花と蝶 番外
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《参:2018まこたん①》
「くっそ、レポート消えた」
『え、バックアップは?』
「デバイスに突っ込んだ筈なんだが出てこない」
『……パソコン古いもんね』
「春までに買い換えだな……書き直しか」
『期限は?』
「明日。まあ内容は頭に入ってるし打ち込むだけならいけるだろ」
『…凄』
大学の冬休み明け、レポートの印刷をしようとした真君が舌打ちした。
明日の正午提出らしいレポートを、今から書き直すらしい。
現在、21時。
ブルーライト遮光眼鏡を掛けて、叩きつけるような音でタイピングしていく姿はエリート社員みたいだ。
私はカフェインレスコーヒーを2杯淹れて、1つはソファーに凭れてローテーブルでレポートを書く真君に渡す。
「…先布団入ってていいぞ」
『ううん、私もレポートまとめちゃうよ』
もう1つはダイニングテーブルに置いて、私の冬休みの課題をまとめる。
流石家政科だけあって、出た課題は「お節についてのレポートとオリジナルのお節料理(レシピ・写真の提出)」だった。お節の歴史、郷土による違い、世界的な年末年始の料理…など、調べて行くとかなり範囲が広くて、大変だが楽しかった。
今やお節は家族で食べる料理で、日にちや時間、内容も拘らないことが多い。
『大切な人と、今年も素敵な年を過ごしたい。その願いを込めた料理がお節、である』
私のレポートはこれにまとまった。
昔ながらの縁起物を入れるのは勿論いい、それらも先人の願いだから。
忙しい現代社会、年の瀬に時間を掛けるのは大変だから出来合いのお重だって構わない。
ただ、誰かを思って時間と手間をかけた料理を出せる機会はそう多くないから。
作ってみた、という思い出も悪くないと思う。
はんぺんで作る伊達巻、黒豆と金団を使った羊羮、海老とかまぼこのお澄ましなどのレシピと写真を添付した。
食べた私の感想と真君の感想を添えての考察もつけて。
私の料理は私の為だけの料理じゃないからね。
「はあ……これで半分か」
『コーヒー淹れ直す?』
「頼む」
22時、彼は肩を回しながら溜め息を吐いた。
「雨月は終わりそうか?」
『んー、大体』
「手が空いてたら、先に出来たページ校閲してくれると助かる」
『いいよ』
既に印刷された数ページを読んで誤字脱字を探す。
まあ、真君には必要ないと思うんだけど…人の目を借りた方がいいくらいには焦って書いてるんだろう。
そんな自己分析が出来てるくらいなんだから、平気だと思うんだけど。
「……終わった」
『誤植はないよー。ヘッダーの挿入とかはない?』
「忘れてた、ナイス校閲」
平気じゃなかった。
23時、印刷を終えた真君と床に座ってソファーに凭れる。
「これでいいな。はあ、マジ疲れた」
『お疲れ様。真君、結構猫背だよね。背中とか肩凝るでしょ』
「慢性ではないが……講義とかレポートの時はな。机低いし」
『背、高いもんね。…そうだ。ね、そこ寝転んで?』
怪訝な顔をする彼をうつ伏せに転がして、軽く馬乗りになる。
「んんっ!」
『うわ、肩ガチガチ…筋肉あるし運動してるのにね』
「んー…」
『やっぱり姿勢かな?首とかも痛い?』
「あー、そうだな…」
手のひらを肩甲骨辺りに乗せて揉めば、真君はくぐもった声を漏らした。
余りの固さに驚いて、背骨に沿って力強くしていけば。気持ち良さげに呻く。
『どう?痛くない?』
「ん……平気……」
頭と首の付け根から首筋を揉みほぐして、首と肩の境をグリグリと押す。
結構力入れてるんだけど、真君は痛がらない。
『どこがいいとかある?』
「いや……特にないな、どこもいい」
『疲れてたんだねぇ』
表情はうつ伏せだから見えないけど、時折長く吐かれる息が心地よさげで安心する。
たまにはね、こういう御奉仕もいいと思うんだ。
「んっ…ぅ」
『気持ちいい?』
「気持ちいい。…ふぅ、そこ、もう少し強く」
『ここ?』
……ただ、真君の声が色っぽいから、ちょっと、ほんのちょっと、気まずい。
マッサージしてるだけなのにね。
『真君……真君?』
「……」
そんな、邪な私なんて気にも止めず。
彼は小さく寝息をたてていた。
(ベッドでやればよかったなぁ)
(いや、その方が不健全かな?)
『真君、ここで寝ちゃダメだよ』
「……わりぃ、寝落ちたか」
『少しね。でも、気持ち良さそうで何より』
「ああ。肩軽くなった気がする」
背中に寝そべるように、その耳元へ声を掛ければ。
彼はくすぐったそうに笑った。
参 日前のできごと
(私を守ってくれた背中を)
(労ってあげてくて)
Fin.