花と蝶 番外
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年末、ぐっと冷え込んだ。
家路を急ぐ者、忘年会と称して飲み屋を回る者それぞれ。
その中を、前者として俺は歩いていた。
「ただいま」
『おかえり。寒かったでしょ、ありがと』
大晦日だったけれど、プリンターに忘れられていた年賀状を投函しなければならず、近くの郵便局まで。
「どういたしまして。その感じだと、飯は俺待ちだろ?」
『まあ…そうだけど。年越しそば茹でて、天婦羅揚げるだけ』
「なら、夕飯が先だ。楽しみにしてたからな」
『ふふ、楽しみだったのは蕎麦じゃなくて天婦羅でしょ』
コートとマフラーを脱いで、出迎えてくれた雨月を抱き締めれば。
冷たい、なんて言いながらも、可笑しそうに笑った。
『温かいお蕎麦と冷たいお蕎麦、どっちがいい?』
「温かい方がいいな。お前は?」
『私も温かいの』
テーブルに並ぶ蕎麦のどんぶり、卵の天ぷら。
さらに、薬味の刻みネギ、七味、柚子皮も連なる。
湯気を立てるそれらを囲んで、一年を思い返しながら談笑した。
『……色々なことがあったけど、真君と過ごせたからいい一年だった。ありがとう』
「ふはっ…どーも。来年も一緒に過ごす予定だからな。宜しく」
『うん。こちらこそ』
こいつが、雨月が笑って過ごせたなら。
それでいい、それだけで良い年だった。
俺だって、思うことは同じ。
だから、柄にもなく
「…初詣、いくか」
『え、今から?』
「二年参りがギリギリ間に合うか間に合わないかくらいだが…今年最後のデートと来年最初のデートが同時にできるぜ?」
食後、そんな提案をした。
『……それは、断れないなぁ』
「なんだ、断るつもりだったのか」
『だって寒いから…風邪引かせたくない』
「ふはっ、俺が誘ってんのに俺の心配かよ」
『あ…それもそうか。なら、是非連れてって』
「おう。…寒いのはガチだからな。防寒はしっかりしろよ」
コート、マフラー、ブーツ、帽子。
防寒着を纏って、最後。手袋だけは二人とも片手しかしなかった。
『……ふふ、期待してた』
「だろうと思った」
手袋をしなかった手同士は、するすると指まで絡んで。
足はそのまま玄関をくぐると、吐息が白く光る夜空の下へ歩みだす。
『…真君』
「ん?」
『……………月、綺麗だよ』
「………ああ、綺麗だな」
夜空には雲がかかって、月なんて見当たらなかったけど。
指先に込められた力で、意味合いは解ってしまった。
(あー…くそ、初詣とっとと終わらせて帰る)
(…早く…二人になりたくなった)
(本当、こいつの馬鹿は直らねぇ)
(…それも含めて好きなんだから、似た者同士…か?)
『………あ、日付かわった』
「今年も宜しくな」
『宜しくお願いします』
結局、初詣は最前列まで行かず、脇の賽銭箱に小銭を投げて。
雨月の甘酒だけもらって家路につく。
『甘酒、一口いる?』
「いらね」
『そっか…』
「…ああでも、味見」
『どうぞ…っ!?』
ただ。家まで待てなくて。
手を繋ぐだけじゃ満足できず、唇を摘まみ食いしてしまった。
「ごちそうさま。続きは家で貰うわ」
fin.