花と蝶 番外
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《キャンパスライフスタート》
※水戸部と今吉との邂逅
『ねえ、水戸部君って覚えてる?』
「ミトベ?」
『そう、誠凛の、センター?』
「…ああ、8番。水戸部」
『その人と学部一緒だった』
入学式を終えた夜、夕飯を食べながら今日の話をする。
控え室で、背の高い人がいるなー…なんて見ていたら向こうから声をかけてきた。
いや…声っていうか…肩をちょんちょんとつつかれて。
"霧崎の…?"
と首をかしげられたのだ。
「よくマネージャーの顔なんて覚えてたな」
『あー…なんかね、見たことある顔だなって見てて、名簿で名前と照らし合わせて思い出したらしいよ』
「ああ、"花宮"」
『うん』
「でも声かけるか?向こうからしたら関わりたくないだろ」
私もそれは思った。
水戸部君が自分で名前と高校を教えてくれてから思わず黙ってしまう。
けど、向こうも困った顔をしながら"あのね…"と続けたのだ。
"花宮…えっと、彼が、去年のインハイ予選で勝ったとき、真っ先に君の所へ行ったでしょ?それで、ちゃんと勝利を喜んでるように見えた。自分の為にも、君や、チームの為にも"
口ごもりながら、小さな声で水戸部君はそう紡いで。
"君も花宮も、幸せそうに笑ってた。だから、君が、花宮を…悪童を変えたんだと思って。最後、確かに因縁の試合だったけど、お互い全力で戦える舞台にしてくれたのは、君…だから。ありがとうって、言おうと…"
オロオロと視線を泳がせながら、彼はそれきり押し黙ってしまった。
『純粋にバスケが好きなんだろうね。許せるかは別として、それを伝えようとしてくれるなんて』
「……イイコチャンが」
『はは、久しぶりに聞いたね、それ』
眉間をしかめた真君を笑いながら、その後を思い返す。
黙ってしまった水戸部君に、私は頭を下げたのだ。
こちらこそ、最高の夏をありがとう…と。
『結局ね、これからも宜しく、ってことになったよ、うん』
「…まあ、そんなもんだろ」
『ああ、因みに。苗字が一緒なのは偶然か双子かって聞かれたから、籍入れたって素直に教えた』
「おい」
『いやぁ…水戸部君の声皆には聞こえないしいいかなって。そしたら少しびっくりしたあと、普通におめでとうって微笑んでくれた。いい人だよ、水戸部』
「…木吉といい誠凛はボケしかいねぇのか…」
『あー…たしかにちょっと天然かもね』
"じゃあ、名前で呼ばない方がいいね"
と、水戸部君は私の呼び方を思案し始める。
花宮さん…は真君を思い浮かべるからあんまり…
雨月さん…とか雨月ちゃん…も呼んでいいものか…
なんてうんうん唸っていたけど、落ち着いたのが。
『花ちゃん』
「ハナちゃん?」
『そう、花ちゃん。私のニックネーム』
"かわいいよね、花ちゃん"
ご満悦な水戸部君に異議を申し立てることもできず、替えの呼び方も思い付かず、私は"花ちゃん"になった。
…これが後に、大学でできた知り合い皆に定着してしまったのだから恐ろしい。
「…花ちゃん…ねぇ…」
『真君もこのパターンだと花ちゃんだよね。もしくはマコちゃん』
「マコちゃんは勘弁してくれよ」
『かわいいのに、マコちゃん…』
「やめろって」
嫌そうな口振りの割に笑ってみせるあたり、面白がってるだけなんだろう。
そんなマコちゃんは、何度か花ちゃん…と呟いている。
『…そんなに変?花ちゃん…』
「いや…やっぱりお前のが俺より"花"だと再認識しただけだ。…カワイイな?花ちゃん」
『…前も言われたね、私が花で、真君は蝶々。もしくは蜘蛛』
今度は私がクスクスと笑って、真君の目をじっと見つめてみる。
「…?」
『それは言い得て妙よ、確かにね。でも…真君も"花"。綺麗で、慈しみたくなる。私にとっては唯一無二の花』
「…っ」
『真君が持ってる沢山の蕾が、1つずつ咲いていくのを、ずっと見てたい』
だから、真君の話も聞かせて?
