花と蝶 番外
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《その戯れ、故意犯につき》
『真君、今日はなんの日でしょう』
「…介護の日」
『え…そうなの?えっと、それ以外で』
「ちんあなごの日」
『ち…なにそれ?アナゴ?魚?それじゃなくて』
「電池の日」
『それでもない!食べ物、食べ物で』
「ああ?チーズの日?」
『11月11日ってそんなにあったんだね…もう意地悪しないでよっ』
ソファーに凭れて本を読んでいた彼は、目線を上げて私が焦るのを愉しげに見ていた。
ちゃんとこっちを向いてくれるのは嬉しい。
でも、解ってる癖に正解を言わないのは意地悪だ。
「お菓子会社の戦略に乗る気はねーからなぁ」
『そういうと思ってね、手作りしたよ』
「…どんだけだよ」
朝から細長いクッキーを焼いて、真君が好きな苦いチョコでコーティングしたお菓子。
段々楽しくなって、ホワイトチョコやイチゴチョコなんかのも作ってしまった。
「甘い匂いしてたのはそれか」
『そうだよ。ね、お茶の時間にしよ?』
色とりどりのスティック菓子を並べてコーヒーを出せば、真君は呆れたように笑いながら本を閉じる。
「張り切りすぎだろ、この量」
『細くしたら思ったより作れちゃって』
「ふぅん」
それから、お菓子皿を見てまた笑う。
おもむろに伸ばされた指は、意外なことにイチゴ味を掴んだ。
隣で少し驚いてみていれば、彼はそれを私に差し出す。
『え?』
「これは自分の為に作ったんだろ?ほら、口開けろ」
空いた左手を私の頬に這わせて、ピンクのそれは私の唇をトントンと叩く。
『ん。………ん?』
なんか恥ずかしいな。なんて思いながら口を開いた。
くわえるか噛みきるかで離して貰えると思っていたそのお菓子は。
咀嚼中も唇に宛がわれたまま。
「まだ残ってるだろ?」
ニヤニヤとピンクのチョコを押し付ける真君は凄く楽しそう。
押し付けられる私は凄く恥ずかしい。
だって、あと数センチで真君の指にたどり着いてしまう。
『んん、ん!』
躊躇って噛むのを止めれば、チョコのなくなった取手部分が口に押し込まれた。
押し込む時に触れた指は、残ったチョコを拭うように唇をなぞって。
真君が見せつけるようにその指を舐め上げるから、咀嚼もままならないままそのお菓子を飲み込んでしまった。
『っ!!』
「ふはっ、お前いつもそんな顔でキスしてんのか?」
『え…なっ…それ、見るために?』
「いや?ただそう思っただけ。中々そそる顔してたから」
『~っ、狡いよ!真君も、ね?』
ああ、もう、恥ずかしい。
いや、真君とキスしたりスキンシップしたりなんていうのは好きなんだけど。
それが照れるか照れないかは別の話で。
仕返しに、とビターチョコのお菓子を手にした。
それを彼の口に運ぼうとすれば、やんわりとかわされる。
「もっと上手く誘えよ」
そう言って導かれるのは私の口元で。
(あ、れ?なんか、嵌められた?)
取手をくわえる形になった私は、両手を真君と指を絡めるように繋がれて。
どうにももう身動きがとれない。
「仕返しのつもりなら、ちゃんと目、開いてろよな」
ああ、これは有名なあのゲームだ。
そう理解した時には、チョコがついてる方を真君がくわえていて。
もう噛みきって離してしまいたい。
だって、伏せられた長い睫毛も、艶やかな唇も。色っぽくてどこを見ていたらいいのか解らないのだ。
それでも、目を瞑るのはなんだか悔しくて。
必死に目を開けていたのに、あと一口分で真君は動きを止めた。
『…?』
不思議に思っていれば、真君は伏せていた目を開けて目を合わせる。
『っ!』
それから、その一口はあっという間に消えた。
代わりに押し付けられる唇からは咀嚼と嚥下の振動が伝わってくる。
それが終わると、唇の内側に下を這わせて。まるでお菓子がないのを確認したかのように口を離した。
「ごちそうさま、うまかったぜ?」
『…ぅ…ぁ』
「ふはっ、なんだよ?これがしたくて作ったんじゃねぇの?」
『違うよ!あ、や…真君としたくないとかじゃないんだよ?でも、そういう意図があったわけじゃ…』
あたふたする私を、真君はやっぱり愉しげに見つめて。
絡めた指をほどくこともせず、優しくまた唇を寄せた。
「ああ、知ってる。俺がしたかっただけだ」
そんな狡い答があるだろうか。
『…っ、馬鹿、意地悪、…大好き』
「はいはい。必死に目を開けてるお前も可愛かったぜ?」
『み、見えてたの!?』
「ああ」
もう、ポッキーの日なんてしない。
(……多分)
(…きっと)
(…………でも、楽しかったしなぁ)
fin