花と蝶 番外
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《壱:2018まこたん③》
『真君、ここ』
なんだ、今日は。
ここ、から始まる最近の彼女は妙に楽しそう。
今回"ここ"と示されたのはソファーに座る彼女の隣でもなく、カーペットでもなく、彼女の膝。
「……」
『え、膝枕…だめ?』
「いや……その手にあるのはなんだ?」
そうだよな。そこに座れじゃないよな。
膝枕自体は、普通に興味ある。
ルームウェアのショートパンツから伸びる、白くて柔らかい太股はとても魅力的…なんだが。
『オプションの耳掻きセット。綿棒とベビーオイル』
「オプションはいらねぇ」
『ええー』
耳掻き、自分でやるのも好きじゃないし、人にやられるのはもっと好きじゃない。
…ガキの頃母親に痛い思いをさせられてからは避けまくってきたそれ。
「耳は自浄作用あるからそんなもん突っ込まなくてもいいんだよ」
『気持ちいいのに…』
「雨月は本当にそれ好きだよな。やり過ぎて炎症起こしたこともあんのに」
『うん。だからね、真君にも克服して貰おうと思って』
「…嫌だ」
『そこを、ね?膝枕つけるから』
「膝枕がメインじゃなかったのかよ…」
ポンポンと叩かれた膝が、ポヨポヨと柔らかそうに弾むのを見て。理性がぐらついた。
「…止めろつったらすぐ止めろよ」
『わかった。さ、右耳からね』
負けた。
雨月の膝を枕にしてソファーに横向きに寝そべれば、彼女はクスクス笑って身動いだ。
「…?」
『ふふ、真君の髪、くすぐったい』
「…大丈夫なんだろうな」
『大丈夫。ちゃんと気持ちよくしてあげる』
「……」
どんな台詞だよ。
と思ったが突っ込まない。そんな邪念を顕在させてしまったら膝枕どろこではないし。
『最初は外耳ね、蒸しタオルあてるよ』
髪の毛をそろりと避けられて。
ちょっと身構えたら温かい蒸気が耳を覆う。
「ん…」
『そう、肩の力抜いてて…』
温かいタオルで耳たぶや浅いところを擦るように拭かれる。
寒さを感じさせないためか、濡れた箇所はすぐに乾いた柔らかい布で拭き取られた。
(随分とまあ、丁寧な)
『はい、綿棒入れるよ。最初は縁の方からやるから』
「……」
『そうそう、じっとして…』
外縁から湿った綿がなぞる。ベビーオイルが冷たいこともなく、存外悪くない。
『どう、大丈夫?』
「ああ」
『じゃあもう少し奥まで』
先ほどより深く入ってきた綿棒に思わず強張れば、彼女はあやすように俺の腕をさする。
『大丈夫、痛くしない。ゆっくりね』
綿棒を新しく持ち変えて、ゆっくりではあるが少し強めに横向きに動かされた。
「…んんっ」
『強すぎた?あんまり優しくやるとくすぐったいから…』
「大丈夫」
『よかった。はい、右終わり。次左ね』
彼女に背を向けていた俺は、彼女の方を今度は向く。
なんとはなしに腕を彼女の腹に回して抱きついた。
『……はぁぁっ、可愛い』
「うるせぇ」
『いや、うん、ごめん、可愛い』
「…もういいから続きしろ」
『!…ふふ、了解』
心地よかったんだ。
同じように蒸しタオルが外耳に乗せられて、空いた手が髪を撫でる動作。
それから、右頬に感じる彼女の脚。
『…、……♪』
(また、なんか歌ってる)
ついでに、彼女の小さなカラオケ。
『それでも、嬉しいのさ、君と道に迷えることが、たくさんを分け合えるのが』
(同じやつの歌だ……気に入ってたんだな)
さっき、同様。外側を拭いて、オイルをつけた綿棒が入ってきて。
俺の耳は異物感に慣れてしまったらしく、眠気さえ感じる程。
『僕ら今、二人で生きていくことを、止められず、笑い合うんだ』
横目で見た彼女の顔は、それはそれは穏やかで。
慈しみ、とでも言えばいいか。
それくらい優しい微笑だった。
『それを僕らは運命と呼びながら、いつまでも手を繋いで、いた』
歌い終わると同時に、耳を弄っていた指は遠退いて。
軽く膝を立てて体を丸めると、耳に口づけられる。
「…っ」
『お疲れ様、綺麗になったよ。ね、気持ちよかったでしょ?』
微睡んでる俺の頭を撫でながら、さっきの微笑を湛えたまま問う彼女に。
俺は頷くよりなく。
「…………雨月がやればな」
『それは誉めてくれてるんだよね?』
「…ああ」
『なら、いつでも幾らでも』
「膝枕付き?」
気に入ったの?
なんて、軽やかな笑い声が降って来るのも心地よかった。
(本当にガキみてぇだな…成人式も過ぎたってのに……あ?)
合点がいった。
彼女が、ここ数日いっそう甲斐甲斐しかった理由。
(明日……12日か)
前夜祭だけで随分と豪華な。
「…はぁ」
溢れた吐息に、彼女はまたくすぐったそうに身動いで。
『もう少し、このままいよっか』
温かな指で俺の頬を撫でた。
壱 日前のできごと
(一人では片付けられない物だろうと君がいてくれたら、ほら)
(限りない絶望も答えが出せないものも全部、色付いてく)
(離せないんだ、もし手を離せば)
(二度と掴めないような気がして)
……………
歌詞:米津玄師様 フラワーウォール
花と蝶のイメージに凄く合った歌なので、つい引用させて頂きました。
アイネクライネとフラワーウォール
どっちかと言えばアイネクライネがヒロイン視点、フラワーウォールが花宮視点かな……と。