「…お前、狙って言っただろ…」
『ちょっとね。でも、本当だよ?言い方はカッコつけたけど、全部本心。ね、真君は、入学式どうだったの?』
こんなに胸を高鳴らせたのに、あんなにつまらなかった入学式の話をしなければならないのか。
俺は今日の昼間を思い出す。
「…学年に知り合いはいなかったし、式も取り立てては何もなかったんだが…」
『うん…?』
「サークルの勧誘が激しくてな」
王道から奇妙なものまで沢山。
体が鈍るのも嫌だし、あればバスケでもと彷徨いてたら…捕まったのだ。
「……あのサトリ、マジ妖怪だ」
『えっと、今吉さん?』
「バスケのサークルを見学に行こうとしたら待ち構えてたんだよ」
"花宮!来ると思ってたわー、バスケするんやろ?ならサークルなんてお遊びやなくてウチのチーム来ぃや"
『チームって、まさか…』
「strky。去年の試合の後もチームで活動してるんだが、メンバー集めは申請じゃなくて勧誘なんだと」
『へー…意識高いね。じゃあ、そこに?』
「入らねぇよ。バスケは嫌いじゃねぇが、暑苦しいイイコチャン達と真面目になんて無理」
似たような断りを今吉さんにもしたんだが、一向に引かない。
食い下がる食い下がる。
"頼むわぁ、樋口君が来れんくなって人足らんのや"
"なんで俺なんですか高校の後輩当たって下さい"
"あいつ浪人してもうてん"
"にしても!アンタも元PGで、4番の…笠松とか言う人もPGじゃねぇか。そんなにPGばっかりいるかよ!"
"なんや、なんだかんだ知っとるやないか。大丈夫、ワシも笠松もオールラウンダーやし花宮もせやろ?構わんて"
"あーもう、入らねぇっての!"
『…大変だったね』
「ああ。…正直あの人がいるから嫌だ」
『苦手だもんねぇ。…でも、真君がバスケするなら、お遊びじゃ物足りないんじゃない?』
「……別に、」
『だって、あんなに滾る試合をしたんだよ?きっと、馴れ合った練習も試合もつまんないと思うな』
「………」
『なんてね。真君は何でもできるから、新しいこと始めるのもいいと思うし、ゆっくり決めたら?バスケするなら…また見に行かせてね』
彼女はニコニコと笑いながら食後のお茶を淹れる。
…俺以上に俺を見てくれてる雨月が言うんだから、きっと物足りないとは想うのだ。
けれど、只でさえ学校が違って一緒にいる時間が減るのに、練習や試合で彼女との時間を割きたくないとも思って。
(いや…今まで一緒に居すぎたのか)
それを差し引いても、今吉さんと同じチームは勘弁だな。
と、温かいお茶をすすった。
_________________
翌日、水戸部君と新しく出来た友人とキャンパスを出ようとした時だ。
見たことある人物が校門に寄りかかっている。
『水戸部君、あれって…』
「…」
「なに、花ちゃんの知り合い?彼氏?」
『いや…違うんだけど…』
硬直した私に水戸部君も頷いて、"何でこんなとこに"と首を傾げる。
「お!待っとったで!ちょっと話があんねん、花宮のことで」
「あれ、やっぱり花ちゃんの知り合いじゃん」
『…あ、』
そこにいたのは、今吉さんだった。
花ちゃん、と呼ばれた私を暫く見つめて、ニタリと笑う。
「せや。だから時間もろてええ?……花宮?」
なんかお取り込みみたいだし、またね!
