王泥喜と地学ガール
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《君が遠い昼》
「あ!雨月さん、おはようございます!」
『…おはよう』
朝っぱらから元気な挨拶、寝不足の頭には少々響く声がやってきた。
「あの…事件の捜査をしたいんですが……」
『足跡の検分が終わるまでは入れないわよ』
「はい、待ってます!」
以前検分前の現場に踏み入って私を怒らせた彼は、Keep Out のテープの後ろで突っ立っている。
『…この事件、犯人自主してるみたいだけど、捜査することあるの?』
「えぇ、まあ。自分の目で見ておきたいので」
『…へぇー……』
自主した犯人の弁護。刑をどれだけ軽く出来るかが勝負なのだろう。幸い今回は殺しではない。執行猶予を獲得できれば文句なし、といったところか。
「あの、今日は雨月さん一人なんですか?」
『さっきまで他に2人いたんだけど、今日は別件があってね。犯人の解ってる事件には人員を割けないんだ』
検分の道具を片付けながら、背中越しに聞いていた声の主を振り返る。
相変わらず真っ赤なベストと2本のツノ。
『じゃあ検分終わったから、どうぞ。君が捜査してる間は私もいなきゃいけないし』
「はい!ありがとうございます」
テープを跨いで入っくる彼を、近くのフェンスに寄り掛かって眺める。
今回の事件は酔っ払い同士の喧嘩で、一方が手荷物にあったカッターで切りつけた…というもの。
現場になったのは夜の公園で、木々の手入れが行き届いていないのか、昼間でも少し暗い。
『…ふぁぁ…』
「寝不足、ですか?」
『そりゃあ、早朝に叩き起こされて仕事してれば、眠いよね』
「、お疲れ様です」
宿直というか、夜勤で仮眠をとっていたのを起こされたのだ。昨晩だってそれなりに仕事はあったし、早く帰って寝たい。
『…終わりそう?』
「あ、はい。あの、少し話を聞いていいですか?」
『……手短に』
早く寝たい、し。この弁護士に話す義理はないのだけど。このまっすぐすぎる瞳を向けられると、どうも上手く断れない。
「えっと、事件の起きた時間と、経緯と…」
一生懸命自分の持っている情報と、私の話を比べてたまに首を傾げたりしながらメモをとっている。
『いいかな?』
「…あの、なんでこんな場所に2人は来たんだと思います?」
『こんな場所…?』
「いや、酔っ払ってたにしてもここは公園の外れだし、通らないと思うんですよ」
『…さあ。依頼人に聞いたら?私は知らないし、現場を見てもそれの答えになりそうなものはなかったよ』
弾みをつけてフェンスを離れながら、Keep Outのテープをはずす。
署に検分結果を届けて、引き継ぎをすれば今日明日は非番だ。ゆっくり寝れる。
「警察署に戻るんですよね?」
『私が検分結果持ってても仕方ないからね』
「なら、一緒に行きませんか…なんて……」
『君は、パトカーに護送されたいのか』
「いやいやっ」
『警察と弁護士が仲良くしてるのも、変な誤解を産むから遠慮しとくよ。じゃあね』
何を言い出すのかと思えば…。
ただでさえ隠蔽だの捏造だのと言われている時代に、余計なことに巻き込まれたくない。
彼にそんなつもりがないことは重々承知だけど、周りがどう思うかは別だ。
『…じゃあ、私はこれであがりますね』
「ああ、ご苦労さん」
上司に資料や結果を渡して、エントランスへ向かう。
なんだかんだで昼すぎだ、お腹も空いたけれど、眠い。何か買って帰ろう。
「あ!雨月さん!」
『…また君か…、なんだっけ、ダイジョウブ君?』
「…オドロキ、です」
『で、何の用かな、オドロキ君?』
留置所の方から駆け寄ってきたオドロキ君。大方、依頼人と話をしてきたのだろう。
「何…ってほどじゃないんですけど…」
『じゃあ、さようなら。私本当は今日非番なんだよ。帰って寝るから』
「あ、あの、お昼…食べました?」
『まだだけど』
「よ、よかったら、一緒にどうですか?」
…この子は人の話を聞いてないんだろうか。
朝会った時に仲良くするつもりはない、というニュアンスを伝えた筈だし、今も眠いということを伝えたんだけども。
『何、奢ってでもくれるの?』
「…リーズナブルなものなら」
『はぁ、今回は遠慮しとく。依頼が片付いて気が変わってなかったら誘って』
弁護士の財布事情が芳しくないのはよく知ってる。
大体、どう見ても年下のこの子に奢られるのも釈然としない。
「はいっ!裁判明日なんです、だからそのあと…」
『…私、明日も非番だから』
じゃあ、機会があったら。
後ろ手にヒラヒラと手を振って署を後にする。
どうもあの子は苦手だ。
まっすぐ過ぎるし、やたらと馴れ馴れしい。
名前もフルネームを教えた筈なのに下の名前で呼んでくる。
…それはジャラジャラした検事も同じなのだけど。
でも、いい子だとも思う。
さすがに今日は頭に響いたけど、明るい挨拶とか、若々しくていい。
(まだ、始まりにもならない朝)
「…機会があったら、か」
「望みなし…ってわけじゃなさそうじゃない?オデコ君」
「いや、結構あしらわれてる気がするんですけど」
「彼女が返事をしてくれるだけいいよ。僕なんか3回に2回は無視されるからね」
「…牙琉検事、しつこすぎるんじゃないですか」
(真昼の太陽も続きを知らない)
Fin.
