ってどういうことですか!」
事務所のドアを開ければ、メモ用紙を突き出して呆れ顔で怒るという器用な事をするオドロキ君がいた。
そのメモには
[事務所でいい子でお留守番してること]
と、ふりがな付きで書いてあった。
「ああ、凄く重要な仕事だったよ。ちゃんとできた?」
「馬鹿にしてるんですかっ!?」
「いやいや大真面目だよ。じゃ、今度は僕一人で出かけて来るから二人でお留守番してて」
オドロキ君に見えないように、似合わないウインクをした彼の意図を察して。
とても嬉しい反面、殴りたい気分になった。
「まったくあの人は…」
オドロキ君はブツブツといいながら私に冷たい麦茶を持ってきてくれた。
『先輩、よく成歩堂さんと普通の会話できますよね』
「…え、あ、慣れ…かな。付き合い、長いし…」
そう、付き合いの長いあの人とは普通に話せる。
ただ、比較的最近知り合った意中の彼と話すとこんな調子。意識しすぎてるのか、どもったり噛んだり詰まったりと散々だ。
「ふーん、付き合ってたりするってことですか?」
『ゴホッ…えっ、えっ?…私と、成歩堂さんが?』
「違うんですか?それとも、先輩が成歩堂さん好きなんですか?」
『ど、どっちも違うよ…!』
さすがに、この流れだと詰まるということはなかった。
余りにも意外な切り口からその手の話題に切り込んだので、飲みかけた麦茶をむせたけれど。
「そうなんですか?俺はてっきり…。じゃあ…成歩堂さんが先輩の事好きなのか…」
『…や、いや、それもないよ』
オドロキ君が前に座っているから顔を上げる事はできないけど、麦茶を置いて手を振りながら否定する。
『…なんで、そう思うの?』
「…。よく二人で一緒にいるじゃないですか。今日も給湯室で何か話してたみたいだし。俺に留守番させて二人で出かけたり」
『出かける…って、依頼人の付き添い…』
「まあ、そうですけど」
斜め下に逸らしていた視線をこっそり上げて、オドロキ君の表情を盗み見た。
困ったような、悩んでいるような、面白い顔。
「…結局、お二人は付き合ってないんですね?」
『そうだよ』
当たり前じゃないか。
君が好きなのに。
なんて、言う勇気は持ち合わせてない。
フラれたら二度とこの事務所へ来れないし。
『………オドロキ君こそ、依頼人の娘、気になるんじゃないの?』
本当は余り聞きたくない話。だけど、気になって仕方ない話。
「依頼人?今日の人ですか?」
『…』
小さく頷いた。
私が苦手なだけで、今時のとても可愛い子だもの。
彼がその気になってもおかしくない。
「俺は、羽影先輩しか見えてませんから」
一瞬、自分の耳を疑って顔を上げれば、真っすぐな瞳と目がばっちり合った。
だって、それってさ…
「俺は羽影先輩が好きなんです!」
すき?
オドロキ君が私を、
好き?
『…私なんか、が?』
「先輩"が"いいんです」
カアッと頬に熱が集まるのが解って、慌てて顔を下に向けた。
絶対、絶対真っ赤になってる。
脈が上がって胸が苦しいくらいだ。
『私も、オドロキ君、す、…き』
聞こえるか聞こえないかの声量。きっと、彼と足して割ったらちょうどいいくらいの。
でも、彼の耳には届いたみたいで、"よかった"と聞こえた。
「じゃあ先輩。慣れたら、成歩堂さんみたいに沢山お話してくれますか?」
『慣れる、か、解らないけど…』
「…慣れて下さい」
『っ…!』
いつの間にか私の後ろへ来て、ソファー越しに首元へ腕を回した彼に、心臓は壊れそうな程高鳴って。
「じゃないと、今以上成歩堂さんに嫉妬してしまいます」
普段のオドロキ君からは想像出来ないほど小さな声で囁かれたそれに、私は声を出す余裕なんてなくて。
ぎこちなく頷くよりなかった。
(もしかしたら彼は)
(私より嫉妬深いのかもしれない)
(でも不器用な私には)
(そのくらいが丁度いいのかも)
妬み嫉みの輪
(嫉妬する君に嫉妬して)
Fin.
「やっとくっついたね」
「な、成歩堂さん!」
「勘弁して欲しいよ、鈍感な二人の片思いを見守るなんて。じれったいったらない」
『…成歩堂さん、まさかオドロキ君から…』
「聞いてたよ。君が好きだって」
『教えて下さいよ!あの愚痴った時間はなんだったんですか!』
「野望なことはしない主義だから。オドロキ君、彼女も君くらい嫉妬深いから気をつけてね。凄く怖い顔してさ…」
「えっ?」
『あわわっ、その話はしないでください!』
(君に教えるわけないじゃないか)
(あれでくっつかなかったら)
(君を泣きそうな程辛い顔にさせる彼から)
(掻っ攫ってしまおうとさえ思っていたんだから)
End
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