なんて友人は軽やかに帰って行ったけど、私は一体どうしたらいいの。
『…あ、の…』
「ワシが話あるゆうた花宮は真の方やったんやけど、君も花宮なんね…ふーん?ワシが覚えてる苗字とちゃうなぁ?」
『……お話って、なんですか』
「そない怯えんでええよ。勧誘手伝って欲しいだけやねん」
『勧誘…?真君のですか?』
「話早くて助かるわー。な、電話してみてくれへん?めっちゃ無視されとんのや…花ちゃんも見たいやろ?真君がバスケするとこ」
見透かすような口調に、真君が苦手だって言う理由がよくわかった。
わざと名前を使ってくるあたりが厭らしい。
「…っ」
「おん?あ、水戸部やん!丁度ええ、お前も入らん?strkyからの勧誘や」
水戸部君は必死に
"花ちゃんも困ってるし、勧誘って無視されるほどしつこくするものじゃないですよ"
と言ってくれたのだが、どうやら通じなかったらしい。
水戸部君への勧誘にも
"いや、あの、バイトとかあってあんまり練習ばっかりって訳にもいかないから…凄く嬉しいですけど…あの…"
という言葉は届いていない。
今吉さんは頷きながら顔合わせの日時を勝手に伝えている。
…私は、どうしよう。
真君にバスケして欲しいとは思うけど、強制したくはない。彼の人生だし、怪我とか…心配だし。
「隙あり」
『あっ!』
なんて思ってたら、携帯を今吉さんに取り上げられる。
こっそり真君にメールしようとロックを解除した瞬間だった。
そして、容易く着歴から"花宮真"を見つけて勝手にコールする。
「雨月?どうし…」
「よう花宮。今どこや?」
「はあっ!?なんでアンタが、おい、」
「ちょお携帯借りてんねん。花ちゃんにな。ゆっくり話しよう?せやなぁ…」
慌てふためく真君の声が聞こえて来る中、今吉さんは淡々と近くのファミレスを指定して電話を切る。
「これ。もうちょい貸しといてな」
なんて携帯を盗られたまま、私も大人しくファミレスに向かうしかなく。
心配して水戸部君がついてきてくれたのが本当に心強かった。
「…アンタって本当に!」
「おう、待ってたで」
「勝手に呼んだんだろうが!」
「ほんにな。素直に来て良かったわ。ほい、花ちゃん、携帯返す」
「………」
真君は息を切らせてお店に入ってくるや、私の携帯を手に弄ぶ今吉さんに青筋を立てた。
それから、元々今吉さんが奥でその隣に水戸部君、向かいに私が座っていたのだけど。私を一回立たせて真君が今吉の正面に座る。
この状況で一番とばっちりなのは水戸部君なんだけど、私が質問責めに合うのを必死に守ってくれてたから本当にありがたい。
今も、
"携帯よかったね。大丈夫、中を見られたりはしてないよ"
なんて、ちゃんと見張っててくれたらしい。いい人すぎる。
「てかいい加減諦めてください」
「そういうなって。チーム言うても練習やベンチを思ったらある程度人数必要やろ?東京で声かけられる後輩なんて限られてるし。水戸部はほんまラッキーや」
確かにstrkyは誠凛に伝ないだろうけど。
ラッキーはどうかと思う。
元より5人のstrkyから一人抜けてしまうのと、東京で後輩にあてがあるのは今吉さんともう一人だけらしい。
「水戸部むしろ誠凛のやつ連絡しろよ。眼鏡と鷲の目とか」
「…、……」
「「…?」」
『えっと、日向君も伊月君も、バスケで推薦とって大学行ったから、チームには所属できないと思うって。他の人は都外だったりするって』
「…なんで理解できるんだ?」
『なんでだろ?聞こえるんだよ』
なぜか皆には聞こえない水戸部君の声。
なぜか理解できる私が仲介すれば、「せやから花宮、な?」とまた今吉さんは真君に詰め寄る。
水戸部君が"役に立てなくてごめんね"と縮こまったので慌てて首をふった。
『水戸部君は悪くないよ。こっちこそ、巻き込んでごめんね、助けてくれてありがとう』
"まだ…助けられてない、けどね"
『ううん、そんなことないよ。十分』
私と水戸部君のやり取りをみた今吉さんは、おもむろに私に話かける。
「あー…花ちゃん?マネージャーやらへん?」
『へ?』
「いや、来れるときだけでええねんけど、水戸部とコミュニケーションとるのに必要やわ」
「『…』」
「な?やないと水戸部が返事する前に勝手にイロイロ決めてまうかもしれへんし?」