「あ!雨月さん、おはようございます!」
『…おはよう』
朝っぱらから元気な挨拶、寝不足の頭には少々響く声がやってきた。
「あの…事件の捜査をしたいんですが……」
『足跡の検分が終わるまでは入れないわよ』
「はい、待ってます!」
以前検分前の現場に踏み入って私を怒らせた彼は、Keep Out のテープの後ろで突っ立っている。
『…この事件、犯人自主してるみたいだけど、捜査することあるの?』
「えぇ、まあ。自分の目で見ておきたいので」
『…へぇー……』
自主した犯人の弁護。刑をどれだけ軽く出来るかが勝負なのだろう。幸い今回は殺しではない。執行猶予を獲得できれば文句なし、といったところか。
「あの、今日は雨月さん一人なんですか?」
『さっきまで他に2人いたんだけど、今日は別件があってね。犯人の解ってる事件には人員を割けないんだ』
検分の道具を片付けながら、背中越しに聞いていた声の主を振り返る。
相変わらず真っ赤なベストと2本のツノ。
『じゃあ検分終わったから、どうぞ。君が捜査してる間は私もいなきゃいけないし』
「はい!ありがとうございます」
テープを跨いで入っくる彼を、近くのフェンスに寄り掛かって眺める。
今回の事件は酔っ払い同士の喧嘩で、一方が手荷物にあったカッターで切りつけた…というもの。
現場になったのは夜の公園で、木々の手入れが行き届いていないのか、昼間でも少し暗い。
『…ふぁぁ…』
「寝不足、ですか?」
『そりゃあ、早朝に叩き起こされて仕事してれば、眠いよね』
「、お疲れ様です」
宿直というか、夜勤で仮眠をとっていたのを起こされたのだ。昨晩だってそれなりに仕事はあったし、早く帰って寝たい。
『…終わりそう?』
「あ、はい。あの、少し話を聞いていいですか?」
『……手短に』
早く寝たい、し。この弁護士に話す義理はないのだけど。このまっすぐすぎる瞳を向けられると、どうも上手く断れない。
「えっと、事件の起きた時間と、経緯と…」
一生懸命自分の持っている情報と、私の話を比べてたまに首を傾げたりしながらメモをとっている。
『いいかな?』
「…あの、なんでこんな場所に2人は来たんだと思います?」
『こんな場所…?』
「いや、酔っ払ってたにしてもここは公園の外れだし、通らないと思うんですよ」
『…さあ。依頼人に聞いたら?私は知らないし、現場を見てもそれの答えになりそうなものはなかったよ』
弾みをつけてフェンスを離れながら、Keep Outのテープをはずす。
署に検分結果を届けて、引き継ぎをすれば今日明日は非番だ。ゆっくり寝れる。
「警察署に戻るんですよね?」
『私が検分結果持ってても仕方ないからね』
「なら、一緒に行きませんか…なんて……」
『君は、パトカーに護送されたいのか』
「いやいやっ」
『警察と弁護士が仲良くしてるのも、変な誤解を産むから遠慮しとくよ。じゃあね』
何を言い出すのかと思えば…。
ただでさえ隠蔽だの捏造だのと言われている時代に、余計なことに巻き込まれたくない。
彼にそんなつもりがないことは重々承知だけど、周りがどう思うかは別だ。
『…じゃあ、私はこれであがりますね』
「ああ、ご苦労さん」
上司に資料や結果を渡して、エントランスへ向かう。
なんだかんだで昼すぎだ、お腹も空いたけれど、眠い。何か買って帰ろう。
「あ!雨月さん!」
『…また君か…、なんだっけ、ダイジョウブ君?』
「…オドロキ、です」
『で、何の用かな、オドロキ君?』
留置所の方から駆け寄ってきたオドロキ君。大方、依頼人と話をしてきたのだろう。
「何…ってほどじゃないんですけど…」
『じゃあ、さようなら。私本当は今日非番なんだよ。帰って寝るから』
「あ、あの、お昼…食べました?」
『まだだけど』
「よ、よかったら、一緒にどうですか?」
…この子は人の話を聞いてないんだろうか。
朝会った時に仲良くするつもりはない、というニュアンスを伝えた筈だし、今も眠いということを伝えたんだけども。
『何、奢ってでもくれるの?』
「…リーズナブルなものなら」
『はぁ、今回は遠慮しとく。依頼が片付いて気が変わってなかったら誘って』
弁護士の財布事情が芳しくないのはよく知ってる。
大体、どう見ても年下のこの子に奢られるのも釈然としない。
「はいっ!裁判明日なんです、だからそのあと…」
『…私、明日も非番だから』
じゃあ、機会があったら。
後ろ手にヒラヒラと手を振って署を後にする。
どうもあの子は苦手だ。
まっすぐ過ぎるし、やたらと馴れ馴れしい。
名前もフルネームを教えた筈なのに下の名前で呼んでくる。
…それはジャラジャラした検事も同じなのだけど。
でも、いい子だとも思う。
さすがに今日は頭に響いたけど、明るい挨拶とか、若々しくていい。
(まだ、始まりにもならない朝)
「…機会があったら、か」
「望みなし…ってわけじゃなさそうじゃない?オデコ君」
「いや、結構あしらわれてる気がするんですけど」
「彼女が返事をしてくれるだけいいよ。僕なんか3回に2回は無視されるからね」
「…牙琉検事、しつこすぎるんじゃないですか」
(真昼の太陽も続きを知らない)
Fin.
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