赤の似合う君と
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06
《逆転の水族館・後編》ヒロイン視点
水族館だなんて。
何年ぶりだろうか。
「丁度イルカショーのようだが見に行くのか?」
『ううん、人が捌けてるうちに見て周りたい』
ひんやりとした空気と水の匂いに胸を高鳴らせて、水族館のパンフレットを片手に落ち着かない怜侍をみて微笑む。
『早く行こう?』
腕を掴んで先を進む。
小さい水槽を一つ一つ覗き込みながらあれこれと感想を述べる。
「グラスフィッシュ…?」
『透き通ってるんだよ、ほら』
「骨が見えるほどな…」
『あ、磯巾着』
「気味が悪いな」
『そう?可愛いよ?』
そして、大きな水槽にたどり着く。その中では何種類もの魚が群をなしたりしながら泳いでいた。
『いっぱいいるね…』
「食物連鎖が起きたりしないのだろうか」
『ちゃんと餌もらってるから大丈夫じゃないかな』
くすり、と思わず笑う。怜侍はいつだって怜侍だ。
「わ、笑わないで頂きたいっ!」
『馬鹿にしてるんじゃないよ、可愛いなって』
「そのようなアレは…」
『ふふっ』
掴んだままだった腕をまた引っ張って最後の水槽まで来た。
円柱状の長い、大きめな水槽にクラゲが漂っている。ほの暗い中に、ユラユラと白いクラゲが何匹も何匹も……。
「綺麗だな」
『…うん』
ここに着て怜侍は初めて肯定的なことをいった。
特に珍しいわけでもない、ミズクラゲ。だけど、凄く穏やかな気持ちになれた気がする。
「海月(クラゲ)、とは良く言ったものだな…」
『ん?』
「海の月、似ているではないか」
ぼんやり光るように見える様は確かにそう思わせた。
『そうだね…』
『ミズクラゲってね、ヨツメクラゲとも言われてるんだよ』
「四つ目?」
『そう、この模様が目に見えるんだって』
怜侍は暫く目をこらして海月を見ていた。
海月の頭には、円の模様が4つある。
「私には…花に見える」
独り言のように呟いた彼に、またもや、くすっ、と笑ってしまった。
「だからっ」
『違うの、私も同じように思ったから』
「…」
『花紋みたいだよね』
うっとりと水槽に片手をつき、海月を見遣る。
依然として怜侍を掴んでいた左手。
急に掴むものを失ったかと思うと少しひんやりした温もりに被われた。
指を絡めて、緩く握れば彼がこちらを向いた。
『今日は君と来れてよかった。ありがとう、怜侍』
彼の手に少し力が入る。
「私も、貴女と来れてよかった。ありがとう、…雨月」
ゆっくり、どちらともなく出口へ向かう。
『また、来たいな』
「また来よう。必ず。」
心のどこかで、この手が離れない事を祈った。
「今日は、楽しんで頂けただろうか」
『うん。とっても』
帰りに寄った小さなレストランで食事をしながら会話をする。
少し安堵の表情を浮かべる怜侍。
「私はつまらない男だからな、安心した」
『なんでそんなこというかな。告白してくれた時はあんなに強気だったのに』
「そ、それは言わないで頂きたいっ」
赤くなって目を逸らす彼はなんとも可愛い。
『月に一度…って訳には行かないだろうけど、たまにはデートも楽しいね』
カルボナーラをくるくると巻きながら問う。(何となく、水族館のあとにボンゴレやペスカトーレを食べる気にはなれなかった)
「お互い忙しいからな。…仕事場で会えるのだから、それはそれで良い事なのだが…」
『そうだね、その点は幸せかな』
ゆっくり微笑めば、怜侍はミネストローネを掬う手を止めて小さく微笑み返してくれた。(彼もアクアパッツァを頼もうとしていたが変えた)
「次は行き当たりばったりではなく、計画してから来よう」
『次は怜侍の行きたい所がいいな…』
「……………」
『…植物園行きたいな』
本当に何も思いつかないらしく眉間を寄せた彼に思わず提案した。
「…すまない」
『気にしないでよ、怜侍とならきっとどこだって楽しいから』
ふふふっと笑えば"私もだ"と小さく返してくれた。
私は傾き切れずに揺らいでいる。
神乃木さんに向ける思いと。
御剣君…怜侍に向けている思いと。
きっと。
自分の中で答えは出てる。
まだ。
決断することができないだけで。
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