「……嫌なやり口ですね」
「なんのこと?」
ニヤニヤする今吉さんのそれは脅迫だ。
私がマネージャーにならなければ、水戸部君の意見は通らないかもしれない…ということ。
で、私がマネージャーをするのなら、真君は私を一人でそこに行かせはしないだろう。
それこそ水戸部君がまた守ってくれるだろうけど、それだって気に入らないはずだから。
"あの、気にしなくて大丈夫。僕もちゃんと所属するかわかんないし"
『でも、本音は?』
"…したいよ、バスケ…strkyなんて、夢みたいだけど、意思の疎通はちょっと不安。でも、上手く言えないのは僕が克服しなきゃいけないことだし、君は…花宮の為にマネージャーをしたいでしょ?だから、僕の為にしなくて大丈夫"
彼の言葉に私は胸が詰まってしまった。
困ったように優しく笑って、大丈夫、と繰り返してくれる。
こんな優しい人を理由に、餌に、使ってはいけない。
『………そうだね。私がマネージャーをするなら、それは真君の為だよ。どんな場所でも、どんなチームでも』
「「……」」
『今吉さん、水戸部君が言いたいこと解ってますよね?聞き取れてないだけで、ニュアンスは伝わってるから…わざと水戸部君が話してる時に被せて発言してる…違いますか』
「………なんや、バレてもうたん」
『…。なら私は水戸部君の通訳としてマネージャーをする必要はありません。……私を口説けるのは、真君だけです』
だから、どうしても今吉さんに噛みつきたくて。
私が持ってる数少ない牙を、棘を、晒していく。
真君に妖怪と言わしめる今吉さんなら、こんなの予測済みだと思ったけど。
…思った、んだけど。
「………因みに、花宮を口説けんのは?」
『私だけでしょうね』
「雨月だけだろうな」
「……わかった。水戸部、悪かったな。強制やないけど、興味あったら来てや。勧誘してんのはほんまやから」
はああ…と今吉さんは溜め息をついて水戸部君に謝った。
「…なあ花宮、ほんまに入らん?」
「……いくつか条件を出していいなら」
「え、ホンマ?」
「ええ…まあ、とりあえず」
雨月をマネージャーにしていいなら。
「…おま…性格一層悪なったな」
「いやいや、今吉サン程じゃありませんよ」
「…はあ……ええよ。花宮専属のマネージャーで構わん。ただ、あんまリア充晒すなや?ゴリラと女恐怖症とドルオタには刺激強いわ」
「…strky、大丈夫か?」
「色々アカン奴ばっかや。せやから花宮は割りと自由にプレイできる筈やし、水戸部大変かもしれんが皆面倒見ええさかい可愛がられるやろ」
今吉さんはまたポーカーフェイスというか、薄く笑った顔に戻って"ほな解散"と起立を促す。
コーヒー代を払ってくれたのでお礼を言いに近づいた。
「まさか花ちゃんに噛みつかれるとは思わんかったわ」
『…あ、すいません』
「ええよ。こっちも舐めとった。花宮が気に入るなんて、まして籍まで入れてまうなんてどんだけアホな娘やろ思ってたん。…今回は負けたわ、これからは仲良うしてや」
『はい、宜しくお願いします。あの、真君も』
「はは。面白くてついからかってまうねん。許してーな」
「あれがからかうの範疇ですか。携帯取り上げて拉致までして」
「拉致はまた大袈裟な」
今吉さんと、途中真君を交えてのやり取り。
含み笑いのようだけど、本当のことを言ってるんだろうなと思う。
水戸部君は、困ったように眺めている。
『水戸部君、本当にありがとう』
"こちらこそ。まさか花宮や今吉とお茶するなんて"
『そうだよね、私も不思議』
「……帰るぞ。…じゃあな、水戸部」
「……、」
ヒラヒラと私と真君に手を振ってくれた水戸部君は、"またね"の後に言葉を続ける。
"思ってたよりずっと幸せそうで、お似合いだね"
私しか聞こえないその声に、返事をすることもできず。
手を振りながら力強く1回うなずいた。
(…勝手に決めて悪かったな)
(いいよ。最初から、こうなると思ってた)
(最初から?)
(そう。今吉さんに勧誘されたって聞いたときから。プロセスは想定外でも、結果は今吉さんの計画通りになったでしょ)
(…。結局嵌められた…と)
(ね。でもちょっと違う)
(なにが?)
(嵌まってあげたの。これなら、私も自由にチームで真君の傍に居られる)
(……ふは…、よく考えたな)
fin.