花と蝶 番外
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《ヤドリギ:2019まこたん④》
※キャンパスライフスタート、strky-r+k前提の大学3年生
「18時に焼き鳥屋へ集合」
先輩方の進路決定祝いに開かれた飲み会、どうやら開始には間に合わなそうだ。
(当日、今から面談しろとか馬鹿じゃねぇの?レポートは随分前に出しただろうが。大体今日は予定があるっつってんのに″俺明日から出張だから″とか知らねぇしふざけんな)
急遽、教授との面談を組まれて。
最悪1時間は遅れそうだ。
その旨を、とりあえずメンバーに連絡して。
気だるい気持ちで教授の研究室を訪ねた。
それが、夕方の話。
日も落ちて、飲み会が始まってから30分経った頃。漸く面談が終わった。
携帯を取り出して今から向かうと伝えようと思ったら、水戸部から着信が入ってる。
(…?あいつ電話できるのか?)
不思議に思って折り返すと、ワンコールもせずに通話になった。
「水戸部?」
「…!…っ?…!!」
なにやら必死なのは解るが、何を言いたいのかはさっぱりわからない。
「雨月は?もうそこに居るだろ、何かあったか?」
要領を得なくて、先に向かってる筈の雨月を呼ぶと、電話の向こうでガタガタと音がして。
『…いま、真君の声がしたぁ…』
間延びした雨月の声が聞こえた。
「…よくわかんねぇけど、急いで向かうわ」
足早に向かったとはいえ、着いたのは19時頃。
人数がそれなりにいたせいか、個室らしい席に通されていた。
「遅くなりまし…っうあ!?」
部屋の襖を開けて、長机と見知った顔をいくつか確認している最中。
死角から飛び付かれた。
ガバッ、という効果音が適切だと思える程、唐突に、勢いよく。
『まことくん!』
飛び付いてきたのは雨月。
声と顔で認識すると同時に、疲弊した水戸部の顔が目に入る。
「ん…え、なに、どうした」
『真君…あいたかったぁ…』
「本当にどうしたんだ、酒か?どんだけ飲んだんだよ」
人前で抱きついたりしない雨月が、俺にくっついて離れない。
僅かにアルコールの匂いもするが、こいつは酒に強かったはず。
外で飲むのは初めてだが、家ではワインのボトルを空けるくらいなんてことない奴だ。
それが…
「は?嘘だろ?それ1杯か?」
水戸部が指差すのは、カクテルグラス。
あと4分の1残ってるそれ。
色味と匂い的に…ファジーネーブル?
大して強くない甘口カクテル。
水戸部が必死に頷いてるあたり、本当だろう。
「はなちゃん、めっちゃ酒弱いねんな」
「半分の段階で目が座ってきてたな」
「苦手ならノンアルでいいって言ったんじゃが、勿体ないから…って飲み進めて」
「そこから″真君がいない″ってキョロキョロし始めてよ」
「水戸部君と森山さんが″遅れて来るよ″って何回説明しても″どこ?″って泣きそうにしてたんだよね」
今吉さん、笠松さん、岡村さん、宮地さん、氷室が順々に説明してくれて。
水戸部の後ろにいた森山さんが
「お前が電話かけてきた時は″真君探しに行きます″、″家に帰って真君にご飯作らなきゃ″って店出ようとしてたんだぞ……危なくて外出せないと思ったから、止めるの必死だったわ」
と、げんなり教えてくれた。
「…止めてくれてありがとうございます。ご迷惑おかけしました」
「おー、旦那らしい挨拶しよるな」
「うっせぇ」
『まことくん…』
「はいはい、ここにいるぞ」
抱き付いたままの雨月を支えながらとりあえず座って。
祝いの席だと言うのだから、彼女の飲み物を借りて乾杯に参加した。
時間が経てば酔いも醒めると思って、水戸部が取り分けてくれた串を口に入れつつ様子を見る。
『…まこくん…』
彼女も食べるのかと口元に運んでやるのだけど、首を横に振って余計しがみつくだけだ。
『まーくん…』
少しずつ砕けていく呼び方に、なんとなく危ないものを察して。
「…すみません、今日はこいつ連れて帰ります」
「おん。せやな」
「雨月が覚えてたら気にすんなっつっとけ」
「ありがとうございます」
「マコトはハナちゃんの事となると真面目というか、COOLだよな!」
「うるせぇ」
体にしがみつく雨月をとりあえず右腕に移して、歓楽街を抜けて家路につく。
『まことくん、まことくん…』
「…いる」
『ねぇ、まーくん』
「雨月。家まで我慢しろ、できるな?」
『………うん』
ぎゅっと、抱き寄せられる感覚と、強い視線を感じるけど。
それを押し留めて、帰路を急ぐ。
「ただいま…っ、と」
『ただいま、おかえり』
玄関を開けてリビングまで駆け足で流れ込んだ俺たちは、ソファーに崩れるように座り込んだ。
「……淋しかったのか?」
『だって、すぐ、会えると思ってたのに、居なくて、来なくて』
「…そうか。遅れて悪かったな」
目を潤ませて訴える雨月と向かい合って、両手を繋ぐ。
酒に弱くない雨月のことだ、多分、酩酊してる訳ではないのだろう。
アルコールの作用は気分の高揚でも解放でもない。
増幅だ。
楽しい気持ちで飲めば一層楽しく、暗い気持ちで飲めば一層暗くなる。
雨月は学校が終わってすぐ会える…と楽しみにしていたのを裏切られて、元々凹んでいるところへのアルコールだったから……あんな事態になったんじゃないか。
″俺がいない″というのは、雨月にとってトリガーみたいなものだし、尚更。
″会いたい″が増幅された結果だ。
そう思えば、宅飲みで強そうに見えるのは、元々俺にオープンで、二人っきりの時は俺しか見てないから変わりようがない…というだけかもしれない。
『ねえ、まことくん』
「ん…?」
『家まで、我慢したよ?』
「………」
『だから、まこと。お願い』
~キスしてください~
「…そうだな。我慢できたイイコにはご褒美あげないとな」
『ふふ、私、イイコ?』
「ああ。俺しか見えてない、馬鹿でイイコだ」
『えへ、えへへ』
「だが、もうひとつ。約束だ…俺の居ないところで酒を飲むな。それを守れるなら、ご褒美くれてやる」
『…?そんなことでいいなら、一生守るよ。だから、はやく』
「………そうか。なら、いくらでもしてやるよ」
それから。
彼女をソファーに押し倒して唇を貪ったのは言うまでもない。
fin
花:ヤドリギ
~キスしてください~
食:やきとり