赤の似合う君と
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05
《逆転の水族館・前編》御剣視点
『ねぇ、御剣君。デート行きたいな』
突然の言葉に"ム"とだけ返す。
『付き合ってるんだしさ。御剣君のこと、紅茶以外にも知りたい』
確かに付き合い始めて二ヶ月あまりになる。
はにかみながら、そう言われてしまった。
(デート…とはどうしたものか…)
きっと彼女のことだから、前回の法廷から塞ぎこんでいる私に気分転換でも、と思ってくれたのだろう。
が、生まれて此の方女性と出かけた事はない。
結局何も纏まらないまま当日になってしまった。
珍しく土曜に揃って休暇が取れた。この日が書類に追われない為に、ここ数日はスケジュールが過密になっていた。
待ち合わせた駅前に着いたのは30分前。自分でも早く着きすぎてしまったかと思ったのに、先客がいた。
いつもの黒いレディーススーツではなく、白いブラウスにソーダグレイのプリーツスカートを着ていた。
『あ、御剣君!』
「すまない、待たせてしまったか?」
『ううん、私が早く来過ぎたんだよ。まだ30分もあるんだよ?』
少し眩しそうに手を翳しながら近づいてきた彼女。
『…なんか、御剣君の私服新鮮だなー』
「普段は検事局でしか会わないからな。[#dn=1#]検事も、その…私服、似合っている」
「可愛い」だとか、「綺麗」だとか。かける言葉はいくらでもあるのに口にできなかった。
『…ありがとう//』
それでも、頬を染めながら小さく呟かれるとこちらも照れ臭くなってしまう。
『どこ行こうか?』
「貴女の行きたいところへ連れていこう」
近くに車は止めてある。なんて思っていたら
『それは私の台詞。御剣君の行きたい所に連れてってよ。恋人を連れて行きたい所に』
と笑われてしまった。
「ム…」
行きたい所…思いつかない。
連れて行きたい所…解らない。
『ふふっ、真面目だなぁ御剣君。休日どこも行かないの?』
「休日は…裁判の書類に目を通したり、茶葉の取り寄せをしている…」
『君らしいねぇ…。じゃあ…水族館行きたい』
「水族館?」
『そう、水族館』
たった二つといえど。年上には見えないあどけない微笑みを浮かべる彼女。
「行こう」
車まで案内しながら、どこが近いのかとか、どこが喜んで貰えそうなのか。
思考を巡らす。
大して入っていない娯楽の知識から、遠足で行った水族館を思い浮かべる。
『御剣君の車ってスポーツカーなんだ…高そう…』
そう言った彼女の言葉に我に帰り、助手席のドアを開ける。
『流石、紳士』
なんておどけながら、助手席に乗った彼女。
自分も運転席に乗りこみ、地図でざっと場所を確認する。
『近くにある?』
「近い、とは言えないが…1時間程で着くだろう」
『じゃあ、ドライブも出来ちゃうね』
と、笑みを浮かべた。
「…」
『…』
車を走らせて20分。
会話がない…。CDは積んでいないし、ラジオというのもおかしな気がする。
決して嫌な沈黙ではないのだが…
「申し訳ない、その、会話が苦手なのだ…」
『てっきり運転中は喋らない質なのかと思ったよ』
軽く笑う彼女を少し見遣る。
「何か、その、話すことがあれば…」
『、クスクス…御剣君って面白いね』
「羽影検事!///」
『あ、じゃあその件について話そう』
「?その件?」
ウインカーを切りながら問えば、"うん"と返ってきた。
『二人の時とか、プライベートの時は"検事"ってつけないでよ』
「…羽影……殿」
『殿、はいらないって。もっと、打ち解けてほしいんだけどな…』
「ム…」
苗字の呼び捨ては如何なものか…。かといって名前では呼べない…。
『私が御剣君って呼んでるからかなぁ…』
信号が赤になった。停止線で車を止める。なんだか、今日は道が空いている。
『怜侍…』
ぽつり。と呼ばれた。
「…っ…雨月…」
必死に絞り出した声は少し掠れた。恥ずかしい。とか、くすぐったい。とか、色々な感情が入り混じる。
青くなった信号を確認して前進する。この分ならすぐに着くだろう。
『なんか、恋人みたい…』
「恋人、ではないのか?」
『ううん。私は怜侍の恋人。怜侍は私の恋人』
どこか面白そうに笑って、"あ、見えてきた"と、看板を指差す彼女。
…胸が、熱い。
今からこんな風で、本当にデートなどできるのだろうか……。
。