御剣詰め合わせ2
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《芸術の秋》
彼女の家に無駄なものはなかった。
家具や食器も必要最低限で、娯楽品もなかった。
色調もモノクロームにまとめられていた。
そんな彼女の家に、異彩を放つ代物があった。
白い壁に際立つ、絵画。
光を強調したような…一方で影を強調したような…、そんな絵が。
「これは…レンブラント…か?」
『うん。安い贋作だけど、ね』
「この前は確か…」
『ラッセン…だったよ』
その絵の正面にあるソファーに座って紅茶を注ぐ。
彼女は絵が好きだ。
先週は神秘的な天使の絵だった。
『安い贋作とか、ジグソーパズルとかをたまに買ってきて、一枚ずつ週替わりにしてるの』
「今週はレンブラントの気分なのか?」
『うん、この城のある絵気に入ってるの。光と影の魔術師の描く中で一番のお気に入り』
うっとりと、しかしどこか虚ろに魅入る彼女。
何だか、どこかへいってしまいそうな、そんなアレに襲われる。
「雨月…」
『ん、なぁに?』
「…」
呼んでみただけ、とは言えず、彼女の髪を撫でた。
その手を払うでもなく、また彼女は絵を見遣る。
『光と影、太陽と月。相反するものの調和は美しいよね』
私の体と腕の間に滑り込んで擦り寄る彼女。
「そうだな…太陽と月は美しいが、それらを除けば貴女が一番美しい」
目を丸くして、少し赤くなりながら悪戯っ子のように彼女は口を開く。
『シェイクスピア、でしょ』
「ご名答」
"太陽と月を除けば貴女が一番美しい"
それらよりもと言わないことで真実味を出し、それらを除くことで人間の頂点に堂々と据える言葉。
『でもさ、』
首元に顔を埋めた彼女は小さく呟く。
「…月が綺麗ですね」
『……私もだ。雨月』
夏目漱石が I love you の訳語に当てた言葉。
"月が綺麗ですね"
「愛してる…」
教養のある彼女だから、解る愛の言葉の数々。
彼女が作り出すこの穏やかな空間だって、芸術と呼んで差し支えないのではなかろうか。
なんて。
窓から差し込む光が
とても柔らかで
不意に貴女を呼びたくなる
そんな秋の日
芸術の秋
Fin